ベッドの上で寝転がりながら頬杖をつくと、肘の部分に集中してシーツに波が走る。特に何らかの思考を働かせようとは思っておらず、ただ寝起きで微睡んでいるこの頭が覚めるまで、隣で寝ている彼の顔でも眺めていようと思った。そういえば、彼と一夜を過ごした後はほとんどと言って良いほど彼の方が早く起きているので、こうやって彼の寝顔を見る機会は初めてと言っても過言ではないかもしれない。暫く見ていると、世の中は不公平じゃないだろうかという幼稚な感情がふつふつと生まれてきた。だって無防備な顔なんて、普通はどんな人間でも崩れるものだと思っていたのに。彼の寝顔はわたしの常識を見事に崩壊させた。寝ていても一切崩れない端正な顔立ちは寝ているせいか少しだけ愛らしさを感じさせる。それなのに、どこか色っぽくて見てるだけでドキドキしてしまう。彼は寝ているというのに、なんだか勝手に恥ずかしくなって、枕に顔を埋めて足をバタバタさせてしまった。そのせいか、彼がもぞもぞと動き出した。

…?」
「あ、ごめん…起こしちゃった?」
「いや…どうかした?」

 まさか「貴方の寝顔の美しさと色っぽさに嫉妬心を抱きながら見つめてました」とは言えないし、かと言って「貴方の寝顔が素敵だったので興奮してました」なんてもっと言えない。頬杖をしてる分、普段のわたしたちとは逆で寝ている彼が見上げてくるような形になる。視線が重なってしまえば逸らすことなんて出来ない。

「辰也くんって寝顔も崩れないんだね」
「そんなことないと思うけど」
「そんなことある!すごく色っぽかった」
「それは反応に困るけど…の寝顔だって可愛いよ」
「嘘だ!この前わたしに「口開いて寝てたね」って言ってたじゃん!」
「うっすら唇が開いてて可愛かったよ、って言ったんだよ」

 最初は寝顔を見られるのが恥ずかしくて仕方なかったのに、いつの間にかそんなこと気にせず眠るようになっていた。こころを許した、と言えば聞こえは良いかもしれないけど、わたしの寝顔なんてどうせ不細工なんだからもう何だっていいやと卑屈になってしまったのも事実。それなのに彼はわたしの間抜けであろう寝顔さえ可愛いと言い、もしかしたら気を遣って言ってくれてるのかもしれないけど、それでも可愛いなんて言われるとドキドキしてしまうから我ながら馬鹿だなあと思ってしまう。

「くやしい…わたしも色っぽくなりたい」
は十分色っぽいよ」
「どこが?」
「例えばこういう時とか」

 寝起きとは思えないくらいの力強さで頬杖をついていた腕を引っ張られ、バランスを崩した身体はシーツの波の中へ連れ込まれた。いつも暗くしてもらってるからあまり気づかなかったけど、天井ってこんなに白かったんだ。ピントを天井から彼に合わせると微笑んだ顔をしていて、その表情はやっぱり艶っぽい。ゆっくり重ねられた幾度のキスが自然の摂理とでも言うかのように濃くなっていくと同時に、身体のラインを撫でるように触れられ熱くなる。条件反射みたいに吐息みたいな声が漏れると「ほらね」と言われた。何が「ほらね」なんだか。

「ずっと色っぽくいられたらオレの心臓が持たないよ」

 どうやらわたしの色気は彼によって生まれるらしい。言い換えればわたしの色気は彼によってしか生まれない…のかもしれない。けれど、わたしだって普通に「あの人、大人っぽいな」とか「あの人、色っぽい」とか周りに言われてみたい。彼の前じゃないと出せない色気に意味はあるのだろうか?彼にそう問えば「オレ以外の前では必要ないんじゃないかな」と意地の悪い艶っぽい笑みを浮かべながら独占欲を垣間見せる発言をしてきた。