蝉がこれでもかというくらい全力で鳴いている。それだけ鳴けば、この世に未練など一切残さず天国へ行ける だろう、と種族の違う私たち人間にそう思わせるほど、力一杯鳴いている。これが緑豊かな場所なら、気持ち の良い夏の風物詩のようなものに感じるのかもしれないが、コンクリートだらけの家が建ち並ぶこの辺では、 余計暑さを感じさせるもの以外の何者でもない。蝉に罪は全くないが、暑苦しいと不快な思いをさせられるこ とも稀にある。




「暑ーい。暑いよ、大輝くん」
「るせーなぁ。俺だって暑いんだよ」




エアコンがついている部屋だというのに、なかなか涼しくならない。窓を閉めているのに聞こえて来る蝉の声。 それはどちらも外の猛暑を物語っているようだった。

青峰の部屋は普通の今時のオトコノコらしい部屋だった。その辺にグラビア雑誌が置かれていたり、バスケに 関するものが無造作に置かれていたり。ちなみにはグラビア雑誌やそういう類の雑誌がその辺に置かれて いても全く気にしていなかった。最早気にしても無駄なのだ。最初はそんなに胸が大きくない自分への嫌味か !などと思わされていた雑誌たちも、今となってはもう慣れたからか、その辺の雑誌と何ら変わりはない。た だ、それらの雑誌はが見ても面白いと思えるような内容ではないため、彼女は近くに置かれていた月バス をベッドの上で足をパタパタさせながら読んでいた。青峰はそのベッドの下で週刊漫画を読んでいる。これは 、二人の休日の過ごし方のひとつでもあった。




「確かに大輝くんは暑がりっぽいよね」
「お前・・・それ、色の黒さで判断しただろ?」
「うん」
「つか、お前も夏で結構焼けたな」




はパタパタとさせていた足を突如制止させた。なぜならこの夏、一番気にしていたことを言われてしまっ たからだ。
以前まではそんなに肌の色を気にする彼女ではなかった。夏くらいは黒くたって、どうせ冬になれば戻るのだ から。そう思っていた。しかし、先日黄瀬と他愛もない会話をしていた時に肌の色の話になると、その考えは キレイにリセットさせられた。「やっぱ色が白いと女の子らしくて良いっスよね」「・・・え!?」「何か可 愛いじゃないっスか」そう話す黄瀬の言葉にはその後絶句した。何故なら自分は少し肌が焼けて色が黒く なってしまったからだ。元々そんなに白い!というわけではなく、だからと言って黒いというわけでもなかっ たので、他の人間からは分からない程度だが、本人からすれば黒くなったと思えて仕方がなかった。正直 、黄瀬にどう思われようが構わないが、黄瀬の意見=世の中の男の意見と思ってしまっていたせいか、は 大きな衝撃を受けてしまった。そのあとの「でも、日に焼けたこんがり色の女の子も元気そうで可愛いっスよ ね」という、黄瀬の発言は全く耳に入らなかった。




「いて!何すんだよ!」
「ひどい!気にしてるのに!」




は怒りを込めて雑誌の背表示のところで青峰の頭を殴った。この乙女心がお前には分からないのか!とで も言うような思いを込めて。けれども、青峰が乙女心なんて理解出来るはずがない。そうすぐに感じたは 、彼を責めることを諦めるように、今度はベッドの上に置かれていた枕に顔を埋めて拗ねたのだ。




「おい、何ふてくされてんだよ」
「別にふてくされてないもん・・・」
「ガキか」
「うっさい!」




このぶつけようのない怒りをどうにかして鎮めなければ。このまま青峰と会話をしていれば彼に八つ当たりを してしまい、喧嘩になってしまうだろう。だから、口を塞ぐように枕に顔を埋め、自分自身が落ち着くのを待 ったのだ。
すると、ベッドのスプリング音がギシっと鳴ったのがやけに響いて聞こえた。足元は他の身体の部分より少し 沈んでいる。青峰がベッドの上に乗ってきたのだろうと、は何となく感じることが出来た。そもそもここ は青峰のベッドなのだから、問題なんて何一つない。




「良いじゃねーか。焼けるくらい」
「良くない」
「お前の場合こうして白さが際立つんだからよ」
「あ、ちょっと!」




そう言いながら青峰はの着ていたTシャツの肩部分を少しだけズラす。彼の言う通り、そこは日頃服で覆 われていたからか、きめ細かい白さを保っていた。そこまで色白とは言えないの肌だが、焼けてしまった 肌に比べたら当然白い。励まされるように、その肩部分へ甘い唇を落とされてしまえば、には羞恥心がじわじわと生まれる。その恥ずかしさを誤魔化すように、隠していた顔を青峰へと向けた。




「変態!」
「んだよ・・・ああこっちも白いじゃねーか」
「ちょっとちょっとちょっと!」




身体を少し起こしたは容易く青峰に捕まり、今度はTシャツの前部分の首元を人差し指で引っ張られ、着 けていた下着と肌を容易く覗かれてしまう。彼氏と言えど何という変態行為!そうは思ったのか、慌てて 青峰の手を払い、自分の手で服を抑える。同時に青峰の舌打ちの音が聞こえ、このままだと危なかったという 危機感と、何とか防げて良かったという安堵感が生まれた。




「もう!」
「何、気にしてんだって」
「だって(黄瀬くんがあんなこと言うから!)」
「俺が良いって言ってんだから良いじゃん」
「え!?・・・良いの?」
「だからさっきから言ってんだろ・・・」
「あ、そうなんだ・・・ふーん。じゃあ良いや」
「単純」
「うるさい!」




先程まで過剰に気にしていたのが、青峰の一言で一気に考えが変わる。大好きな彼がそれで良いと言うのなら それで良い。は自分でも単純だな、と思いながらも少しだけ嬉しくなった。にこにこと一人で嬉しそうに 笑い、すっかりご機嫌になっただが、それはすぐに暗転することになる。




「え、ちょ」
「慰めてやったんだからな、感謝しろよ」
「そ、そんなこと頼んでなっ・・・ん」




あっという間に青峰に腕を取られたは、そのまま再びベッドへ沈む。沈んだと同時に素早く伸びて来る青峰 の黒い腕がの肌の上を滑る。それは自然な流れのように、素早く服の中へも移動し、彼の黒い腕との服 で覆われていた肌がさらけ出せれると、彼女の白さがより際立った。




の白さを知るのは俺だけで良い」




重ねられた黒く熱い肌に、彼女の白い部分を持った肌も焼けて同化してしまうんじゃないかと思えるほど、 伝わってくる温度は太陽の下より熱いのだ。




火傷した肌が
愛を語る

(彼の褐色なら染められるのも悪くはない)


HAPPY BIRTHDAY  2012.08.31