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もう何回同じことを繰り返してきただろうか。こんな悲劇にもなりきれない馬鹿で愚かな過ちはもう止めよう。 何度もそう思っては繰り返してしまう。それこれも全て目の前にいる男のせいだ。罪をなすりつけて、少しでも自 分を正当化することしか出来ないなんて、それもまた悲しい話である。 「またフラれた」 「またかよ・・・つか、早くね?」 「早いよねー」 「他人事みたいに言ってんじゃねーよ」 彼は目の前の課題をぼんやりと眺めたまま、無気力に答えた。勉強に関しては集中力が全くないのだと思う。 誤解しないで欲しいのは、私はここ2日風邪で学校を休んでしまって、その間に溜まった課題をし ているだけであって、彼みたいに試験の成績が悪かったから今こうして放課後に残っているというわけではない。 こんな課題、学年3位の私から すればあっという間に終わらせることが出来る。でも、それがなかなか終わらないのは、先ほど彼に話したよう に、心に穴が開いてしまったからだろうか。 「だってー」 「お前、頭良いのにすぐ男と付き合っては別れるよな」 「頭関係なくない?」 「いい加減そんな無駄なことやめりゃー良いじゃん」 「それはそうなんだけど、」 「、お前自身が一番そう思ってんだろ?」 当初はまさか彼とこんな話をする間柄になるとは思わなかった。たまたま席が隣になり、勉強の出来ない・・・ というか真面目にやろうとしない彼の指導役的存在として、教師が私を指名したのが始まりだ。けれども、お互い 真面目に取り組むことはなく、逆にそれが親しくなるきっかけだったのかもしれない。彼は課題を一切提出しない ので、たまに二人で放課後に残らされながらのんびりと課題をやったりした。そうして彼との時間をゆっくりと刻 んでいったのだ。 「やめられるもんならとっくにやめてるよ」 「まぁ、そうだろーな」 「どうやったらやめられると思う?」 「んなこと知るかよ」 「うーん・・・」 「何か夢中になれるもんとか、本気で好きな男作りゃあ良いじゃん」 馬鹿な男。私がこんな愚かなことを繰り返すのは、大輝くんに恋をしているからなのに。 いや、馬鹿は私だ。残念なことに、彼との時間を重ねていくうちに、私は彼に惹かれるようになっていた。けれど、彼には私と は正反対の可愛い幼なじみが傍にいる。私も何回か喋ったことがあるが、性格も良さそうな素敵な女の子である。 そんな実りそうにない恋をするくらいなら、簡単な恋に進んだほうがマシ。そうやって自分の心を誤魔化しながら 、違う男と付き合っては別れてを繰り返す。ほとんどが私に好意を持ってくれるところから始まるのに、フラれる のはいつも私である。おまけにその理由はいつも同じ。 『本当に俺のことが好きなのか分からない』 上手く誤魔化せているつもりだったが、どうやら毎回失敗してるらしい。それはそうだろう、何故なら私が好き なのはやっぱり大輝くんなのだから。 大輝くんが好きだから、そんな想いを捨てるために違う人と付き合って、でもやっぱり大輝くんが好きだから、 結局は別れてしまう。でも、そんな馬鹿げたことの繰り返しにもそろそろ疲れてきた。 「えー、それ難しくない?」 「別に難しくねぇだろ」 「・・・今はそんなこと考えられない」 「のくせに珍しく沈んでんな」 「んー・・・じゃあ慰めて」 「やだよ、面倒くせーし」 彼の視線は決してやる気のない課題に向けられたまま。面倒くさいと言いながらも、私の話はちゃんと聞いてく れるし、たまに彼らしくないと言ったら失礼かもしれないが正論を述べてくる。その正論を述べられる度に私の 心がズキズキと痛んでることさえ知らず、彼は私のためを思って言葉を与えてくれる。でも、そんなのはもうお しまいにしたい。 「じゃあ、ちゅーして」 何が「じゃあ」なのかは分からないけれど、本能的に出てきた言葉である。それに頻繁に男と付き合っては別れ るという無様な行為を繰り返す私を、きっと彼は「フラフラした軽い女」くらいにしか思ってないだろう。だから 、こんなことを言ったところで、重い空気にはならないだろうと思ったのだ。 「やだよ」 想像通りの返答だった。もちろん、期待なんてしていない。なのに、何故かは分からないけれど、彼のその答 えに私は満足出来なかった。彼は声色を変えることもなく、目線を泳がすこともなく、淡々と述べたのだ。別に そのことが不満だったわけではない。慌てて欲しかったわけでも本当にキスをして欲しかったわけでも、もちろんない。ただ、私の心は何故かスッキリしなかった。 「ちぇー。っていうか、課題終わった?」 「まだ」 「ええ!?ずっと真剣に見てたからもう終わるかと思ってたのに・・・」 「こんなもん、最初からやる気なんてねーよ」 「呆れた・・・」 確かに重い空気にはならなかった。その後の会話も今みたいに普段と何ら変わりはない。彼の態度も私の態度も 至って普通・・・のはず。けれど、やっぱり何かがフワフワしているというか、何だか煮え切らない。こんな風に 感じるくらいならあんな事、言わなければ良かった。あんな冗談言わなければ良かった。 でも、私にとっては半分は冗談ではなかった。先程も述べたようにキスをして欲しいと思ったわけじゃない。 ・・・いや、それもまた偽りなのだろう。残念なことにそこに愛がなくてもキスをしてくれたら、彼への 想いを忘れられるかもしれない。そう一瞬でも思ってしまったのが真実。だからだろうか、先程から胸をモヤモヤさせられるの は。 「もう暗くなるから帰ろう。明日で良いよ、多分」 「あー・・・そうだな」 一刻も早くこの空間から逃げ出したかったのかもしれない。ガタっと椅子から立ち上がる音がやたらと響いて 感じた。その音さえも、私を不安に襲う。もしかしたら今日のことがきっかけで、彼と今まで通りの関係を築け なくなるかもしれない。そう、それが怖くて今までもずっと逃げて、逃げ回ってきたのだ。彼からすれば、何て ことはない普通の一言だったのかもしれない。でも、私にとっては間違いなく勇気がいる一言でもあった。いつ も通り、いつも通りだけど、やたらと感じてしまう不安。そんな不安に襲われるくらいなら、先程の言葉なんて 早く忘れてしまいたい。私はそうやってまた、この場からも逃げだそうとしているのだ。 勝手に感じているこの重たい空気を外へ逃がし、窓を閉める。息をひとつ吐くと、背後に気配を感じた。彼も戸 締まりを手伝ってくれるのだろうと振り返ると、そこには私を見下ろす彼の目と出会った。その目が何を語っているの かまでは読み取れなかったが、彼はこんなにも大きかったのかと、ぼんやり思った。ただ、何故か体が全く動か なくて、その彼の目から視線を外すことも出来なかった。だんだんと、ゆっくりとお互いの目の距離が縮まる。「」と一言、私の名前を呼ぶ声も聞こえた。そして高い位置にあった彼の目が、もうすぐそこにある。どうすることも出来ず、ただ唇が重なったことだけは感じる ことが出来た。 「ど、うして?」 平静を装うと頑張ってはいるが、おそらく声は震えていただろう。すぐに離れた唇には間違いなく、温度が存 在していた。今まで他の人たちとしてきたキスとは違う、温度というものを感じたのだ。 「お願いされたからするなんて、俺はゴメンなんだよ」 彼の大きな手が勢いよく私の頭の上に乗せられた。このまま頭を握り潰せるんじゃないだろうかと感じられる くらい大きなその手は彼の唇と同じ、温度を感じた。 もしかしたら彼は、分かったのかもしれない。私が馬鹿なことを繰り返していた理由が。それが想像から確信 に変わって、私のことを迎えに来てくれたのかもしれない。そんな自分に都合の良い解釈かもしれないけど、そ う思わせてくれるのに充分な程、彼は温かいのだ。 「俺がにしたかったからしただけだ」 笑みを見せる彼の唇にまたも吸い寄せられた瞬間、今までの馬鹿な繰り返しをとにかく悔いた。 |
破った音が
物語を生む
(ようやく隣の彼と一歩を踏み出せる)