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「ねねねねね!敦くん!」 「・・・・・」 「無視しないで!敦くんってば!」 人より頭何個も飛び出た同級生を見つけて必死で追い掛ける。彼は特別背が高く、当然のことながら足も長い。 彼は普通に歩いている状態でも、私みたいな普通の女は小走りをしないと彼に追い付けないほどである。何とか 追いついて彼の名前を呼び、腕を掴む。けれども、彼は私が名前を呼んでも無視。腕を掴んでも構わず足を進め る。先ほども述べたように、いくら彼がゆっくり歩いても私は少し早歩きになる。 「・・・何?」 「お願いがあるの!」 「だと思った〜。でもお断りだからねー」 「え!まだ何も言ってないじゃん」 「ちんのお願いっていつもロクなことじゃねーし」 「ひどい、まだ何も言ってないのに」 「言ってなくても何となく分かるからヤダって言ってんの」 何とまぁ、この男は私がまだ何も言っていないというのに、私が何をお願いしようとしているか分かるらし い。いつも何も考えずにボーっとしているくせに、勘が鋭いというのだろうか。確かにそれは否定しない。彼と はクラスも同じだし部活でも選手とマネージャーという関係である。なので、何となくではあるが、私も彼のこ とはそれなりに分かっているつもりだ。だが、彼のことはどうでも良い。申し訳ないけど、どうでも良い。 「それでね、」 「聞くなんて言ってないし」 結局彼がお昼ご飯を買いに行くのにも着いて行き、そのまま屋上でご飯を食べるのにも無理矢理同席した。 目の前に広がるたくさんのパンやおにぎり。せめてものご機嫌を取ろうとお昼ご飯を奢ってあげると提案したの は間違いだったかもしれない。おかげで私の財布はいつも以上にすっからかんだ。 「あのね、氷室先輩に聞いて欲しいことがあるの」 「えー・・・てゆーかさー、室ちんと付き合ってんだから直接聞けば良いじゃん」 「本人には直接聞けない乙女心なの!」 「あっそー、まぁどうでも良いけど」 でも、何だかんだ言っていつも私のお願いを聞いてくれたり、いつも私の話を聞いてくれるのだ。面倒くさい と言いつつも、しぶしぶ話を聞いてくれたりするだけで心強いものである。 友人と所謂恋バナと言われるような話はもちろんするが、私は聞き手に回ることが多い。ほとんどの女の子は 彼氏への愚痴や不満、直して欲しいところなどを話題にする。けれど、私はお付き合いをしている氷室先輩に対 してほとんどと言って良いくらい不満もなければ文句も直して欲しいところもない。強いて言えば、基本誰にで も優しくとにかくモテるというところだろうか。でも、別に不満なわけじゃない。私は彼が好きで仕方ないのだ が、そんな話を同性である友人にすると少し場違いな気がするし惚気を自慢してると思われてしまうかもしれな い。そんな中、異性であり私のことも氷室先輩のことも知っている敦くん。おまけに色恋沙汰にあまり興味がな いからか噂を振り撒くような人間でもない。話を聞いて貰うにはうってつけの人物である。 「氷室先輩に私のどこが好きなのか聞いて欲しいの!」 「ヤダ、面倒くさい。てか、そういうのこそ自分で聞けば〜?」 「何かうざったくない?私のどこが好きなんですか?って聞くの」 「あー、ウザいかもね」 「ひど!で、でもだから敦くんに聞いてきて欲しいんじゃん」 「えー」 「まいう棒一ヶ月分でどうだ!」 「やる」 単純なところもまた彼の良いところである。お菓子大好きな彼は、こんな言い方は申し訳ないかもしれ ないが、お菓子さえ与えれば大抵のことは首を縦に振る。心の中でガッツポーズをし、あとは時を待つだけ。 そもそも何故、そんなことを聞きたいと思ったか。それは単純に聞きたいからである。自分に自信をつけたい からかもしれない。顔もスタイルも性格も至って普通な自分が、ハイスペックだらけの彼の隣にいて良いものだ ろうか?と思う自分もいれば、単純に興味本位で聞いてみたいという自分もいる。そんなこと知ってどうするん だ?と聞かれれば、ただ私が嬉しくてニヤニヤしちゃうだけである、多分。 そして時はやってくる。今日の部活動も全て終了し、各自クールダウンの時間となった。敦くんと氷室先輩が 傍にいるのを確認し、扉に隠れながら耳をダンボにしてマネージャーの仕事をやってるフリをしつつ二人の様子 をそっとうかがう。 「あ、そうだ。そういえば室ちんさー」 「何?」 「ちんのどこが好きなの?」 良いぞ、紫原敦!やれば出来る子じゃないか。そういえば、と言ってるあたりおそらく今まで私のお願いなんて 頭からとっくに消滅しかけていたんだろうけど、生憎私はしつこい女である。私の念が伝わったのか、ようやく 求めていた話題に話が繋がった。 「急にどうしたんだ、アツシ」 「何となく気になってさー。だってちんって本当に普通じゃん」 「そうか?」 「顔もスタイルも普通だしさ〜性格だって普通だし、どこが良いの?」 ちょっとちょっと敦くん!何もそこまで言わなくたって良いじゃない!普通の何が悪い!そりゃあ君は女子か らカッコイイとも言われ可愛いとも言われ、さぞかし可愛い女の子にモテモテなのでしょう。氷室先輩だって可 愛い子やキレイな人にモテモテってことくらい私だって分かってる。だからこそ、何故私なのか聞きたいのだ。 でも、そんなに普通普通言わなくたって!自分が一番分かってるのにぃっ! 「どこが、って改めて言われると困るな」 「何で〜?あ、特にないから?」 え・・・!困る、コマル、こまる?それってアレですか。あんまり深く考えたことがないっていうか、あんま り意識したことがないっていうか、あんまり好きなところがないっていうか、敦くんが言うとおり特にないっていうか・・・! 全然考えてなかった。特に私の好きなところがないかもしれないっていうことを。よく友人との恋バナも出てくる「 何となく付き合ってる」ってやつ?ひええええええ!き、聞かなきゃ良かったかも。 「全部だからだよ」 それはそれは耳を疑ってしまうような、魔法のような言葉でした。私のどん底に落ちた心がトランポリンに乗 って空高く舞い上がったくらい。全部、ゼンブ、ぜんぶ・・・!?氷室先輩が私の全部を・・・好き!?聞き間 違いじゃないよね。だって敦くんが顔を歪ませて「うわ」と言っているもの。ああ、今ここで踊りたいくらい。 でも、ここで嬉しくてはしゃいでしまったら今までの計画もパー。氷室先輩に全部バレてしまう。 「こうやってアツシを使って俺に聞いてくるところも可愛いと思うよ」 それはそれは耳を疑いたくなるような言葉でした。私は驚いて持っていた洗濯物をドサっと落としてしまいま した。そこには相変わらず笑みを絶やさない氷室先輩。そして特に驚きはしない敦くん。どちらもおそるべし。 扉に隠れて呆気に取られて立ち尽くしてる私の元へ来た氷室先輩が、落ちた洗濯物を拾ってくれた。 「あああああ、ありがとうございます」 「どういたしまして」 「じゃあちんはさー、室ちんのどんなとこが好きなの〜?」 「え!?それ聞く!?しかもここで!?」 周りの部員はバラけているとは言え、こんなところでそんなことを言えだなんて、流石空気が読めないではな く読まない男、紫原敦。そしてそれを止めない、止めるどころか楽しんでいる氷室辰也、先輩。この二人から逃 げることなんてもちろん出来ない。自分から仕掛けたのに、いつの間にか捕まったような気分である。 「え…全部、だけど」 「うわ、一緒だしー」 「だって本当に全部なんだもん!もし欠点があったとしてもそこも含めて好き。全部好・・・あ」 「嬉しいよ、まさかがそんなことを人前で言ってくれるなんて」 一瞬で我に帰った。間違ったことを言ってるわけではない。本心であり、本音である。なので「ち、違います !やっぱり違います!」だなんてもちろん言えないし言いたくもない。そして、だからこそ冷静になると顔から 火が出るくらい恥ずかしい。どうして私は人前で、敦くんの前であんなことを言ってしまったのだろうか。おま けに冗談かもしれなくても、彼が私のことを全部好きと言ってくれたあとである。そしてその後に「私も彼の全 部が好き(はーと)」だなんて、惚気も良いところだろう。 「別に直接聞いてくれても良かったのに」 「でも・・・そういうことイチイチ聞かれるの、男の人嫌がりません?」 「うーん、俺の場合はちょっと違うかな」 「違うって?」 「嫌っていうか、時間が掛かってしまうというか」 「ど、どういうことですか?」 「全部って言ったことに間違いはないけど、出来るならひとつひとつ教えたいくらいなんだ」 もしかしたら鬱陶しい、面倒くさい、ウザい、そう思われて嫌われてしまうかもしれない。そんな思いがあっ て本人に直接聞く勇気は持ち合わせていなかった。けれども、今思えばそれは全く不要な心配だったのかもしれない。だっ て、今はこんなにも幸せに満ち溢れていて、そんなこと考える隙間なんてないもの。 「の可愛くて仕方ないところをね」 敦くんの「ちょっと俺マジで空気なんですけどー」という声は残念ながら言葉の通り空気と同化して、ほとんど聞こえな かった気がする。せっかく彼が拾ってくれた洗濯物を、驚きのあまりもう一回落としてしまった。「ダメじゃな いか、また落としてるよ」と言われても全然怒られてる気分にはならない。むしろ落とさせたのは貴方ですけど ?と彼のせいにした。そんな私の悪い心がバレてしまったのだろうか。またもや落ちた洗濯物を拾ってくれた彼は 今度は少し何かを企んでるような笑顔をした。けれど、そんな顔を見れたのは一瞬で、急に私の耳元まで顔を近づ けてきた彼は、私にしか聞こえないくらいの声で言葉を囁く。 「数えきれないくらいたくさん教えてあげるよ」 |
零れても掬う唇が
そこにはある
(朝になっちゃうかもしれないけど)