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-------------------------------------------------------------------------------------------- 赤司くんへ お元気ですか?メールより何となく手紙を書きたくなったので、こうして書いています。最近は駅から少し離れた 公園にほど近いカフェで緑を見ながら手紙を書くことが好きです。ちょっとオシャレっぽいですか? そういえば今日、青峰くんとさつきちゃんに街で偶然会いました。赤司くんの様子を聞かれたので「元気にやって るみたいだよ」と伝えておきました。青峰くんは「あいつが元気なのも元気じゃねーのも想像つきにくいけどな」 と意味不明なことを言ってましたが、二人とも安心しているようでした。二人の幼なじみならではの仲の良さが微 笑ましく思えました。 お手紙だと何で敬語になっちゃうのか分かりませんが、無事に届きますように。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 赤司くんへ 最近風邪が流行ってるようですが大丈夫でしょうか? 何と今日は黒子くんにマジバで偶然会いました。黒子くんは 以前に比べてだいぶ逞しくなったようです。体つきもほんの少しですが以前より大きくなった気がしました。でも 相変わらず影が薄いです。そして少食でした。私はチーズバーガーとオレンジジュースとポテトのLとナゲットと林 檎パイを食べているのに、黒子くんはポテトをハムスターのように食べていました。ちょっと可愛らしかったので すが、そんなことを黒子くんに言っても「嬉しくないです」と言われると思ったのでやめておきました。黒子くん に「どうしてそんなに食べるんですか?」と聞かれました。確かに私は昔よりよく食べるようになったみたいです。 体重はひみつです。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 赤司くんへ 赤司くんのいる京都の天気予報をつい見ちゃいます。こっちが晴れでも赤司くんのいるところの天気が悪いとち ょっと悲しい気持ちになりますが、赤司くんは雨や曇り空は好きですか? 今日もすっかり定番化している偶然シリーズです。鋭い赤司くんはもうお分かりかと思いますが、何とまたもや偶 然にも黄瀬くんと緑間くんにお会いしました。私からしたら、とっても珍しい組み合わせでした。二人もたまたま 出会ったようで、たまたま駅へ向かうだけだったようです。黄瀬くんは相変わらずのチャララ具合でした。でも、 以前より何だか楽しそうな雰囲気を纏ってました。緑間くんは分厚い本を持ってました。赤司くんと久々に将棋を 指したいと言っていました。私が「どうせ負けちゃうよ」と言うと「うるさい」と言われましたが、少しだけ笑っ てました。そういえば・・・やっぱり何でもありません。久々に出会えて楽しかったです。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 赤司くんへ ちゃんとご飯は食べてますか?赤司くんのことだから、栄養をしっかり取っているとは思いますが、ちょっぴり心 配だったりもします。 最近は偶然シリーズもご無沙汰で、誰とも会っていません。あそこまで色々な人に会うと紫原くんにも少しだけ会 いたくなります。・・・でも、私が本当に会いたいのは赤司くんです。我慢しなきゃ、とは思っていますが、やっ ぱり寂しいです。みんなに出会ってしまったからか余計にそう思ってしまいました。実はこの前、 黄瀬くんに「っち、寂しくないんスか?」と聞かれてちょっと泣きそうになってしまいました。でも、泣いて ません。ただ黄瀬くんにも緑間くんにも気付かれてしまったようで、二人に気を遣わせてしまいました。今度のお 休みは京都に行っちゃおうかなーなんて・・・ 今日もお気に入りの公園に近いカフェでアイスレモンティーを飲みながら、緑が見えるカウンターの席で手紙 を書いている。いつもここで書くと、とても清々しい気持ちになるからだ。けれど今日は少し違う。夢中で走らせ たペンの動きを止めた。何て自分本意で我が儘なことを書いてしまったのだろうと自覚したからだ。鉛筆やシャー ペンだったら消しゴムで簡単に消せたのに、もう一度書き直さなければならない。「本当に会いたいのは赤司くん ・・・」あたりから書き直さなければ。書き損じた手紙をぐしゃぐしゃに丸めれば、私の我が儘な願いも心も一緒 に捨てられるだろう。 「書き直すのか?」 けれど、突如後ろから凛とした声が聞こえた。この声を聞きたくて、前に1回だけ彼の携帯電話に電話をかけたことがある。 けれど、何コールかして電話に出たのは寂しい伝言アナウンス。そのあと彼から私の携帯に電話がかかってきたけ ど、生憎今度は私のタイミングが悪くて電話を取れなかった。この時、私の携帯に伝言サービスをつけていたら彼 の声を聞けただろうか。もう一度かけ直そうと思ったけれど、きっとまだ忙しいだろうし、離れてることで余計彼 の負担になんてなりたくなかった。だから、離れてから彼と話したことは今までで一度もない。声を聞いたことも一度もなか った。なのに、何故今聞こえるのだろうか。それも臨場感に満ち溢れた声である。私は今、電話を持っていない。 それなのに耳元で聞こえるこの声に、ついに彼のことを考えすぎて幻聴まで患ってしまったのかと錯覚した。 「え・・・!?あ、赤司くん!?」 「久しぶりだね」 「な、何でここが!?っていうか何でここに!?」 「が書いたんじゃないか。手紙を書くときはここにいるって」 「そうだけど・・・何でここに?」 声がした方を振り向くと、会いたくて仕方なかった彼の顔が驚くほど近くにあった。彼はそのまま私の隣の席へ 座り、私がぐしゃぐしゃにして捨てようと思っていた手紙を覗き込んだ。見られないようにすぐに丸めてしまおう と思ったが、それは彼の手が重ねられることによって阻まれた。温かい、温度がある手だ。ここで私はようやく実 感出来た。今、彼が私の横にいるのだと。 「手紙、どうして書き直すんだ?」 「だって、」 彼は私の質問には答えてくれなかった。そもそも彼は私の手紙に一切の返事を書かなかった。もちろん返事 を期待して彼に手紙を書いていたわけではない。私が書きたくて書いていたのだから、それに対して不満なんて全 くない。心配は少しだけするものの、彼のことだからきっと元気にしっかりやっているということは分かっていた 。そう、全て私の勝手な寂しさから始まった自分勝手なことである。その上、その手紙に「寂しい」などと書いて しまったら、もう私の勝手な欲望以外の何者でもない。だからぐしゃぐしゃに丸めて捨てるのだ。 「会いたくなったから、じゃダメか?」 時差があるが、どうやら先程の質問に答えてくれたらしい。でも、まさかそんな甘くて優しい声で嬉しいことを言ってくれるな んて思ってもみなかった。彼が私と同じ気持ちでいてくれたなんて、思ってなかったから。だから彼には悪いけど 、少しばかり耳を疑ってしまった。でも、グラスに映る自分の顔が少しばかり緩んでいて馬鹿だと思った。 「、肝心の自分のことは全然書いてくれなかったからね」 「あ・・・そういえば」 「分かったのはがよく食べてることくらいかな」 確かに私は自分のことをあまり書いていなかった。かつてチームメイトだったみんなのことも教えてあげなきゃ 、という思いが優先されたのだと思う。けど、それでもみんなと会ったことを書いているのだから、私は自分のこ とを書いていると錯覚していた。でも、それは彼にとって欲しい情報ではなかったらしい。 「それに他の連中はに会ってるのに、僕が会えないなんて狡いじゃないか」 狡い、だとかそういう言葉を彼から聞いたことは今までなかった。そういう感情を抱くとも思っていなかった。 離れる時も、私は目から大粒の涙を流していたけど、彼はそんな私を困ったように笑いながら頭を撫でて宥めてく れた。余裕がある、と思っていた。でも、そうではなかったということを今、初めて知った。 「偶然、だよ」 「偶然でも、だよ」 そんな直接的な言葉が胸に響いて、私の涙腺を崩壊させようとする。でも、こんな人前では泣くことなんて出来 ず、手の下にある手紙をぎゅっと握ることで何とか堪えた。そんな手さえも、彼は相変わらず優しく重ねてくれて いる。 「あいつらを羨ましいと思ったのは初めてだ」 でも、私が一番会いたかったのは赤司くんだから。そんな欲望を手紙には簡単に書けたのに、実際にはなかなか 口にすることが出来ない。そんな私をお見通しなのか、離れる直前にしてくれた時と同じように、ゆっくり頭を撫 でてくれた。 「でも同時に少し感謝しているよ」 「え?」 「ちょっとはその寂しさ、埋まったんだろう?」 「・・・うん、みんなと会った時は楽しかった」 「それでも、の寂しさは僕が埋めるべきだ」 本当に何でもお見通しなようで、みんなに会った時は少しだけ癒されたのだ。でも、やっぱり完全には 埋まらない。それにみんなに会うと自然と彼の話題が出るから、どうしても思い出してしまうのだ。その度 にちょっと寂しくなって、手紙を書いていた。弱音を吐くような言葉は書かないように、何度も自分の指を止めて 慎重に書いていた。 「だから、会いたくなったら必ず僕に言え」 「本当に良い、の?」 「その代わり他の男に頼ったら・・・分かってるよね?」 「・・・赤司くんらしい」 彼は気づいていたのだろう、私が送った手紙に涙の跡がついていたことを。すぐに拭って乾いたので気づかない だろうと思っていたが、よく見るとそこだけ跡が残っていた。でも、本当によく見ないと分からないくらいであっ たはずだ。それでも彼は気づいた、気づいてくれた。 「どこにいてものところに飛んでいくよ」 私は我慢していた涙をひとつぶだけ落とした。それは重ねられた彼の手を伝って私の手に流れる。やがて、それ は手紙へと流れ落ち、涙が滲んだその手紙はぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱へ捨てた。 |
綴れない言葉に
さよならを
「その前に僕の方がに会いたくなってしまうかもしれないけどね」