今日何回目だろうか。この家からボン!という爆発のような音がするのは。 何故普通のチョコレートを作っているのにこのような音がしてしまうのかは、キッチンに立っている本人である でも分からなかった。しかし、原因を考えてるヒマはない。 約束の時間まであと1時間。それまでに何とか仕上げなければ、愛しの彼がここへやってきてしまう。


「ヤバイヤバイヤバイ」


いつもは独り言なんて言わない彼女だが、あまりの状況の慌ただしさとテンパり具合につい言葉を出さずにはいられなかった。 何としても彼が来る前に今作っているものを完成させて、キッチンも綺麗にしておかなければならない。 ああ、そうだ部屋も片付けなきゃ、と思うと広くもない1Kの部屋をバタバタと走る。

ピンポーン。

しかし、無情にも時間は過ぎていくものである。 まだ部屋の中の片付けが中途半端だが、客人は来てしまった。 まぁ、今更遠慮したり気を遣ったりする相手でもないし良いか、と思いチェーンがかかったロックを外し鍵を開ける。


「よっ」


そこにはいつものようにキラキラした笑顔をして、寒いのかポケットに片手を入れているディーノの姿があった。 彼を迎え入れたはいつものようにお茶の準備をして、ディーノはいつものように部屋の中の2人掛け用のソファーに座る。

「いやー、今日は寒ぃな」


そう言ってが入れたコーヒーを飲むと美味しそうに一息ついた。 ディーノは日本に来る度に彼女の家へ来る。 大体はビジネス関係で来ることが多いので、ホテルに泊まるか沢田綱吉の家に泊まるかだが、 こうしての家に来てまったりするのが何よりの至福の時だった。


「つーか、俺今日本当に何も用意してねーけど良かったのか?」
「はい、日本ではそれが普通ですから」


今日は2月14日。バレンタインデーだ。女性が好意のある男性にチョコレートを送る日。 だが、それは日本のバレンタインデーであり、世界には色々なバレンタインデーがある。 ディーノの出身であるイタリアのバレンタインデーでは少し違い、どちらかというと恋人同士でプレゼントをしあう日なのだ。 その話を事前にディーノから聞いていたは「日本のバレンタインデーは女性が頑張るものだからディーノさんは何も用意しないで下さいね」と言っておいた。 久々にディーノと会ったは色々なところに遊びに行きたいだろうが、ディーノの忙しさは知っている。 なのでバレンタインデーは2人でのんびり過ごそうと言うことになり、今に至る。


「じゃあ、そろそろお昼にしましょうか」


1日中、の家でまったりということを聞いて決めていたので、はお昼の準備を昨日の夜からしていた。 せっかく久々にディーノが日本に来たのだから、と和食を用意した。 テーブルの上に並べると「お、相変わらず上手そうだな」とディーノが言ってくれたので、「ありがとうございます」とは答えた。2人並んでご飯を食べる姿も久々とは言え、もう慣れていた。


「やっぱの作る飯は何よりも美味いな」
「ふふ、大袈裟ですよ」
「そんなことねーよ」


そう、実はは料理が大得意なのだ。一人暮らしということもあるが、この世代の一般女性に比べたらはるかに上手であり料理好きなのである。 別に料理の専門学校に通っていたわけでもないし、料理の仕事をしているわけでもない。 ただ単に趣味で始めた料理がいつの間にか得意分野になっていたのだ。


ご飯を残さず食べ終わったディーノは「ごちそうさま」と言い、満足そうにまたソファーへと座った。 が食べ終わった食器を片付け、洗い物をしようとすると「そんなの後ででも良いだろ?」とディーノに言われ、 輝くような笑顔で自分の隣をポンポンと叩き、ここへ来るようにと合図をした。 はしょうがないなぁという思いと、片付けをしておきたいという2つの思いに揺れたがディーノの笑顔には勝てなかった。 大人しくディーノの横にピタリを座ると、ディーノは肩に手を回してきてそのままの頭を撫でた。 それが心地よかったのかはコテンと自分の頭をディーノの肩にもたれるように寄り掛かり、甘い時間を過ごす。 いつものように他愛もない話をしたり、レンタルショップから借りてきた映画を見たりと、しっかりと恋人と過ごす時を満喫していた。


ふと気付くと3時になっていた。本来ならバレンタインのチョコは夜に渡した方がロマンチックではあるが、ディーノは忙しいためいつ仕事が入るか分からない。 急に携帯が鳴って、呼び出しされてしまうこともよくある。なのでちょうどおやつの時間にでもある今、渡してしまおうと思ったのだ。何より、そんなに出し惜しみするほどのものは作れなかったのだから、早く渡してしまいたいという気持ちも強かった。 はスっと立ち上がり、キッチンまでチョコを取りに行き、後ろ手に隠しながら再びディーノの隣へ座る。


「ん?どーした?」
「ディーノさん、これ・・・」


は恐る恐る、ディーノへバレンタインチョコを差し出した。 ディーノは顔を綻ばせ「ありがとな、」というとちゅ、と軽くキスをした。 割といつでもどこでもキスをしてくるディーノなので慣れたといえば慣れたが、誰も見ていないとはいえやはり少し恥ずかしいのだ。 「開けていいか?」と聞かれたので、言葉を発さずコクンと頷くとディーノはリボンをゆっくり解いていく。


「お、すげー」
「あ、恥ずかしいので出来ればパっと食べちゃって欲しいんですけど」
「んな勿体ねーこと出来るかよ・・・って!これが作ったのか!?」
「何とか・・・」


料理が上手なであるが、実はお菓子作りだけは違った。 一般的な家庭料理は大得意だが、何故かお菓子作りは苦手だった。謎の爆発音もそのためである。もちろんディーノもそのことは知っているので、バレンタインのプレゼントは当然市販の物だと思っていた。何とかディーノに手作りチョコを渡したいと思ったは、手に切り傷を作ろうが火傷をしようが何とか努力を重ね、形も味もまぁまぁの出来になった。


・・・頑張ってくれたんだな」
「・・・ディーノさんに私が作ったお菓子も食べて欲しかったから」
「すげー嬉しい。サンキュ」


そう言うとディーノは今度はの頬にキスを落とした。 その時、ディーノはの指が目に入った。普段はキレイで白くてディーノよりも小さい可愛い手が、指が怪我をしていた。 指先には絆創膏が負かれていたり、手の甲に火傷のような跡があった。 普段から料理をするは、滅多に包丁で指を切ったり火傷をしたりするようなことはない。 ディーノはすぐに、今回のバレンタインチョコを作るために怪我をしたと気づいた。 ディーノはの手をそっと取ると、は自分が怪我をしたことに気づかれたと思いすぐに手を引っ込めようとしたが、 ディーノの手はそれを許さなかった。


「ディ、ディーノさん!?」
「悪ぃな・・・いや、ありがとな」


ディーノはの手の甲に唇を落とすと、の顔は見る見る赤くなった。 そんな様子を見たディーノは一瞬にの腰を抱き寄せ、そのまま甘い雰囲気へと誘った。








指先に愛を残して
(怪我した責任はちゃんと取ってやるから、な?)




今回のネタは「ケガしてまでチョコ作る」です。銀ちゃんのあとに書いたせいかこれもまだダメさを引きずってますね。 せっかくの初ディーノで頑張りたかったのですがダメでした。でも、ディーノさんは基本色々書きやすい気がします。というか本当良い男! 包容力半端ないと思います!