私は甘いものが大好きである。心の底から愛していると言っても過言ではない。なので、同じ部活の友人である 紫原くんとは自然と気が合った。毎日のように、この新発売のお菓子はどうだとか下らないことを話している。 いくら彼が赤司くんと仲が良いからと言っても、きっとお菓子の繋がりがなかったら、彼とは喋らないままで 終わっていたかもしれない。




「はい、ちん。これあげるー」
「あー!新発売の焼きチョコだ!」




練習中の休憩の合間をぬってお菓子を食べる紫原くん。私はマネージャーだから、そんなに激しく動きはしな い。忙しくてもパタパタと走るくらい。だからスナック菓子だろうがチョコ系の甘いお菓子だろうが、練習中 でもモリモリ食べれる。しかし、紫原くんは汗をかくほどの運動をしても、普段と変わらずお菓子を食べる。 よくもまぁそんなに食べられるものだ。周りにいる青峰くんだって、黄瀬くんだって流石に「うげ」という目 で彼を見ている。




「本当二人のお菓子好きはすごいっスね」
「あ、黄瀬くんも食べる?」
「・・・遠慮するっス」




休憩ということもあって、和気藹々とした時間を過ごす。何だかんだ言いながらもお菓子や甘いものが好きな 人は結構多いらしく、最初は「練習の間にそんなもん食ってられるか」と言っていた青峰くんも「ちょっと寄 越せ」などと言っている。ふふふ、こうしてお菓子好きが増えれば、お菓子についての情報交換が出来る人間 が増える!私はいつもそんな下らないことを考えていた。





「は、はい!」




そんな中、和気藹々としていた集団からは外れていた主将である赤司くんに呼ばれた。そして、同じく集団か ら離れていた副主将である緑間くんもいる。おそらく練習メニューの確認だろうと思い、ノートを手に彼らの 元へと急ぐ。
この二人はいつも私たちのお菓子トークに入ってくれない。まぁこの二人がお菓子について語るというのも 想像がつかないけど、もしかして本当はお菓子が好きなんじゃないだろうか。特に緑間くんなんかはツンデレ だし、本当は甘いものが大好きなのに隠しているのかも。そうだったらちょっと可愛い!




っちって犬みたいっスよね〜」
「お前に言われたくねーだろ」
「どういうことっスか!」
さんがどれだけ赤司くんのことが好きなのか伝わってきますね」
「でもあの二人、ラブラブって感じしないんスよね」
「まぁ赤司がそういうタイプじゃねーだろ」
「え〜そうかなー」
「え、何スか!その意味深な発言!」
「俺からしたら超ラブラブに見えんだけど」
「どこらへんがだよ?」
「見てれば分かると思うよー」





私は少しニヤニヤしながら二人に近づく。先ほど紫原くんから貰ったお菓子を見せれば二人が反応するかもし れない。反応したらもうそれは仲間の証!特に緑間くん、ターゲットはあなたよ!




「何をニヤニヤしているのだよ」
「あのね、あのね」
。次の練習メニューは?」
「あ、はい」




・・・そうだ。この二人に練習中「お菓子食べませんか?」なんて暢気に言える雰囲気なんてあるわけない。 というか、出来たらもうとっくの昔にしている。あーあ、美味しいからせっかく二人にも食べてもらおうかな ー、なんて思ってたのに少しガックシ。しょんぼりしながら、ノートを受け取った赤司くんを何となく見る。 すると、私の視線に気づいたらしい彼がこちらを向いた。




「・・・
「は、はい」




赤司くんと一緒にいる時間はみんなより長いはずだけど、部活中に名前を呼ばれると何故か緊張してしまう。 部活中は「恋人」という関係よりは「主将とマネージャー」という関係のほうが強いからだろうか。他の部活 や他の人は知らないけれど、私と赤司くんの間には間違いなく上下関係が出来てるような気がする。私自身、 そのことに対して特に何も感じないけど、そのせいなのか、よく周囲には恋人同士らしくないと言われること も少なくなかった。




「ついてるよ」
「え」




赤司くんは腕を伸ばして、その長くて細い指で私の頬へと触れ、唇の端についていたチョコを親指で拭ってく れた。たったそれだけのことなのに、いとも簡単に体の内側から熱くなる。緑間くんがため息をついていたの が、何となく聞こえたが、そんなことどうでも良いと思うくらいドキドキした。赤司くんはただいつもみたい に笑ってるだけだ。その笑みさえも妙に色気がある。




「ねー?」
「確かにああいうとこ見るとラブラブっすね」
「つーか赤司もよくあんなこと人前で出来んな」
「別にキスしたわけじゃないですし、良いんじゃないですか」
「黒子っち言うー!」





私はあれからずっとドキドキしたまま練習を過ごした。たかがあんなことでドキドキしてしまうなんて馬鹿 みたいかもしれないけど、それを赤司くんがやるだけですごくときめいてしまうから不思議だ。いつまでた っても慣れないこのドキドキ。こんな心臓で赤司くんと一緒に帰れるだろうか。このままだと心臓が飛び出 ちゃうんじゃないだろうか。そんな下らない心配をたまたま横にいた黒子くんに話したら「大丈夫ですよ。 赤司くんなら飛び出た心臓くらい簡単に戻してくれますから」と真剣な顔で言われてしまった。どういう事 !?と思いながらも、分からないまま何故か納得してしまい、現在の帰路に至る。隣に赤司くんがいるなん て日常茶飯事なのに、いつもドキドキしてしまうのが苦しくてしょうがない。




「どうした?今日はずいぶん大人しいね」
「え、え、そうかな?」




吃る自分が少し恥ずかしい。よし!こういうときこそ、紫原くんに貰ったチョコを食べて気合いを入れ直す! 帰りはいつも途中にある公園で寄り道をするのが日課だ。もちろん今日もそう。公園のベンチに座ってまった りとした時間を過ごす前に、チョコをおひとつ。バッグの中から取り出したチョコを食べると、口の中に甘さ と幸せが広がった。そんな私を赤司くんが見ていることに気づく。




「美味しそうに食べるね」
「うん、だって美味しいもん。あ!赤司くんも食べる?」
「いや、甘いものはそんなに好きじゃない」
「そっか・・・」




まぁそうだとは思ったけれど。もしかしたら、興味ないように見えて実は甘いものが好きというギャップの持 ち主かもしれない。そんな期待を抱いてしまっていただけに、少し肩が落ちた。彼からすれば、勝手にそんな 期待を抱いて、勝手にショックを受けるなんて迷惑極まりないだろうから、私は極力明るく言ったつもりだっ た。けれど、視界は自然と下に向いてしまったので、赤司くんが気を遣ってくれたのかもしれない。





「うわ・・・え」




下に向けてる顔を思いっきり上げられては、ぐりん!と赤司くんのほうへ向けられ、驚きと同時に少しだけ 首が痛かった。けれどもすぐにそんな思考はストップしてしまう。あ、ちゅーだ。なんて思ったのも束の間。 それはただのちゅーではなく、少しばかり甘いちゅー。先ほどまで私の舌の上で広がっていた甘さが、全て 赤司くんに奪われるようだった。変わりに与えられるのは幸せとドキドキ。赤司くんの服をきゅ、と掴むと ゆっくりと唇が離れ、甘さがすでになくなった自分の唇が、少しだけ寂しさを訴えているようだった。




「だからこれで良いよ」
「あ、わわわわわ」
「どうしたの?」
「し、心臓飛び出ちゃうよ!」
「・・・はは」




彼は非常に愉快そうに笑った。今のの何が面白かったのだろうか。いや、違う。面白いから笑ったのではない。 愉快だから笑ったのだ。赤司くんの目が色気を帯びた目になっていく。この目は何度も見た ことがある。そして同時にヤバイ!と自分の中で警鐘が激しい音を奏でて鳴る。ベンチから立ち上がろうと思 ったが、既に赤司くんに腕を思いっきり握られてるため立ち上がれない。




「じゃあ戻してあげるよ」




ふぎゃ、と色気のない声が出てしまったのは仕方がない。胸を触れられてビックリしたら、甘い声なんて飛び 越してしまったのだから。人がいなくて良かった、なんて思う暇は全くなかった。そのまま押された胸が悲鳴 をあげるが、私の口からは声が出ない。




「これからたっぷり時間をかけてね」




耳元でそれだけ囁かれると、今度は急に立たされて、そのまま引っ張られる。どうせ行き先は赤司くんの家な のだろう。こんなことでは心臓が戻るどころか、ずっと飛び出しっぱなしになってしまう。そう赤司くんに言 えば「誘ってるのか?」なんて全く違う意味で捉えられてしまう。

彼は今日も私の飛び出た心臓を破壊するかのように愛するのだ。




眠らない破壊音に
永遠の覚悟

(心臓がいくつあっても足りません!)