吐く息が白いことさえ美しく感じる。冷気さえも少しばかり心地好く感じるのは、この右手から伝わる温度 のせいだろうか。少し寒いくらいがちょうど良い、なんて言ったら寒がりの人には怒られてしまうかも。
 初詣なんて久しぶりだ。そもそも人混みがあまり得意そうではない彼が、初詣に誘ってくれることす ら意外だった。でも彼が一緒に言ってくれるというなら行きたいし、人混みにのまれたとしても、彼と一緒な ら絶対に大丈夫という不思議な自信がある。


「やっぱりすごい人多いね」
、はぐれないようにね」
「う、うん」


 そんなこと言ったって彼は絶対に私の手を離さないし、仮にもし離れて見失われたとしても、またすぐに私を見 つけてこの手を繋いでくれるに違いない。だから人混みでも大丈夫、彼と一緒なら大丈夫。
 敷地内は既に多くの人でいっぱいだ。多くの人の列に並ぶようにして待っていると私たちの出番がやっ てきた。思う存分に今年一年の幸せを願った後にふと隣を見ると、やた らと真剣な表情の彼。バスケをしていた時より真剣なんじゃないだろうか。おまけに目を閉じた彼の真剣な表情な んて滅多に見ることが出来ない。そんな横顔に、新年早々私の胸は高鳴ってしまう。


「じゃあ次はおみくじでも引こうか」
「う、うん」
「どうかしたのか?」
「ううん、何でもない」


 見とれていた、なんて言えるわけがない。それにもうひとつ。流れるように「おみくじを引こう」という赤司 くんがこれまた少し意外だったのだ。
 私自身、おみくじを引くのは久々である。100円くらいのおみくじで今年の運勢が決まってしまうなんてと思いつつ も、このドキドキ感は少しワクワクしてしまう。こういうのは大吉だったら信じて大凶だったら信じないよう にしよう、という暗示を自分にかけてみた。


「え・・・!赤司くん大吉!?」
「ああ」
「赤司くんって・・・本当もってるっていうか何て言うか」
はどうだったんだ?」
「私は・・・」
「どれ?」
「あ!ちょっと!」
「大凶、か」


 悪い結果だったら信じない、なんてものは結局意識なだけで、実際はやはり少し落ち込む。凶はよく聞くけ ど大凶ってそんなに簡単に出ちゃうもの!?と心の中は落ち込みとパニックで渦が巻く。すると、ふと大凶の おみくじをさっと赤司くんに取られて代わりに彼の大吉のおみくじを渡される。


「え、赤司くん!?」
「結んでおこう」
「え、ちょ、この大吉のおみくじは?」


 ふ、と微笑むだけ微笑んで赤司くんはおみくじを結びに行ってしまう。小走りで追い掛けると素早く私の大 凶のおみくじを結んでしまう。「じゃあ行こうか」なんて相変わらず澄ました顔で私の右手を握って くれるけど、左手に持たされたこの大吉は?


「僕はもう充分幸せだからそれはに譲るよ」


 冷静に考えれば他人が引いたおみくじを貰っても意味がないような気がする。でも赤司くんが優しいのがす ごく嬉しくて。赤司くんが今幸せっていうのもすごく嬉しくて。大人しく「ありがとう」ということしか出来 なかった。でも、そのおかげでこの右手だけではなく、胸までほっかほか。今年のお守りにしよう、と大事に することを決めた。




 人混みの中で歩いたので、休憩がてら少し離れた喫茶店でお茶をすることにした。いつもソファー席に座ら せてくれる赤司くんは、注文もスムーズだ。「はホットレモンティーで良いよね?」と相変わらず私のことを分かってくれているのも嬉しい。


「赤司くん、意外だったなぁ」
「何がだい?」
「初詣行こうって言ったり願い事したりおみくじ引いたりするの」
「そうかな」
「そういうの好きそうじゃないっていうか、そういうのには頼らないっていうか」
「普段は行かないが、初詣は日本の大事な文化のひとつでもあるからね」


 続くように「それに神頼みや運の類もあながち軽視してはいけないと思って」とまた少し、赤司くんの意外なところを 知ることが出来たみたいで嬉しい。赤司くんも何かで運が良かっただとかラッキーだとか思うことがあ るのだろうか。私は例えば今、ホットレモンティーのこのカップがすごく可愛くて中のレモンティーが美味しそうというだけでラッキー だなんて思ってしまう。安いラッキーと言われるだろうか。それでも、そういう小さな幸運も私にとっては嬉 しいことのひとつ。


「赤司くんって運が良かったって思うこと何かあるの?」
「あるよ。と出会えた事とかね」
「そ、そう」
「必然だったのかもしれないが、今もこうしてと一緒にいれる」


 彼のその言葉だって、私にとっては幸運以外の何者でもない。しれっとそんな言葉を言ってくれるものだか ら、この落ち着いた喫茶店も私の世界では一気に花が飛ぶような輝きに満ち溢れてしまう。


「そ、そういえば赤司くん、真剣だったけど何のお願いしてたの?」
「気になる?」
「うん!赤司くんがするお願いってすごく気になる!」


 だって、何でもどんな願いでも自分で叶えられそうな赤司くんが抱くお願い事って私だけじゃなくて彼の ことを知る人ならみんな気になってしまうんじゃないだろうか。私は赤司くんが次に出す言葉をワクワクし ながら待つ。一体どんなお願い事なのだろうか。


「秘密だよ」


 その言い方があまりにも色っぽいて、何気ない普通の言葉なはずなのに妙にドキドキしてしまう。ミステリ アスなところは相変わらず。赤司くんのお願い事は今でも気になるけれど、それよりも赤司くんの魅力が私を 襲ってきてそれどころじゃない。


は?」
「え、私?」
もシワが寄るくらい目をぎゅっと閉じてお願いしていたよね」
「見てたの!?い、いつ!?」
「真剣な姿が可愛くてしばらく見てしまったよ」


 私より長い時間願っていたわけじゃなくて、時差があったということか。でも、赤司くんのお願いしてる 姿だって私と同じくらい真剣に見えた。私だって赤司くんの凛とした真剣な姿に見とれてしまっていたのに 、それを言うことが出来ない。だって言葉にしたらすごく恥ずかしい。よく赤司くんは顔色ひとつ変えずに 私に「可愛い」などという甘い言葉をくれるものだ。それにこの流れで私まで「赤司くんの真剣な姿だって 素敵で見とれちゃったよ」なんて言ったら誰も見ていないけど何だか惚気てるように感じてしまう。


「それでのお願い事は?」
「えっと・・・赤司くんが今年も健康で楽しく、今まで以上に幸せに過ごせますようにって」
「え?」
「あと紅生姜とワカメが食べられるようになりますようにって」
「・・・自分のことは?」
「あ・・・!」


 何をお願いするか悩みに悩んで、まずは一番叶えたいお願いを一番最初に心の中で唱えていた。けれども、 次に待っている人だっているしあまり長居は出来ないと思って、一番のお願いをして満足したつもりでいたが 、すっかり自分のことを忘れていた。今思えば、紅生姜とワカメは別に食べられるようにならなくても大きな問題では ないだろう。だったらせめて自分の健康とかをお願いするべきだったのかもしれない。だって私が健康を害っ てしまったら、いつも傍にいてくれる赤司くんにも影響してしまうかもしれないし、もしかしたら心配させて しまうかもしれない。


「・・・参ったな。僕と同じとは」
「え?同じって・・・?」
「大丈夫、安心して良いよ」


 同じってまさか赤司くんも紅生姜とワカメが食べれるようになりたいと願掛けしたとか?なんて聞いたら「違うよ」 とすぐに言われそうな気がしたのでやめておいた。ワケが分からなくても赤司くんが「大丈夫」と言ってくれ たら不思議と安心感が勝手に芽生える。よく分からないまま頭にハテナを浮かべていると、赤司くんはまた笑 った。でも今度はすごく優しい顔。


の健康も友情も恋愛も何もかも、の幸せは僕が願っているから」


 それだけで、私の今年は幸せが約束されたような気がした。





叶うことしか
知らない魔法


(願うと同時に、僕がを幸せにするという誓い)