小枝を踏むパキっとした音が聞こえた。つい最近まで金木犀の香りにうっとりしていたと思ったら、いつの間にか木にくっついていた緑のたくさんの葉っぱたちはいつの間にか色を変えてアスファルトの上に落ちてるし、ワイシャツだった制服はいつの間にかセーターを着るようになっていた。朝、家を出た瞬間に感じる冷たい風がひんやりとしていて、つい身震いしてしまうことも多い。帰りだって同じ。いつの間にか陽は短くなっていて、17時にもなれば深い色に包まれた街には人工の光が灯る。

「だんだんと冬のニオイがしてきたねー」
は冬好きだっけ?」
「うーん…寒いのは苦手だけど、こたつでアイスとか食べてるとしあわせだから迷うなー」
らしいね」

 こうして二人で一緒に帰れる日は多くない。けど、辰也くんが家までわたしを送ってくれるこの短い時間がわたしは好きだった。その日にあった出来事や本当に他愛もないことを話す時間でさえ不思議と楽しくて、たまの休みに二人でどこかへ出掛けたりするのとはまた違う、特別な時間のように思えるから。
 風が肌に触れると寒くなって、セーターの袖をすこし伸ばす。こういうことばっかりしてるから、すぐにセーターが伸びちゃうんだろうなと思うけど、寒さには変えられない。それでも我慢出来なくて少し身震いしていると、やわらかくてあたたかいものがわたしの首を風から守るように巻きついた。

「風邪引いちゃうから」
「…ありがとう。お言葉に甘えマス」
「どういたしまして」

 そう言って風が隙間から入らないように自分のマフラーをわたしの首元に巻いてくれた辰也くんは、風が頬を撫でるみたいに当たり前のようにさらっとわたしの頭を撫で、再び歩き出す。首にマフラーを巻いただけなのに、びっくりするくらい寒くなくなった。ふんわりと辰也くんのニオイがして、妙に照れくさくなる。そんな気持ち悪い顔を隠すため、くちもとをマフラーに埋めると、わたしの挙動不審な様子に違和感を感じたのか「どうかした?」と聞かれてしまったので慌ててて「あったかい」と答えると「良かった」と笑ってくれた。
 ふと、手を繋ぎたいなーなんて思ってしまった。今までだって手を繋いだことは何度もある。けど、毎回と言って良いほどそれはもう自然に辰也くんがわたしの手をとってくれるので、わたしから辰也くんの手を握ったことは一度もない。別に辰也くんの手が冷たかろうが温かろうがどっちだって良い。ただ純粋に触りたいなー…と思ってしまった自分を意識すると恥ずかしくなるけど、本能には勝てない。手を繋ごうとする行為がこんなにドキドキすることなんて知らなかった。もしかしたらわたしだけかもしれないけど。手の平ごと繋ぐ勇気がなくて、辰也くんのひとさし指から小指4本をぎゅっと握った。辰也くんの手は冷たいし、さっきまであんなに寒かったのに心臓だけがぽかぽかと火照ってる。変な子に思われたらどうしようか思って何も言えずくちもとはマフラーに隠したまま、地面だけを無言で見つめながら辰也くんの指をぎゅっと握る。見えないけど、辰也くんがふっと笑った気がした。ぎゅっと一度握り返されて、辰也くんのキレイだけどごつごつとした指とわたしのこどもみたいな指が繋がって絡んで、お互いの手の中には風さえも通さない。

「珍しいね。嬉しいけど」
「べ、別に。マフラー貸してくれたし辰也くん寒いかなーって思って」
「…そっか」
「あー!何その笑い!本当だもん、あっためてあげようと思っただけだから!」
「うん、ありがとう。じゃあオレもお言葉に甘えることにするよ」

 冬は、すこしだけわたしを大胆にさせてくれる。