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彼女のことはすべて理解しているつもりだ。今こうして部屋で一緒に映画のDVDを観ている時だって、画面に流れている映像には申し訳ないが、僕の頭の中は彼女のことでいっぱいだ。例えば、僕にもたれかかってくる重さがちょうど良いだとか、彼女のキレイな髪からシャンプーの香りが漂うこととか。その存在全てに落ち着くだとか。彼女は映画に夢中だろうから、僕がそんなことを考えているとは全く気づいていないだろう。 「あー、こういう展開かぁ」 ポツリと呟いた彼女の一言は少し落胆が含まれていた。彼女のことを考えているとは言え、映画の内容は一応頭に入れている。典型的な恋愛映画。彼女が観たいと言ったその映画は、切なさをテーマにしているらしく、ある恋人同士のすれ違いが描かれている。少女漫画から映画化へ発展したらしいこの映画は、今のご時世にはよく受ける典型的なストーリーにも思えた。 「気に入らないのか?」 「そういうわけじゃないんだけど…」 主役である恋人同士の二人、それからヒロインの彼氏を奪おうとするヒロインの友人、そしてヒロインのことを昔から想い続けている幼馴染みの男、この複雑に絡み合った四角関係が画面の中で繰り広げられる。自分の彼氏と自分の友人との関係に不安を覚えるヒロインと、そんなヒロインが泣いているところを見ていられない幼馴染みの男。なるほど、僕にはあまり理解出来ないが、こういう悲哀を含む物語がきっと最近の流行りなのだろう。今は物語の中盤くらいだろうか。恋人同士である二人は別れてしまい、「お互いのため」という無理矢理前向きに終わらせた展開に進んでいる。流石の僕でも些か違和感を覚えたが、隣にいる彼女はもっと不満そうだ。 「別れちゃったね」 「そうだな」 「そんなの…ヤダ」 映画はまだ終わっていないというのに、僕の肩に額を擦りつけ画面を観ないようにしている彼女は、この映画に相当感情移入してしまっているようだ。もちろん、何故かは分かっている。きっと、少しだけ映画の中のヒロインと自分を重ね合わせているから。 映画のヒロインは不安と焦りを感じ、更にはそんな自分自身に劣等感を抱いてしまう。自信が無くなり自己嫌悪に陥るという悪循環に襲われ、ひとり影で泣いていた。おそらくにはこのヒロインの気持ちがよく分かるのだろう。 「大丈夫だよ」 「何が?」 「所詮作り話だ」 「そうやってまた夢の無いことを言う…」 「現実とは違う、ってことだ」 「え?」 「…昨夜、また泣いただろう」 は僕に一切気づかれていないと思っているだろうが、僕にはが隠れてこっそりと泣いていることくらいお見通しだ。彼女はいつも元気で笑顔で、僕にもたくさんの幸せを与えてくれる。けれど、人間そんなにいつも元気でいられるわけがない。彼女にだっていくつも悩みはあるはず。それは自分自身のことでも、僕とのことでも。 「な、泣いてないよ!しかもまたって…」 「今日のメイクがいつもと違って見えたから」 「そ、そんなところまで見てるの?」 「当たり前だろう。それにそうじゃなくてもの様子で分かるよ」 僕がに抱く唯一の不満でもある。彼女は何か落ち込むことがあった時になかなか僕を頼ってくれない。それに、なかなか自分に自信を持てないようで、いつも勝手に不安に陥っている。僕とずっと一緒にいられるか、僕の隣にいて良いのか、僕と釣り合っているのか、など下らない悩みをひとりで抱え込んで悩んでいるようだ。彼女から直接聞いたことはないが、彼女が極たまに無意識に零す言葉や表情の数々で、彼女が何を思って考えているかなんて容易く理解出来る。 「僕の前では強がって欲しくない」 「強がって、なんか」 「それにはもっと自分に自信を持って良い」 しかし、にそう思わせてしまっている、隠れて泣かせてしまう僕にも非はある。僕が男としてもっと大きな器だったら、きっとにそんな想いをさせないで済んだのかもしれない。の前ではどうも完璧な男ではいられないらしい。 「何せ、は僕の自慢でもある大切な存在なんだから」 だから不安になる気持ちも理解出来ないわけではない。僕には彼女を幸せにするという絶対の自信があるが、それでも彼女があまりにも眩しくて素敵な存在である故、極稀にではあるが情けなくも焦りが生まれてしまう時もある。けれど、の笑顔がそれを補ってくれるのだから、僕だっての力になりたいじゃないか。 「それに、隠れて泣かれるなんて僕が嫌だ」 子供みたいなことを言ったと自分でも思う。けれど間違いではない。のその「自信が無い」という感情たちは僕からしたら不要なものだとも思うが、無理矢理すぐに掻き消すようなものでもないだろう。ゆっくり、ゆっくり溶かしていけば良い。だから「泣くな」とは言わない。でも、どうせなら僕の前で泣いて、僕が涙を拭って、僕が抱きしめて、僕が慰めてあげたいじゃないか。しかし、これではまるで今もひたすら流れている映画の中の幼馴染みの男みたいだ。けれど、僕は幼馴染みじゃない。の恋人だ。それにこの物語と僕たちは違う。仮にこの映画がハッピーエンドになったとしても、僕は彼女が他の男に慰められるなんていう隙を作るつもりは毛頭ない。 「今、ちょっと泣きそうかも」 「何故だ」 「嬉しくて」 「泣いたら視界がぼやけて映画が観れないよ」 「映画なんて、もうどうだって良い」 今まで彼女の中で張り詰めていたものが解けたのだろうか。確かに少しだけ涙目になっている彼女の瞳は、輝くほど魅力的だ。抱き着いてきた彼女の頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれるものだから、こちらまで幸せになってしまう。 「まぁ僕はの泣いてる顔も嫌いじゃないけど」 「ど、どうして?」 濡れた瞳をくちびるで奪ってあげれば、今度は彼女の頬が赤く染まる。涙を流すことに不安を覚えなくなった彼女の姿に不思議と僕が嬉しい。もう不安になんてさせない。仮にさせてしまったとしても、何度でも抱きしめてキスをして励ますから。テレビの電源を切って彼女の耳にありったけの愛の言葉を落とせば、きっと彼女も自信を持ってくれるだろう。 「余計愛しくなるから」 |
ダイヤモンドな
くちどけ
(でも、やっぱりの笑ってる顔が何より好きだよ)