最近彼についてすごく不思議に思うことがある。頭はともかくとして、あのスタイル、顔、運動神経、性格。 モデルまでやっているのだから「世間が認めるイケメン」というやつであり、すごくモテる。おまけに、運動は全般出来るよ うだが、バスケに至っては全国トップクラス。そんな高いステータスを持っているのだから、普通は気取ったり天狗になった り高飛車になったりしてもおかしくないだろう。それなのに、彼は割と謙虚な部分を持っているのだ。・・・顔以外には。




ー!教科書見せてっス」




隣の席である彼はクラスメイトであり、部活仲間であり、恋人でもある。確かに顔は客観的に見てイケメンなので、モデルをやって いるというのも頷ける。モデルという華やかで皆のアイドルのような存在なら、普通は「彼女」の存在を隠したいものだろう・・・と思っていたのだが、そうでもないらしい。 彼は授業中だろうが休み時間だろうが人前だろうが、私へのスキンシップが激しい。おまけに部活中もシュートを決めると私に手を振ってきたりする。 どうしてそんなに愛情表現がオープンなのか。私が彼を不思議に思う最大の理由はこれである。




「何スか?人の顔じーっと見て」
「う、ううん」
「さては惚れ直したとかっスか!?」




私は返事をしていないのに彼は「嬉しいっス!」と言ってガッツーポーズをし、喜びを思いっきり体で表している。 そんな彼に「別に惚れ直したわけじゃないんだけど・・・」とは言えず、とりあえず黙っておいた。黙っていると彼は 「照れなくて良いんスよ」と言った。自分に自信があるのは良い事だと思うけれど・・・何だろう、何とも言えない。 他の面に関しては謙虚なのに・・・。確かに彼は客観的に見たらイケメンなのだろうが、私のドストライクなタイプではない。 だから彼をすごいカッコイイと思っている他の女の子たちと違って、初めて彼と出会った時から割と冷静に接すること が出来た。




彼は、お昼後の授業中はお腹がいっぱいになってしまったからか、日頃バスケとモデルで疲れているのか、理由は明確ではない が大抵居眠りをしてしまうことが多い。私は割と真面目な性格なので、彼の分までノートを取ってあげている。もう何回も、 毎日のようにそんな事を繰り返しているのに、彼は毎回「ありがとっス!」と言って所構わず私に抱き着いてきたりする。 もちろん今日もいつものようにそんな時間を過ごしていると、あっという間に授業も終わり2人で部活へと向かう。




「今日はのために新しい技を身につけるっス」
「・・・何で私のためなの?」
「そりゃあ俺が強くなって海常が強くなったらも嬉しいっスよね?」
「うん・・・!」




私が笑顔で答えると、彼は太陽のようにニカっと笑い、私の頭を撫で「よし!今日も頑張るっスよ!」と張り切っていた。 私もジャージに着替えて体育館に行くと、スタメンの先輩は森山先輩と主将の笠松先輩がいた。私は何となく 森山先輩に声をかけてみる。




「やぁ、ちゃん。今日も可愛いね」
「・・・ありがとうございます」




森山先輩は「残念なイケメン」と言われている無類の女の子好きだ。黙っていれば結構カッコイイのに勿体ない。 もちろん私のストライクなタイプではないけど。そして私はそのまま森山先輩に一つの疑問を投げかける。 どこが似ているとうわけではないけれど、女の子にすごく優しいところとか、何となく涼太くんと似ている部分があるため、 気になっていたことを一つ質問してみた。




「森山先輩、男の人って女の子に可愛いとか平気で言ったり抱き着いたりするんですか?」
「え?どうしたの、急に」
「いや、森山先輩もさっき私のこと、気を遣って可愛いって言ってくれましたし」
「気なんて遣ってないよ。可愛いから可愛いって言っただけ」
「あ、ありがとうございます。あ、そうじゃなくて・・・」
「もしかして黄瀬のこと?」
「はい」
「良いよなー、黄瀬。俺も部活中、こんな可愛い彼女が側にいてくれたらなー」




聞きたいことが全然聞けない・・・。彼はペラペラと、もし自分に彼女がいてマネージャーだったらを想像、いや妄想して語 り出した。私はそれにただ「はぁ」や「そうですね」としか返せない。しかし、この部活は真面目でバスケ一筋!みたいな人が 多いので、他に相談する相手も森山先輩以外なかなかいない。




「あ、あの・・・森山先輩!」
「それでさ彼女に・・・ん?」
「そういう風にオープンな感じ、恥ずかしくないんですか?」
「全然。むしろ想いを伝えられないほうが嫌だからね」




おお・・・!何か良い感じのことを言っている・・・気がする。でも、成る程。要は自分の気持ちに素直ということか・・・ 良く言えば。確かに涼太くんは普段から割と素直であまり嘘とかもついたりしない。でも、だからと言って本能のまま人前であまりくっつ かれたり甘い言葉を囁かれても、される側であるこちらは恥ずかしくて仕方ない。いつも、結局は涼太くんのペースに巻き込ま れてしまうのも少し悔しい。




「そういうものなんですかねー・・・」
「そうだ、今度何も言わず黄瀬をじーっと見つめてごらん」
「えー、何でですか?」
「いつもとは少し違う反応が見れると思うよ」
「どうせ「惚れ直したんスか?」とかいつもと同じこと言いますよ」
「いや、賭けても良い。絶対いつもと違うから」
「オープンなことしないってことですか?」
「さぁ、それはどうかな。でも、どっちかだと思うよ」
「どっちか?じゃあ、負けたら何か奢って下さいね!」
「良いよ。あ、ほら。黄瀬来たみたい」




森山先輩が指をさす方向にジャージ姿の涼太くんが見えた。森山先輩とお互い頷き合い、私は早速実行に移った。 涼太くんの元へ駆け寄ると、彼は両手を広げて「ー!」と大きな声を発していた。だからそういうのが恥ずかしいのに! もちろん抱き着きはせず、彼の前で一度止まる。そして広げている彼の腕を掴んでそっと下した。必然的に両手を握ってし まっているような状況になっているけど、こうして彼の手を抑えておかないと抱き着かれそうだからこのままにしておく。 そして、森山先輩の言う通り涼太くんをじーっと見つめてみた。




、どうしたんスか?」
「・・・・・」
・・・」




あれれ?固まっちゃった。授業中の時みたく「惚れ直したんスか?」とか言わないの?これじゃあ賭けが外れてしまう。もはや涼太くんの愛情 表現がオープンすぎるとかはどうでもよく、森山先輩との賭けに必死になっていた。私は先程よりも更に一歩前へ出て涼太く んに近づいてみる。もちろん視線は外さない。見つめるというより睨んでいるのに近いのでは?と思えるほど涼太くんの顔を 穴が開くほど見ている。・・・何だかこんな至近距離だとやっているこっちが恥ずかしい!




「が、」
「が・・・?が、って何?」
「我慢出来ないっス!」
「え、ちょ・・・!」




涼太くんが私から顔を逸らし、下を向いたかと思うと今度は「我慢出来ない」とワケの分からないことを言ってきた。 しかし、更にワケが分からないのは顔を近づけて来た事だ。うわあああ!先程まではいくら近いと言っても身長差があるため、 顔は決して近くなかった。それなのに、急にいつもの涼太くんのおちゃらけた感じがなくなり、たまに見せる真剣な顔になって 顔を近づけてきた。あああ・・!「ど、どうしたの?」なんて口を動かして喋ってしまったら、唇同士が触れ合ってしまうん じゃないか!?というくらいの距離まで来ている。というかまかさ触れ合わせるつもり!?こんなに人がいるのに!? 以前、人前でキスをされそうになったとき、私が激しく拒んだため今まで人前でキスをされたことはない。森山先輩、 いつもと違う反応って、逆にオープンになりすぎるって事!?どっちか、ってさっきみたく固まって動かなくなるか、逆に オープンになりすぎるかってこと?どっちも来ちゃったんですけど!




「いでっ!」
「あたっ!」




キスされる、と思って目を閉じた瞬間、額に何か固いものが思いっきりぶつかったのを感じた。目を開けると、そこには笠松先 輩と、その笠松先輩に蹴られたらしい涼太くんが、頭を抑えている様子が見えた。どうやら、後ろから笠松先輩に蹴られた 涼太くんの頭が私の額にぶつかってきたようだ。




「お前ら・・・部活前に何やってんだ!!」
「痛いっスよ、先輩・・・」
「痛ぇじゃねぇ!黄瀬、お前こんなとこで何しようとしてたんだ、コラ!!」
「だって仕方ないじゃないっスか!があんな目で見てくるから!」
「人のせいにすんな!」
「だってあんな可愛い顔で俺のこと見つめてくるんスよ?ちゅーするしかないじゃないっスか!」
「バカか!おい、。お前も何やってんだ!?」
「いや、森山先輩が涼太くんを見つめてみろって言うから・・・」
「ギク!」
「おい、森山ぁ!・・・ったく、お前ら勝つ気あんのか!?」




熱血キャプテンこと笠松先輩に私たち3人はこってり絞られた。何で私まで・・・と思ったけれども、横で同じく怒られてる 森山先輩と涼太くんも少し可哀相だと思い黙っていることにした。小さい声で森山先輩に「騙しましたね?」と言うと 笑って「そんなことないよ」と言った。全然信じられない。




「賭けはどっちの勝ちになるんですか?」
「それはもちろん俺だよ」
「何で森山先輩の勝ちになるんですか?」
「いつもと反応違っただろ?」
「・・・そうですね、いつも以上でした」
「黄瀬にキスされそうになってあんなに慌ててたくせに」
「あ、あれはですね・・・」
「っていうことでちゃんの友達誰か紹介してね」
「おい、お前ら何喋ってんだ!反省してんのか!?」
「す、すみません!」




笠松先輩にくどくどとお説教され、ようやく解放された時にはぐったりだった。部活前から疲れてどうする、と肩を落として いると涼太くんが泣きそうな顔で私に謝ってきた。普段は「カッコイイ黄瀬くん」のくせに、こういう可愛い面まで見せてくるの は天然なのか、計算なのか。どちらにせよ反則だと思う。




・・・ごめんっス。俺のせいでまで怒られて」
「ううん。私こそ変なことしてゴメンね」
「でも・・・が可愛すぎるのがいけないんスよ!」
「え?」




反省してたんじゃなかったの!?結局私のせい!?しかも、微妙に嬉しいこと言われてるんだろうけど素直に喜べなくて複雑。 「何でそうなるの!?」と疑問を投げかける前に、涼太くんは私の肩に手を置き、耳元に顔を寄せてきた。




「だから・・・続きは後で、ね」




耳元で囁かれた耳が自然と赤くなる。だから、っておかしくない?と頭の中で冷静に考えている自分と、いつものおちゃらけた 笑顔ではなく何処か含みをもたせてウインクをしながら笑っている彼の顔を見て、何も言えない自分がいる。 不思議、なんて思ったら負けだ。
どんなに抗っても、彼のペースから脱出するのは無理そうである。





素直と打算は
紙一重

(本当は全部ワザとやってる!?)