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言葉というものは不思議なもので、紡ぎ出される人間によって同じ言葉でも数多の意味を持つ場合がある。 それ故、言葉で人を救う人間だっていれば、支配する人間だっているのだ。心だけではない、身体全身を影響 させる。言葉を肌に触れさせるような感触を創造するのも、また人間次第である。そして、何処かくすぐった さを感じさせるような言葉を、相手に染み込ませれば、それは時に快楽という名の扉になるかもしれない。 「んっ」 「何?」 「・・・何でもない」 赤司が唯一自分自身の手で触れたいと心底思うのは、世界中ありとあらゆるものを探してもだけだった。 彼女にだけは触れたいと思うし、自分の何からも守られていない素肌に触れて良いと許可をしているのもだ け。肌だけではなく、その内側の骨の髄まで、可能ならば触れたいくらい。それくらい彼女に抱くこの気持ち は大きかった。それを赤司は紛れも無い愛だと思っているが、がどう思っているかは定かではない。おそ らく愛以外の何者でもない、と赤司から身体を通して植え付けられているだろうが。 「赤司くん・・・」 「さっきから何?言いたいことがあるならハッキリ言えば?」 「うー・・・」 言葉は冷たくても、ちゃんと温かさを感じることが出来るあたり、は紛れも無い赤司の恋人なのだろう。 その少しの温かさと多くの棘、そして自分の肌を滑る彼の手に、自分の喉をぎゅ、と握り潰されているのでは ないかと錯覚するくらい、赤司の影響力は大きい。 彼は特に特別なことは何もしていないのだ。ただ、自分の足の間にを座らせ、髪を撫でたり、スカートか らはみ出ているの白い足をゆっくり撫でたり。恋人同士ならおかしくない、普通のありふれたことである。 「くすぐったい」 「それで?」 「うう・・・」 肩や腕を撫でられるくらいで、特に特別なことはされていないはずなのだ。なのに赤司の手が動くだけで、 それは「普通」ではなくなる。心臓がより速く動く行為へと変わってしまうのだ。頬を柔らかく撫でるその手 も、今はもどかしい以外の何者でもない。どれだけ顔の距離が近くても、唇を触れ合わせることなどしないの だから。太股を撫でているその手も、上へ上がることはなく、ただ機械のように往復しているだけ。しかし、 機械とは確かに違う。にはちゃんと赤司の体温を感じることが出来ているのだ。 「赤司くん・・・もしかして」 「ちゃんと触って欲しいならそう言えば良いのに」 「え・・・!?」 「顔。すごく物欲しそうな顔してる」 「そ、そんなことないよ!」 「そう?なら良いか」 けれども、にはよく分かっていた。自分が赤司をとろんとした熱情を孕んだ目で見つめていることを。何 故なら赤司の瞳に映っている自分の顔が鏡のように見えるからだ。おまけに赤司の瞳も二人きりで温もりを分 け合っている時と同じ瞳。この瞳に心も身体も奪われてしまう。今はただ、必死に抗っているだけなのだ。 間違いではない赤司の言葉に、はつい否定の言葉を述べてしまったが、あとから後悔した。赤司の行為が 徐々に、徐々にエスカレートしてくるからである。首筋から耳へかけて昇っていく彼の唇は、ただ触れている だけで、押し当てられることも吸い付かれることもない。いつもの可愛らしい弾けるような音が生まれるのに、それさえも 聞こえることがない。の唇に触れることもない。ただ、その感触にくすぐったさを感じてたまに漏れるの小さな声だけが 、この室内でやたらと響いて聞こえた。 「まさか、感じてる?」 「な・・・!そんなことないもん!」 「まぁこれくらいで感じられても困るからな」 最早、に戦闘の意志はなかった。途中までは意地を張り、その意地を貫き通してきたが、それはの本 当の意思ではない。つまらない意地などさっさと捨ててしまったほうが、この場の誰にとっても平和になれる手段なの だ。けれども、には赤司と違い羞恥心がある。自分から赤司を求めるなど、恥ずかしいことこの上なない。 「赤司くん、意地悪だよ」 「どうして?」 「だって・・・」 「キスしほしいならそう言えば?」 「・・・恥ずかしいから絶対言わない」 「いつもはもっと恥ずかしいことしてるのに?」 「・・・!そういうところが意地悪なんだってば」 は赤司によって赤く染められてしまった顔を隠すように、赤司の胸元へ自分の顔をぐりぐりと押し付けた。 呻き声のような声を小さくあげながらも結局擦り寄ってくる彼女に、赤司は先程よりも愛しさが込み上げてくる が、それを表に出すことはしない。そして、その思いをにぶつけることもまだしない。限界まで待って、どうしようもなくなった時に爆発させるのを好むのだ。 「何でワザとそんなことするの?」 「の我慢してる顔が見たくて、つい・・・ね」 「バカ!バカバカ!」 何故だか、は赤司に対して最初からこのように砕けた言葉も素直に伝えることが出来ていた。誰から見て も賢い赤司に、面と向かって馬鹿などと言える人間は片手の指で数えるほどもいないかもしれない。けれども 、はいつだって赤司に対しては素直で思ったことを言う。ただ、それは自分に羞恥心が生まれない時だけ であり、このように赤司と身体を触れ合わせたり肌を重ねる時は素直になれないのだ。それは世の中のほとんどの女性 が持っているものだろう。 「仕方ないじゃないか。が悪いんだから」 「え!?ど、どうして!?」 「あまりに可愛いから虐めたくなる」 嬉しいのか嬉しくないのか分からない。そんな感情がの中でぐるぐると渦を巻いて蠢く。可愛い、と 最愛の人に言われれば、それが何であろうと心がときめくものだ。しかし、そのあとの虐めたくなる、という言葉に はどう反応をして良いか分からない。彼の思考をただ述べられているだけなのだから、享受するのもおかしい し、拒絶するのもまた少し違う。何しろ拒絶の言葉と態度を示したところで、彼に受け入れてもらえるわけで はないのだから。それでも、そんなことはお断りと、否定の言葉を生まなければ自分の心臓が危ぶまれてしまう。 「そ、そんなこと言われたって・・・」 精一杯紡いだ言葉だった。意味が無いと理解していながら、無駄だと分かっていながらも生み出した否定の 言葉に・・・なるはずだった。しかし、それは存外容易く赤司の舌先からくちびる、喉へと吸い込まれてしま い叶わなかった。欲しくてたまらない、ようやく与えられた熱い口づけに眩暈がするほど酔いしれる。あ れだけ言葉に出せと言っていたにも関わらず、その官能的な心地良さを与えてくれるのは、やはり彼がには甘いからだろうか。或いはもうひとつ。 「でも、嫌いじゃないだろ?」 今まで我慢していたのは彼女だけではなかった。ただ、それだけのことである。今まで抑えていた衝動をよう やく弾けさせる瞬間が来たようだ。赤司はの腰を引き寄せ、噛み付くほどの勢いでようやく愛を存分に注げるのだ。 |
浸透する唇に
恍惚が滲む
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