静かな部屋に響く甘美な声と卑猥な音は、脳天を撃ち抜く弾丸と同じくらい刺激的。彼と身体を重ねてしまえば、それまで考えていたあらゆる思考がすべて上書きされてしまう。彼のことどころではない。それすらも考えられなくなってしまうほど、与えられる快感というものに必死で耐え、そして享受する。


「今日のも相変わらず良い反応をするね」
「だ、って、っ赤司くんがっ…ぁっ」
「何?」
「もっ、気持ち良くばっか…っさせる、から」


 私の中でうごめく彼の長い指はいつも遠回りをする。まるで休日の散歩の時間と同じだと言ってしまったら純潔ぶるにも程があるだろうか。だって、その遠回りの時間でさえも幸せを感じてしまうから。時々擦れてはすぐに離れてしまう彼の指が恋しくて、行かないでと締めつけてしまっているような気がする。キスをねだると、予想以上に愛にまみれた口づけが私の舌の上で滑らかに踊り狂う。目を閉じてその愛しいキスに浸っていると、彼の指が私の身体を震わせた。思わず開けてしまった瞳が出会ったのは、彼の妖艶な表情。


「嬉しいよ、が気持ち良さそうで」
「ぁっ…!ちょっ…待っ、て!」
「待つって何を?待ったって仕方ないだろう」
「ひゃっ…両方ゃっ、ぁっ」


 与えられる快感がオーバーヒートする感覚は、いつまで経っても慣れることを知らない。その感覚に一瞬ストップをかけたくなるけれど、彼が止まってくれたことなんて今まで一度もない。だって、膨らんだ蕾が彼に触れられて喜んでいることくらい、認めたくないけど自分が一番理解しているから。中の世界が、彼に彷徨われて笑っていることくらい、自分が一番理解しているから。彼の指の動きと合わせるかのように漏れる自分の声がとても卑猥でいやらしい。けれど彼はそんな私だって可愛いと言ってのけるから、この恥じらいはいつもふわふわと宙に浮いてしまう。
 私を色っぽい目で見つめていた彼の顔が急に視界から消えた。代わりに先程までとはまた違う快楽。彼のくちびるがおなかの上に落とされると、そのくちびるがどんどん下へと降りていく。今までの音に比べれば太ももに立てられたちゅ、というリップ音がとても可愛らしく感じてしまう。けど、彼のくちびるが私の陰核に触れた瞬間に再び衝撃は走る。息を吹きかけられるだけでも反応してしまうこの身体に、彼のくちびると舌は刺激が強すぎる。脚を閉じてしまいたくなる気持ちさえも彼の手によって阻まれ、けれどもそれにドキドキしてしまう自分が信じられない。そうしている間にも彼の舌は私のあらゆるところを這いずり回り、身体の中さえも喜ばせる。その動きが止まらなくなればなるほど、私の漏れる声も微かに揺れる身体も止まらない。
 一度満たされた愛に息を整えながら余韻に浸る。そんな暇はもちろん無に等しい。彼の大きくなった陰茎が視界に入ると、それに気づいた彼がふ、と笑った。


「そんな物欲しそうな目で見るな」
「え?」
「我慢出来なくなるだろう」


 我慢なんてするつもり、ないくせに。それに物欲しそうだなんて、私を卑猥な女みたいに言うものだから今すぐ反論の言葉を出さなければ。でも、不思議なことに言葉が出て来ない。「そんなこと」の続きの言葉が勝手に飲み込まれてしまう。だって、嘘ではないもの。私の心と身体は彼の巧みな愛撫によって、大きく膨張した彼の陰茎を受け入れる準備はもういつだって出来ている。彼の亀頭が私の陰核付近を撫でると、いつ挿入されるのだろうか、それとも焦らされているのだろうかという感覚を味わっているようで、それだけで心に沸き上がる感覚が私を身震いさせる。そんな様子を上から見てる彼はとても楽しそう。


「その顔も色っぽくて可愛い」


 私の脚を持ち上げる彼のその行為にでさえ、酔いしれることが出来る私は重症なのかもしれない。これから繰り広げられる戯れが容易に想像出来るこの瞬間は決して嫌いじゃないから。ゆっくりと花びらに埋もれた道をかきわけるかのように入ってくる彼自身が1/2ほどのところで一時停止する。またしても彼の微笑と出会った瞬間、突き抜かれるように勢いよく残りの1/2が侵入してきた。


「っ…!」


 止めることが出来なかった自分の声のあとに彼の吐息が耳を掠った。彼も私と同じような感覚に浸ってくれているのだろうか。そう思うと快楽と共にやってくる幸せ。彼の首に腕を絡ませ引き寄せれば、「愛してるよ」の言葉と共に耳に落とされる軽い口づけ。それだけならまだ良かったのに、耳にまで侵入してきた彼の唇が私を少々うるさくさせる。ぴちゃぴちゃと0の距離で鳴る卑猥な音は、水中でも宇宙でもない。現実を彷徨っているのにまるで浮いているかのよう。私の感情を表すかのように主張している胸元の中心は、彼に触れられる度に快感の悲鳴を上げる。優しく触れられたかと思えば弾かれるように触れられるその強弱に、ただ振り回されるのみ。彼の赤い舌が私の胸の先端で踊り回ると、生温かい舌のやわらかさに身をよじりたくなるほどの快楽が私を襲う。舌によって艶やかに光るその先端はいやらしい、と彼が目で訴えているようだ。


「んっ…ぁっ…」
「動くよ」


 いちいち言わなくても良い言葉たちは、すべて私の反応を楽しむだめだけに告げられているのだろう。彼は今まで一度も同じ動きをしたことがないように思う。単調のように見えてそうではないその動きが、私にいつも違う反応をさせるのだ。最初はゆっくり感覚を味わうように動いていた彼が徐々に加速し私の声も短く切れるように漏れる。両手を口に持っていき、声が漏れないように努めるも、彼に優しくその手を奪われた。


「駄目だ。の声が聞こえないだろう」
「だって、我慢出来ないっ…からぁっ」
「しなくて良いといつも言ってるのに」
「恥ずかしい、っ…ていつも言ってるのにっ…ぁっ、っ」
「じゃあ言い方を変えよう」


 緩急をつけられるその腰の動きが緩やかな間でさえ、快楽を感じてしまう。こうした甘い時間を過ごしている時、毎回と言って良いほど同じ会話を繰り返しているような気がする。私を恥ずかしがらせる彼、恥ずかしがるのを拒む私。そしてだんだんと余裕がなくなって言葉じゃない喘ぎ声と吐息しか漏らすことが出来なくなって結局はジ・エンド。


「これじゃあキスが出来ない」


 狡いと思いつつ、彼に奪われた私の手は一切の抵抗を見せない。それどころか、彼に両手を奪われて頭の上でまとめられているという、ちょっと強引なその行為に男という異性を感じて少しばかり興奮してしまうなんて。優しく抑えられているから逃げようと思えば逃げられるのにそれをしないのは、彼から与えられる感覚を味わっていたいからだ。そうしてあらわになったくちびるが思い切り奪われ、同時に彼の腰の動きがまた少しずつ速くなる。私の漏れる声を追いかけるように彼の吐息と声が重なる幸せ。耳を澄ませる余裕は残念ながら無い。彼が苦しそうに、でも気持ち良さそうに私の耳元に声を落としていくものだから、私はその声だけで簡単に快楽を得ることが出来る。ベッドが叫ぶように軋み、私の快感が頂点を迎え、彼から今日一番の甘ったるい声が漏れた後のキスが何よりも大好きだったりする。








「赤司くんって最中何考えてるの?」


 一段落したあとの幸せは、他人には説明出来ないほど居心地が良い。彼の素肌にくるまれるこの時間は、どんなにふわふわで温かい毛布だって敵わない。吸いつくようにくっつくこの肌同士は、お互いがお互いを必要としている証拠でもあるのだろう。


「…のことだよ」
「ちょっと間があったね」
「唐突に聞かれて驚いただけだ」
「本当にー?」


 ふと、今まで抱いていた純粋な疑問を彼に投げかけてみる。珍しく数秒開いた彼の答えは当たり障りのない期待ハズレの回答。じゃあ、正解は何なのか?それは私にも分からない。ただ、彼が珍しくも一瞬考えたということが意外だったのだ。もちろん、私のことを考えてくれているというのもきっと事実なのだろう。けれど、それ意外にきっともっと彼の脳内を占めているものがあるはず。それって何だか少しだけ悔しいかもしれない。一体何が彼を夢中にさせているのか。


「流石の僕でもは誤魔化せないらしいな」
「え?」
「本当は自分のことばかりだよ」


 “の可愛い顔を僕が与える快楽で歪められて、それを見ることが出来るのは僕だけだと思うと余計愛しいだとか、の中は相変わらずあったかくて気持ち良いだとか、とひとつになることが出来て幸せだとか。そんなことばかりだ。”
 思った以上に饒舌に語る彼に何だか何も言えなくなってしまった。自分のことばかりと言いつつも、そこに必ず私が存在しているのが嬉しい。一緒に幸せを共有出来ていることが嬉しくて、降り注がれた言葉が甘いものばかりで。たった今、甘い時間を終えた私にその甘さはたえられない。顔を俯かせて彼の胸板に額を押し込める。


「失望した?」
「まさか」


 いつも私より落ち着いていて私を安心させてくれる彼も、普通の男の人だったのだ。彼がこんなにも温かいってことは私だけが知っている私だけの特権。隙間のないこの距離に身を委ねて顔を上げれば、瞼に彼のくちびるがやわらかく当てられる。


「そうか、なら」


 あ、またさっきと同じ表情。挑発するようなその表情は色気を孕んでいて私を視線ごと掴まえる。もう彼のこの目に心を奪われたらアウト。逃げる気さえも消滅する。そんなに物欲しそうな顔で見ないで。あ、さっき彼が同じことを言っていたっけ。なるほど確かに、我慢出来なくなりそう。


「止めなければ、やめないよ」


 私が止めないどころか止めないでと思っているということを100%理解していながらのその台詞には悪意を感じるけれど、嫌な悪意なんかじゃない。けれど悔しいので「止めないで」とは絶対に言ってあげないんだから。だから代わりにもう一度彼の首に腕を絡めて思いっきりキスをしてやるの。そしたら、彼だってもうそんな事を聞く余裕なんてなくなるはずだから。




花に愛


を目の前にして余裕なんて、とっくにない)