四天のテニス部の練習はとても楽しい、が練習は極めてハードである。の恋人である忍足謙也は、そのテ ニス部のレギュラーだ。もちろん練習をサボるなどということは許されないし、謙也自身もサボりたいと思うような人物ではない。けれども、急に休みの日に練習が入ってしまうと、入れていた予定が狂うことになるので、それだけが憂鬱な点だ。


「スマン!」
「・・・」
「今週は練習入らない思とったんやけど・・・!」
「・・・へーえ」
「この埋め合わせは必ずしたるから!」
「そう言って3回目・・・」


 謙也は部活のない休日は、やはりと一緒に過ごすようにしている。もちろん自分がそうしたいと思ってもいるし、もたまにある謙也とのひとときを楽しみにしているからだ。だから必ず休みの数日前にどこに行こうだとか、何をしようだとか、デートプランを練っている。しかし、ここ最近3週連続で急遽部活が入ってしまっているのだ。


「本当っにスマン!」


 謙也は全力で両手を合わせて頭を下げてへ謝罪する。しばらくするとが何も言わなくなったので、恐る恐る頭を上げ、謙也はの様子を見る。そこには顔を俯けているがおり、まさか泣いてるんじゃない だろうか!?と謙也に思わせるには十分だった。


「え、え、!?」
「・・・よね」
「え!?」
「まぁ・・・仕方ないよね。試合も近いみたいだし」


 謙也の想像と反して、は顔をパっと上げると怒ってるどころか笑顔で謙也に話しかけた。しかし、笑顔と言ってもとびきりの明るい笑顔ではなく、どこか憂いを秘めたような笑顔。その笑顔が余計に謙也の心をきゅんと締め付ける。


、スマン・・・」
「んーん。ちょっと寂しいけど我慢する」
「・・・え?」
「だって謙也の試合してる姿、私大好きだし」
「・・・!」
「だからテニス頑張って欲しいとも思うんだ」
「え・・・え、え、え!?」
「何?」
「何でそんな可愛いこと言うん!?」


 ちょっと拗ねつつ、ちょっと寂しがりつつ、でも自分の応援をしてくれる恋人のが、謙也はたまらなく愛しくなった。きっと、他にも色々と我慢しているであろうに、不満だけを押し付けて来るわけではなく、こうして自分を見守ってくれるに安堵感も生まれた。


「何ソレ!?」
「あああああ、あかん!そんな可愛いこと言われたらサボりたくなるやん」
「ダメ!」
「え?」
「練習はちゃんと出て!そういう真面目なとこもある謙也が、私は好きなの」
「何やねん・・・もう、俺を悩殺する気なんか!」
「悩殺って・・・」


 謙也は感動しきっているが、反対にの感情は冷えきって冷静だった。うう、と涙を拭くふりをしている謙也を冷たい目で見つめているが、そんな冷たさなどものともしないほど、謙也の内側はときめきと嬉しさと感動で熱くなっていた。


「そういう喝を入れてくれるようなオカンみたいなとこも好きやで」
「オカン!?」
「めっちゃ安心するし頼りがいあるわぁ」
「私はオカンじゃないのよ!」


 謙也は悪気など一切なく、本気で言っているのだが、にはお気に召さなかったらしい。オカンとまで言われて安心してもらえるのは嬉しいのだが、少し複雑だという思いがある。先ほど謙也に次の休日がダメだと言われた時以上に、は拗ねたくなった。


「分かっとるって。は俺の可愛くてしゃーない恋人やってことくらい」


 けれども単純なはそれだけで顔が赤くなり、そんな姿もまた可愛いと思った謙也は、思わずキスせずにはいられなかった。





溢れ出るほどの感情
(あー・・・あかん!もう全部が好きや!)



2012.8.12〜2013.8.11