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男性には女性には理解出来ない性欲が存在しているように思う。女性も持っているであろう欲の一つだろうが、 男性程ではないように思う。例えば、肩を抱いて来るその手も、頬を撫でるその手も、髪を梳きながら耳にかけ させるその行為も、全て欲の塊だろう。目が合った、と思う刹那に唇に強くも柔らかい感触を感じてしまったら 、それもう合図だ。腰を引き寄せられているその腕は決して逃さないと訴えているようで、頬を包み込むように 置かれたその手さえ厭らしさを孕んでいる。息をするのさえ許さない、というその強引なくちづけに酔いしれて しまうのも、また事実なのだ。 「んっ、ちょ、」 唇から漏れる声や吐息でさえ全て誘拐していく。制止の合図を告げようとしたその唇は、彼にとって都合が良か ったらしく、その熱い舌の侵入を簡単に許した。頬に置かれるようにしていた手はいつの間にか後頭部に回され ており、卑猥な音からは逃れられないことを示している。絡められては吸われるその感覚が口内どころか、脳と 心まで容易く犯す。一方的なその行為にむしろ依存してしまいたくなる衝動を生まされる。音と温度に犯されか けている間に、腰にあった手は胸の膨らみにさらりと触れ、シャツのボタンに手が掛かった。その流れるような 好意に感心している場合ではない。 「ちょ、も・・・ダメ!」 本気で彼の肩を押し返すと、時間が一時停止したように感じられた。押し返された彼は、珍しくきょとんと した顔をしている。それもそうだろう。私は今まで彼の行為を拒絶したことなど一度もないのだから。私だって 拒絶したくてしたわけではない。恥ずかしくて仕方のない行為ではあるが、あの熱くも甘い時間は決して嫌いで はない。むしろ幸せを育むひと時だと思っている。それでも、いつでもどこでも出来る程、私の心臓には毛が生 えていない。どうしても拒絶したくなる理由は確かに存在しているのだ。 「今日はダメ!」 「・・・・・」 「ちょ、そんな悲しい顔しないで下さい」 「・・・どうして?」 「その、体調が良くないので・・・」 いくら恋人でも、ハッキリとした理由を言うのは躊躇われた。けれども流石と言うべきか、彼は一瞬のうちに全 てを理解してくれたようで、笑顔で納得してくれた。その笑顔には少しだけ切なさも孕まれており、片方しか見 えない彼の目に、こちらの心臓までぎゅ、と握り潰されてしまいそうだ。 彼は外しかけた私のブラウスのボタンを丁寧に直し「気づかなくてごめんね」などと甘い言葉を、頭に手を置き ながら降りかけてくる。そんなこと気づく方がすごい、と思いつつも私の体調をちゃんと気遣ってくれる彼に、 より愛しさが込み上げてしまうのは言うまでもないだろう。 その所為か、少し離れてしまった隙間が何だかとても寂しく思えて埋めたくなった。自分勝手な自己満足の行動と分かってい ながらも、彼に抱き着いてこの寂寥を消滅させたくて仕方なかったのだ。 「あの・・・!でも、その・・・くっついてても良いですか?」 「・・・・・」 「た、辰也さん?(お、怒らせちゃったかな?)」 「・・・参ったな」 「え?」 「が可愛すぎて、どうにかなりそうだ」 思いがけない甘い言葉と共に、彼は甘い抱擁をプレゼントしてくれた。隙間がなくなったこの距離に、私は無性 に嬉しくなり彼の大きな身体をぎゅーと抱きしめる。お返しと言わんばかりに、彼の大きな手が私の頭を優しく 撫でると、もうそれだけで幸せの濃度に溶けて消えてしまいそうなほど、愛を感じることが出来た。耳元で聞こ えるくすぐったい唇が弾けるような音も、甘い時間を演出してくれる。耳にいくつもの唇が落とされれば、次の 標的は首筋へと移動した。私が身をよじらせるのに合わせるように、温かい温度を与えていく。唇を落とされた 全ての場所が火傷してしまいそうなほどの熱を持っているのは、私しか分からないだろう。 「でも、ちゃんと我慢するよ。に辛い思いはさせたくないし」 まさかこのまま、と言う私の些細な不安と馬鹿な期待は、彼の優しい言葉によって打ち砕かれた。自分で拒否を したくせに、少しばかり期待してしまうなんて、何て厭らしい人間なのだろうと思い、先程よりも顔が熱を持つ 。そんな私の浅はかな心も彼はお見通しなわけで、いつもの不敵な笑みを浮かべたあとに、唇を再び攫ってくれ た。一度触れ合ってしまうと、磁石のように離れられず、何度も何度も重ねてしまう。何回されても、何故か慣 れないその音や温度、感触に我慢が出来ず、小さな呻き声を上げて彼の胸に顔を押し付けることでしか、この無 駄な赤さは隠すことが出来ない。「ワザとやってるの?」だなんて言葉を囁かれるが、こちらこそ耳元で意地悪 く囁くなんて、ワザとやっているのではないかと疑いたくなる。事実、彼は笑っているのだから。 「そのかわり、次は抑える自信ないから覚悟しておいてね」 その言葉に少しの不安と期待を抱いてしまうなんて、私は馬鹿な女である。 |
眩耀する
七日前の予告状
(一週間後、言葉通りそれはそれは濃厚な愛を頂きました)