<WC開催中〜>


 自分で言うのも何だけど、元帝光中でキセキの世代、そして今は海常のエース。バスケに関わっていて、おまけにこの会場に来る程のレベルで俺のことを知らない人間なんていないと思っていた。
 そんな流石の会場内、他校の女子マネージャーと言えども俺にあからさまに近寄ってくる子なんてもちろんいないが、俺が通り過ぎると頬を赤く染めたり少しざわつく子が多い気がする。自惚れているかもしれないと、自分でも少しは思っていた。けど、これは本当に自惚れだったと今日気づかされたのだ。


「う、わ・・・!」


 自販機で飲み物を買ってすぐ振り向くと、ひとりの女の子とぶつかってしまった。小さくて見えなかった、と言えば失礼かもしれないけど全く気づかなかった上、女の子の華奢な身体にぶつかってしまったものだから、その女の子は軽くよろけて荷物を落としてしまった。小さいと言っても、女の子なら標準ぐらいだろうか。とりあえず地面に散乱してしまったその女の子の荷物を拾ってあげた。特に見るつもりはなかったけど、視界に入った紙を見ると試合の資料のようだった。どこかの学校のマネージャーぽい。


「はい、どーぞ」
「あ、ありがとうございます」


 ここで俺は違和感に気付いた。俺とこんなに至近距離で話しているのに顔を赤らめない、動揺しない女の子なんて普通はいないはず。なのに、この子は動揺することも戸惑うこともなく、とにかく普通。でも俺の顔をマジマジと見つめてくる。あ、ようやく俺が黄瀬涼太って気付いたんスかね?


「チャラそう・・・」
「え?」
「あ、いえ・・・何でもないです」
「いや、今絶対チャラいとか言ったっスよね?」
「言ってない!チャラそう、って言っただけ・・・あ!」
「ほら」


 何なんだ、この女の子は。俺がチャラそうに見えるってことは・・・まぁ否定しないっスけど。でも、普通初めて出会った人間にそんなこと言うだろうか?しかも俺相手にとか・・・よっぽどの正直か、それとも・・・。何にせよ、 こんな女の子は初めてでこっちが戸惑う。


「え、っていうか俺のこと知らない?」
「知らない・・・」
「マジ!?どっかの学校のマネージャーとかじゃないんスか!?」
「マネージャーですけど・・・」
「海常のエース、黄瀬涼太っス」
「海常・・・黄瀬・・・?」
「そう!モデルもやってるからどっかで見たことあると思うっスよ」
「モデル・・・へ〜」


 え!?食いつかない!?普通の女の子はまず俺を知っている。バスケをやっていなくても俺の存在を知っている女の子は多いはず。なのにそれを知らない上に、モデルをやってることを言っても反応が薄い!何で!?つーか、バスケ部のマネージャーなら俺のことくらい知ってるのが普通っしょ!


「・・・反応薄いっスね」
「あ、ごめんなさい。私の知ってる人の方がカッコイイと思って」
「はぁ!?」
「もしかして黄瀬くんって元帝光の?」
「そうっスけど・・・」
「じゃあ敦くんのお友達だ!」
「敦・・・ああ、もしかして紫原っちっスか。てことは君は陽泉?」
「うん」


 とか何とか話がズレてる気がするけど巻き戻せ!この子さっき何て言った!?「私の知ってる人の方がカッコイイ」・・・!?つーか、知ってる人なんて言ってたけど絶対自分の「彼氏」のこと言ってるっぽい。え・・・まさか紫原っちのことじゃないっスよね?確かに紫原っちもモテてはいたけど、あれカッコイイって言うんスか?つーか陽泉ほどの学校なら、俺の学校くらいチェックして!


ち〜ん。あ、いた」
「あ、ごめん。敦くん」
「紫原っち・・・久々っスね」
「あれ?黄瀬ちんじゃ〜ん、久しぶりー」


 久々に会った紫原っちは驚くほど変わってなかった。相変わらず怠そうでお菓子持ってて。でも、中学時代は今みたいに女の子の頭を撫でたりするような人じゃなかったと思う。なのに、今!と呼ばれるこの女の子の頭を撫でている・・・!え、マジ?マジで紫原っちが彼氏?つーか、俺が紫原っちに劣るってこと?


「え・・・二人って付き合ってるんスか?」
「いやいや、まさか!」
「え〜、そういうこと言うのやめてよー。室ちんに怒られたら嫌だし」
「室ちん?」


 どうやら室ちんと呼ばれる男こそ、と呼ばれるこの女の子の彼氏?らしい。紫原っちの口ぶりから、付き合ってはいるんだろうけど、彼女は「彼氏」とは言わなかったので、イマイチ曖昧だ。


、敦!」


 少し悩んでいると、凛とした声が背後から聞こえた。その瞬間、彼女の頬が赤く染まったので、すぐにこの男が彼女曰く「知ってる人」であり、彼氏なのだろうと分かった。


「二人ともすぐ迷子になるんだから・・・って悪い、取り込み中だったかな?」
「んーん、全然ー」
「あ・・・ス、スミマセン。ご心配おかけして」


 えええええ?ちょ、ちょっとちょっと!ずいぶんしおらしくなっちゃうっスね!さっき初対面の俺に向かってチャラいとか、かまして来た女の子と本当に同一人物っスか!?え、好きな男の前だと女の子ってこんなに変わっちゃうの?


「海常の黄瀬涼太っス」
「ああ、黄瀬くんか。敦から話は聞いてるよ。陽泉2年の氷室辰也です。よろしく」
「つーか、この人が俺のこと知ってるのにどうしてマネの君は知らないんスか」
「だって興味ないし」


 えええええ?そんなハッキリと言っちゃう!?つーか俺に興味ないとかどういうこと!?確かにこの人もイケメンかもしれないけど、俺よりカッコイイってサクっと言い切れちゃう??
 今まで抱いていた自信や自尊心が一気に崩れたような気がして、どうやら俺の中に生まれて初めての感情が芽生えてきているらしい。今までこんな扱いを受けたことがなかったから、何とも思わなかったけど、何か悔しい。


「・・・ねぇ、って言ったっけ?」
「そうだけど・・・呼び捨てにしないで下さい!」
「俺のこと興味ないって言ったの、君が初めてっスよ」
「え!?(ナルシスト!?)」
「このWC中に絶対振り向かせるから!」
「ええ!?どういうこと!?何でそうなるの!?」
「氷室、さんだっけ?」
「・・・何?」
「悪いけど、彼女奪わせてもらうっス」
「まぁ・・・無理だと思うよ」
「室ちん、その笑顔怖いからやめてよー」


 俺の挑発にムキにならないところを見ると、この人もかなり余裕があるんだと思う。何より、この人も俺と同じで自信があるんだ。でも、この人の自信は、彼女に愛されてるって自信。なら、そんな自信ごと奪ってやるっスよ。


「俺の滅多に出さない本気、覚悟しといた方が良いっスよ」





伸ばした手に
涙と唇を混ぜて

(生まれて初めて手に入れたいと思った)



<2013.08.11〜2013.10.06>