「ズルイと思う」




2月13日。ふと、は放課後終わりに部室で頬杖をつきながら、ロッカーの前で着替えようとしている幸村精市の横で呟いたのだ。 呟いた、というには大きい声でどちらかと言えば幸村に対して言っているようだった。 幸村もそう感じ取ったのか、に対して言葉を投げかける。




「何が?」
「バレンタインデーもいっぱい貰って、一ヶ月もしないうちに誕生日じゃん」
「ああ、そういえば明日はバレンタインか」
「ってことで私、明日あげなくても良・・・」
「ダメ」




の言葉が言い終わる前に、幸村はキッパリと即答で答えた。は「えー何でー」と口をへの字に曲げながら、文句を言う。 そんな彼女にはお構いなし、というように幸村はブレザーを脱ぎはじめ、ネクタイに手をかける。




「別に良いじゃん、いっぱい貰うんだから」
から貰うのと他の子から貰うのとじゃ違うんだよ」




久々に幸村の口から純粋で嬉しい言葉を聞いた気がする・・・!とはしばらく感動していたが、すぐに頭を横にぶんぶんと降り 意識を戻した。チョコをあげないつもりでいたので、何の用意もしていない。市販のを買いに行くにしてもバレンタイン前日の今日 は激混みだろう。そのような面倒くさい自体は避けたかった。




「そんなこと言ったって用意してないもん」
「今からすれば良いんじゃない?」
「そりゃーそうだけど・・・」
「楽しみにしてるよ。からの手作りチョコ」




手作りチョコ、というワードを強調して言ってきたな!とは幸村を若干睨む。しかし幸村は相変わらず鼻歌を歌いながら、 着替えている。楽しみにしてるよ、と言われ会話を終わらせられてしまってはこれ以上、何も言えない。それにこれで 「絶対作らないから!」というのは可愛いげないしそこまで意地を張りたいとも思わない。




「・・・そろそろ着替えたいんだけど」
「えっ・・・あぁ」
「別にそこにいてくれても構わないよ。襲っちゃうかもしれないけどね」




何を言ってるんだ、この男は・・・と思いながらも割といつもの事なので「はいはい」と言っては椅子から立ち上がった。 ドアを開け、部室を出ようとした瞬間、「今日は先帰って良いよ。準備とか色々あるでしょ」と思いっきり笑顔で言われたので 「分かったよ!」と大きな声で言い部室を出てった。中で幸村がクスクスと笑っているのにも気付かず、お店に寄って準備をしなきゃ ・・・と思いながら帰るのだった。








そして2月14日の放課後。は日直で放課後一人残っていた。黒板を消し終わり、日誌を書こうとしたところで幸村が迎えに来た。 しかし予想に反して荷物は鞄しかなく、身軽だった。




「あれ、荷物は?」
「部室に一旦置いてきたよ。がヤキモチ妬いたら可哀相だと思ってね」
「何を今更・・・」




そんな話をしながら幸村はの前の席に腰掛け足を組みながらが書いている日誌を覗いていた。




「何で一人で日誌書いてるの?」
「もう一人が丸井だから」
「・・・なるほどね」
「たくさんの女の子に囲まれて帰ったみたい」
「いつもだったらブン太に脅し・・・いや注意するとこだけど今日は良いかな」
「(脅し?)何で?」
「バレンタインデーにと放課後の教室で2人きりにしてくれたから」




相変わらずサラっと照れるようなことを言う男だ、とは思った。ペンを書く手を一瞬止めて幸村を見るとあまりにキレイな顔立ち に見とれてしまったが、それはそれで腹が立つのですぐにまた日誌にペンを走らせた。




「仁王あたりだったらワザとかなーって思うけどね」
「ワザとって?」
「仁王はこういう事に気が利くからね。でもブン太じゃな・・・」
「そうだね。丸井じゃ普通に忘れて帰った感じだよね」




なんて下らない話をしているうちに、日誌はほぼ全部書き終えた。ふーっと息をはき視線を上げると幸村との視線はバチっと 合った。ああ、もう逃れられないなと思ったは鞄から小さな箱を取り出し机の上に置く。




「はい、お望み通りのバレンタインチョコ」
「ふふ、ありがとう」




幸村はニコニコしながら箱を開けると、そこにはトリュフが4つほど入っていたのだ。あれだけ面倒くさいような事を言っておきなが ら、ずいぶん手間のかかるものを作ってくれたなと思いながらも、その言葉はあえて言わずに飲み込む。




「ちゃんと味わって食べてよね」
「うん。あ、そうだ!も一緒に食べない?」
「え・・・!?」




幸村のこの一言には激しく動揺した。なぜなら、先程が幸村に渡したトリュフの中には唐辛子の固まりが詰めこまれているの だ。はちょっとしたイタズラ心でこの唐辛子入りチョコレートを作り、幸村がどういう反応をしてくるのかを見たかった。 いくら彼女であり1番近い存在とは言え、幸村が動揺したりするような姿はでも滅多に見たことがない。




「ほら、食べてみなよ」
「うう・・・」
「自分で作ったのに食べれないの?」
「あう・・・」




ほらほらと言ってくる幸村の顔は何より楽しそうだった。絶対分かってやってるんだ・・・!とは今までの経験から悟った。 しかし、ここで折れてしまえば全てが水の泡。けれども食べたくはない。食べたら吐く!と思うともうどうしようも出来なかった。 そして、結局いつものようになる。




「うう・・・ごめんなさい」
「何が?」
「分かってるくせに・・・」
って最後にはいつも負けるよね」
「・・・何で分かったの?」
「昨日赤也に聞いたから」




あのワカメ野郎!とは机の上で握りこぶしを作った。
実は昨日、部室を出たあとは切原に会っていたのだ。「あ、先輩。何プリプリしてんスか?」「精市がチョコ作ってこいって 言うから」「相変わらず愛されてますね〜」「・・・ちょっと違うと思うけど」「たまには幸村部長驚かしてみたらどうですか?」 「驚かすって?」「すんごいマズイチョコを作るとか」「それだ・・・!」などと言うやり取りがあったのだ。しかし、それを精市に言ったらダメでしょ・・・と怒りを通り越して呆れるばかりだった。おおかた、部室で「先輩に会ったっスよ〜」なんて会話から始まり、精市の話術に乗せられ全てぶっちゃけたのだろうとは推測した。




「・・・はい、こっち」




は観念したかのように、また自分の鞄から小さな箱を取り出した。それを幸村が先程のように開けると、すぐ近くにあるものと 同じトリュフがまた顔を出した。それを見るなり幸村はクスクスと笑い出した。




ってこういうとこ、本当可愛いよね」
「(だってあとが怖いもの)」




はイタズラ用のチョコとは別に、もうひとつチョコを用意してたのだ。それは見た目こそイタズラ用のチョコと同じだが中身は 全く違う、純粋なトリュフチョコだった。幸村は一口食べると「うん、こっちはおいしいよ」と嫌味なことを言ってくるなと、 思いつつやっぱり美味しいと言ってもらえて嬉しくなる。




「ねぇ、食べさせて」
「・・・え!?」
がチョコ食べさせてよ」
「嫌だよ」
「ふーん。じゃあ俺がさっきのチョコをに食べさせようかな」
「わわわわわ・・・!ごめんなさい!」




じゃあ、はい。と言ってチョコをに差し出す。差し出した幸村は思いっきり笑顔だが、差し出されたは思いっきり苦笑いである。まぁ食べさせるくらい良いか、と思いチョコを掴もうとしたが、幸村の言葉によってそれは止められた。




「あ、言っておくけど口でだからね」
「はいいいい!?」
「普通なんてつまらないし、俺にイタズラしたお仕置きもしてあげないとね」




はこの瞬間、二度と幸村にイタズラはしないと心に誓った。そして、結局何も言えず従うしかない。 幸村は椅子に座ったまま動こうとしないので、仕方なくは重い腰を上げ、幸村の前まで来る。はチョコを口に含むと 「あ、おいしい」と思っていたが、幸村に「全部食べちゃダメだよ」と言われ、一気に現実に戻された。幸村はニコニコ顔を崩さない。は躊躇いながらも幸村に近づくが、なかなか踏み出せない。結局焦れた幸村がの手首を一気に引き、首の後ろを掴み無理矢理キスをした。急に引っ張られたはバランスを崩しそうになり幸村の肩に慌てて手を置く。




「んぅ・・・!」




自身が何もする暇もなく、結局は幸村にされるがままになってしまうという、ここでもいつものお決まりパターンになってしまった。 ただ違うのは、いつも見上げている幸村の顔が、今日は彼が座ってることによって斜め下に見えるということぐらいだ。




「今日はこれくらいにしておこうかな」
「これくらいって・・・」
「まだ誕生日もあるしホワイトデーもあるからね」
「な、何す」
「俺の誕生日に何かしてくれるのはでしょ?」
「・・・」
「その代わり、ホワイトデーには俺からしてあげるから」




は一瞬ぞっとしたが、「じゃあもう一回しよっか?」という幸村の言葉と行動により、先のことより今だ、と実感した。








敗者に甘い罰を
(イタズラなら俺がたっぷりしてあげるから)




テーマはありきたりだけど「食べさせて」から、いつの間にか「イタズラ」になってました。このお話、リズムや流れがちょっとおかしいのは苦戦したからです。 何故か幸村がなかなか書けなくてすごく時間かかりました。バレンタインシリーズ最後で、しかも神の子なのに申し訳ないです!