無機質な空間。モノトーンで揃えられたインテリアにセンスは感じるけど、どこか冷たくてさみしい。生活感なんて皆無の静かな部屋で、男と女の本能めいた行為をしていることに少し違和感があるものの、やめることはなかなか出来ない。

「考え事なんて余裕やなあ」
「えっ…ぁっ」

 ここはマンションの1507室。わたしが住んでいる1506室の隣の部屋。1DK〜3LDKの部屋が揃ってるこのマンションにはひとり暮らしの人もいればファミリー暮らしの人もいる。初めてこの部屋に入ったときは、隣なのにデザインも間取りも何もかも違うから、まるで別の世界のように思えた。

「あんま声出すと隣の旦那に聞こえるで」
「そっ…そんな…っはぁ、壁薄くな…ッい」
「ならベランダに出てもええけど」

 南向きに位置する私たちのこの部屋のベランダには高層階の建物がないため、周りの目が気にならず景色が良いのが売りだった。夜は都会の夜景がキレイに見える。服が乱れたまま外に連れられ、焦がれそうなほど眩しい夕陽を見ながら後ろから鋭く深く突かれる。くぐもった声が出そうになるのを片手で抑えながら、気持ちの良い緩急に必死に耐える。

「悪い女やなあ。旦那に夕飯の買い物に行く言うて嘘ついて隣の部屋でセックスなんて」
「んっ、んっ…」

 3ヶ月くらい前だっただろうか。まだ息が白いくらい寒い時期で、旦那と突発的な喧嘩をして部屋を飛び出したのは。近くの公園のブランコでひとりゆらゆら揺れてるのを見つけてくれたのがコンビニ帰りだったらしい隣の今吉さんだった。時間が深夜手前くらいだったのもあって、心配してくれた今吉さんは(今思うと心配だったのか邪な思いがあったのかはわからない)、隣の自分の部屋で休んでいけば良いと提案してくれた。しかし、一歩踏み込んでしまったのが終わりの始まり。今吉さんはびっくりするくらい聞き上手で、ワインまで空けてくれたものだからグラス片手に色々話していたら、いつの間にかキスをしていていつの間にか裸になっていつの間にかセックスしていた。今までワンナイトやそういう行きあたりばったりでセックスなんてしなかった真面目なわたしが、まさか大して知らない相手と一線を超えてしまうなんてという後悔の念に駆られると同時に、旦那以外とそういう行為をしたのがひさびさで、ひどく興奮してしまったのを今でも覚えてる。今吉さんは「いつでも来て良いで」と言ってくれたが、当然そんなわけには行かず、しばらく大人しくしていたけど、わたしたちは同じフロアで隣同士。当然会ってしまうこともあって、そうなると自分の気持ちを止められなくなってしまった。旦那と一緒にいる時に会ったことがないのがまだ幸いかもしれない。嘘が上手そうな今吉さんだから、もし旦那といる時に会っても上手く誤魔化してくれそうだけど。

「はぁ…っ…ん…キスして…」
「わがままやなあ」

 身体を反転させられ、奥が見えない双眸に捕まる。ベランダに置かれていたオシャレなウッドチェアに腰を掛けた今吉さんに跨り腰を思いっきり掴まれる。でも、なかなか挿れてくれなくて、胸を執拗に舐められたり指を中で遊ばせてくれるだけ。挿れてくれるのかと彼のモノが入り口に近づいたと思いきや、亀頭でわたしのクリトリスを撫でたり刺激するだけ。

「ねぇ…もっ…イきたい…挿れて」
「挿れとるやん」
「指じゃなくて…ぁっ」
「オレはさんのその欲しがってる顔もっと見てたいんやけど」
「っ…お願っ…い…」

 ふっと笑った声が聞こえたと同時に「しゃあないなあ」という声が聞こえた。今までの緩慢な動きが嘘みたいにぐっと一気に入ってきたその刺激に、今まででいちばん大きい声が出てしまって慌てて口を抑える。そこからはわたしの短く途切れる声じゃなくて、肌と肌がぶつかる音が隣に聞こえてしまうんじゃないかと途中まで思っていたけど、そういう理性がすべて飛んでしまうのがこの人とのセックスだ。

 お互い果てたところでベッドに戻る。こんな関係だから終わったら解散みたいなあっさりとした感じを想像していた最初だけど、この人は終わったあともちゃんとわたしを甘やかしてくれる。頭を撫でてくれたり、やさしいキスをしてくれたり。まるで恋人同士だと錯覚させられそうになる。見た目も良くて、こんなマンションにひとりで暮らしてるくらいだから仕事だって良いはず。きっと彼にだって恋人のひとりやふたりいてもおかしくないと思うけど、それは考えないことにした。

「暗くなるのもあっと言う間やなあ」
「…!そろそろ帰らないと」

 買い物を行っていることになってるから時間に制限がある。昔は旦那も夕飯の買い物に付き合ってくれたのに慣れとはかなしいものだ。付き合ってくれれば、わたしはこんなことをしていないのに。なんて、自分を正当化するのも少し前からやめた。乱れた服や髪を直して、パンプスに脚を滑らす。

「わっ…」
「襟、乱れとったで」
「ありがとう」

 別れ際だというのに舌と舌が絡み合うどころではないほどねっとりとしたキスをされて、ハンカチでくちびるを拭うざるを得なかった。この人はわたしをどうしたいのだろう。わたしはこの人とどうなりたいのだろう。答えの出ない問いに終わりなんてきっとない。だからわたしたちはまたきっと繰り返す。

「ほなまた、隣の"花宮"さん」