「えっ・・・謙也ってそんなにモテてたっけ?」
「ふ、浪花のスピードスターをナメたらあかんで!」




四天宝寺中の朝。バレンタインの今日はだいぶ賑やかである。 校風が変わっているため、なかにはバレンタインを文化祭と間違えているのか、教室に華やかな装飾をしているクラス等もある。 そのようなクラスは周囲から「貰えない人は余計に可哀相やな〜」と思われているらしいが、それはそれで良いらしい。 とにかくイベントは何でもお祭り事のようにしてしまうのが、この学校の特徴だ。のクラスは至って普通だが、周りはやはりと言って良いくらいバレンタインで溢れている。 朝のHRが始まる前、の隣の席である忍足謙也が大量のチョコレートを抱えてやってきた。 謙也のクラスメイトでもあり、謙也が所属しているテニス部のマネージャーでもあるは謙也をよく知っているが、まさかここまでチョコレートと貰ってくるとは思わなかった。




「うわー・・・何で謙也なんかがそんなに貰ってるの?」
「なんかって言うな、アホ!ちゅーか俺がモテるんは当たり前やろ」
「感じ悪っ!」
もくれんねんやったら貰ったるから、はよよこせ」
「は!?何で私が謙也なんかに」
「お前マネージャーやろ!普通は義理でも配るんちゃう」




謙也は席に着くと、貰ったチョコをひとつひとつ見たり、チョコについていた手紙などを読んでいた。はそんな謙也を横目で見て、「何で謙也がモテるんだろう?」と思っていたが、忍足謙也は普通にモテるのだった。 有名・強豪のテニス部レギュラーであり、金髪で派手な見た目とは裏腹に意外と頭も良い。 また、明るいお調子者で、分け隔てなく色々な人間と仲良くしているため、基本人気が高いのだ。




「そうかな〜」
「まさか本当に用意してないんか!?」
「してないってば。それに皆いっぱい貰うから良いと思って。」
「信じられへん・・・」
「何でよ!謙也だっていっぱい貰ってるじゃん」
「まぁでもお前の旦那には敵わんけどなぁ」
「!・・・その言い方やめてよ」
「照れんなって!」




と謙也が朝からこのように下らないことで言い合いをしていることは多々ある。 クラスメイトからしたら「またやってるよ」という感じらしい。そしてこれを毎朝止める人物がようやく教室へ来た。




「・・・朝っぱらから元気やなぁ」
「おう、白石!相変わらずモテモテやなぁ」
「おはよ、蔵」




テニス部の部長であり、二人と同じクラス、謙也とは反対側のの隣の席、そして先程謙也が「お前の旦那」と言ったの恋人でもある白石蔵ノ介がやってきた。 白石は謙也よりも遥かに多い量のチョコレートをかかえ、机に座り中を見てみるとそこにも大量のチョコレートが入っていた。




「流石・・・」
「やっぱ白石には敵わんわぁ」
「ちゅうかもう置き場所ないねんけど」
「嫌味やわぁー!」
「謙也うるさいってば!」
「何や、白石がぎょうさんチョコ貰ってんの見て妬いとるんか?」
「何を今更。もう慣れたよ」
「ヒュー」
「(うざっ!)」




白石は見た目も完璧で誰にも優しい。謙也もモテるほうであるが、白石は遥かにその上を行く。 ただ、は発言していた通り、ヤキモチなどの感情は一切なかった。 付き合い当初は確かにあった。しかし元々、さっぱりした性格ということもあるし、何より白石のあまりにモテすぎる状況にだんだんと妬いても仕方ないと思えて来たので大して気にしないことにした。 現に、白石とが付き合ってることはほとんどの生徒が知っているが、白石は今でもチョコを大量に貰い、告白も受ける。




「流石にも白石には用意しとるんやろ?」
「えっ・・・」
「え・・・ってまさか用意してないとか言うんか!?彼氏に!?」
「・・・・・」
「うっわー!ビックリやわぁ」
「だって蔵こそいっぱい貰うから要らないと思ったんだもん」
「そういう問題じゃないねん」
「じゃあどういう問題!?」
「こら、二人とも。そろそろHR始まるからその辺にしとき」
「「ふん!」」




と謙也の言い合いは白石の一言で見事に止まった。 そのあとすぐ、謙也は他のクラスメイトに話し掛けられ、の席とは反対の方に体を向けて喋っていた。はそのまんま前を向いていると、白石がの頭の上に掌を載せてきた。が反応する前にの耳元で「俺、気にしてへんから。な?」と誰にも気づかれないように言ってきた。は何も言わず、コクンと頷くと白石はの頭を撫でた。一番後ろの席で良かったと、は心底思ったのだ。

そして、そのままHRが始まり、授業が始まり、白石と謙也は休み時間の度に呼び出しを受けたりしていた。 授業→呼び出し→授業→呼び出しのループで、ようやく放課後となった。 白石たち3年生は部活はもう引退している。しかし、たまには顔を出しているようだった。 今日は2人とも持ち切れずに持って帰れないチョコを一旦部室に置いていくらしい。




「ほんなら、俺一旦部室に寄ってくから」
「うん、私もちょっと職員室寄ってく」
「校門とこで待ち合わせでええよな?」
「うん」




もう教室には誰も残っておらず、は白石と一緒に帰る約束をしていた。 そんな中、先に教室を出ていた謙也がドア付近から「白石〜はよ行くでー」と言うと、白石は「じゃあ後でな」と言い、教室を出て行った。 教室でひとりになったは、職員室へは行かずに窓の外を見ていた。そしてしばらく経ったあと、自分の鞄からひとつの箱を取り出した。




「(やっぱ渡せないかなー・・・)」




実はは白石へのチョコレートをちゃんと用意していた。 しかし、朝に言っていた通り「白石はたくさん貰うので不要では?」と思っていたし、何より渡すのが何となく恥ずかしかった。 丁寧にラッピングされたチョコの箱を見て「はー・・・」とため息をついた時だった。




「あれ、まだおったんか?」
「け、謙也!?」
「・・・お前、ホンマに素直じゃないなぁ」
「だって・・・」
「はよ渡したらええやん」
「ん・・・」




謙也はの手元を見て、すぐに察した。とはクラスも同じで部活も同じなので謙也もの性格はよく分かっていた。 普段はいがみ合ったり冗談で口喧嘩ばっかりしているが、この二人の間にもちゃんとした友情があるのだった。




「ていうか謙也何で教室に来たの?」
「まだチョコレート教室に残ってんの忘れとった」
「あっそ」
「白石もう待っとるで」
「あ、うん・・・」
「はよ行かな凍え死んでまうやろ!」
「はいはい」




謙也は自分の席で荷物(チョコレート)を整理している。は謙也に早く帰るよう言われたので、持っていたチョコレートを再び鞄にしまい帰り仕度をした。 そして鞄を持ち、謙也の横を通りすぎる際に「じゃあね」というと「おう」と返ってきた。 そのまま通りすぎ、教室を出るところで一時停止した。背を向けたまま、謙也へ呼び掛ける。 謙也は机の中に入れていたチョコレートを紙袋にしまいながら「何やー」と答えた。




「・・・ありがとね!」
「!!・・・おう(ホンマに素直じゃないなぁ)」




はお礼を言うと、謙也の返答を待たずにダッシュした。 そして白石が待っている校門へと向かう。校門には寒そうに佇んでいる白石が見えた。




「蔵、ごめん!待った?」
「いや、そんな待ってへんで」
「・・・ありがと」
「ほな帰ろ。ん」




白石はに手を差し出し、手を繋ぐように合図した。も自然と白石の手に自分の手を重ね、二人で歩き出した。白石の手はやっぱり冷たかった。




「あれ、荷物・・・というかチョコレートは?」
「今日は全部置いてきたんや」
「え、何で!?」
と手繋げへんやろ?」




白石はよくストレートな発言をする。はこのストレートな発言やたまにあるストレートな行動にはなかなか慣れなかった。 なので急に恥ずかしくなり、空いてる片方の手で首に巻いてるマフラーを少し持ち上げ顔を少し隠した。 白石はそんなを見て笑い、繋いでる手の力を少し強くした。

その後は他愛もない話をし、いつも二人が解散する公園までやってきた。




「ほんなら、また明日な」
「うん・・・」




白石はの頭を撫で、離れてしまった手をポケットに入れながら寒そうに背を向けた。 白石が帰っていくのを見届けていたが、気が付いた時には声が出ていた。




「・・・っ!蔵!」
「ん?」




白石はに呼ばれて振り返り、は白石の元へ駆け寄った。そして、は数秒下を向いていたが、ようやく決心したかのように顔を上げ、手を自分の鞄の中へ突っ込み、ひとつの箱を取り出した。 それは、先程謙也に見られたものと同じチョコレートだった。




「蔵っ・・・!これ・・・受け取って」
「え・・・?これって」
「バレンタインチョコレート。ごめん、本当は用意してたんだ」
「・・・そうやったんか」
「でも・・・何となく恥ずかしくて」




白石はからそっとチョコレートを受け取ると、「ありがとうな。めっちゃ嬉しいで」とはにかんだように笑い、赤い顔をして目線を外しているをぎゅっと抱きしめた。




「あかん・・・めっちゃ可愛えなぁ」
「ちょ・・・そ、そういうこと言わないでって」
「可愛いもんは仕方ないやろ?」




そう言うと白石はを抱きしめたまま、の冷たい頬にキスをした。外ということもあり、余計に恥ずかしくなったは「ここ、普通に外なんだけど!」と言うが「別に誰もいないからええやん。それにがそんな可愛らしいことするんが悪いんやで」と言い、白石は両手での頬を撫で、そのまま唇にキスをした。




「・・・まさかに貰えると思わんかったから余計にクるわぁ」
「・・・早く渡さなくてごめん」
「何言うてるん。めっちゃ嬉しいで」
「・・・うん。渡せて良かった」
「俺、世界で今一番幸せな男かもしれへん」




そう言ってまた唇にひとつ。チョコよりも甘いキスをする。








頬を染めるハートの赤
(照れてるとこがたまらなく可愛いねん)




今回のテーマは「だっていっぱい貰ってるから要らないと思って」というヒロインのセリフ。 実は最初このネタは黒バスの黄瀬で使う予定でしたが、素直じゃない子を包み込めるのは 包容力がある男だと思い白石になりました。それにしても白石のお話には謙也がしょっちゅう出てきます。 何故か出したくなるのです。