
「初めて、か」
「何?」
「オレにはひと目惚れしてくれなかったんだって思って」
「辰也くんは…ちょっと顔が良すぎて胡散臭かったから」
「それは複雑だな」
「でも辰也くんだってわたしにひと目惚れじゃないでしょ?」
「あれ、言ってなかったっけ?ひと目会った時からに惹かれてたって」
「…ところで!このソファー座り心地良いと思わない?ふわふわ〜」
金曜日の夜、仕事でヘトヘトになって帰ってきたわたしを待っていてくれたのはポストに投函された不在票だった。5日間蓄積された疲労があっという間にどこかへ飛んでいったのが自分でもよく分かった。さっそく配送業者に連絡をして土曜日の朝、ようやくわたしの傍にやってきてくれたのだ。そして届いたばかりのソファーを彼にお披露目という名の自慢をしたくて、部屋に招いた。もともと今日は会う予定だったけど詳細は決まっていなかったのでちょうど良い。このソファーに合うようにカーテンの色もカーペットの色も変えてみた。ついでにファブリックパネルも手作りして、まるでソファーが物語の主人公であるみたいに引き立っている。その存在感と言ったら、恍惚を感じさせるほどだ。
「確かにすごく落ち着くね」
「こうするともっと落ち着くよ」
わたしひとりではそんなに沈まないソファーがふたり分の重みを感じてるみたいだ。隙間が存在しないようにぴったりとくっついて、五本の指を絡め合って、彼の肩にそっと寄り添ったらさっきよりずっとあたたかい。澄んだ青空が窓から見えて、日差しが眩しくて、ゆっくりとした平和な時間がちいさい部屋の中で穏やかに流れる。こうやって何もしない時間がどれだけしあわせなことかを思い出させてくれたこのソファーに改めて感謝する。
新しいソファーが来たことも、部屋のインテリアを変えたことも、彼とこうしてのんびりとした時間を過ごせることもすべてが嬉しくてひとりニヤニヤとした笑みをくちもとに浮かべていると、彼がもぞりと動いた。あ、と思った瞬間にはちゅとやさしいキスをされていて、ニヤニヤした笑みがよりニヤニヤしてしまいそうになったので、誤魔化す為、顔を隠すようにぎゅっと彼に抱き着いた。
「やっぱり落ち着かない」
「ひどいな、煽ったのはじゃないか」
髪を耳にかけられた時に触れられた指が、わたしのこころを撫でるみたいにくすぐったくて身をよじるとその隙を狙うようにわたしのくちびるが彼のくちびるにつかまる。ゆっくり出来たのなんて、ほんの少しだけ。ざわめく心臓ごと、深く深く埋まっていく。