夢を見た。それは俺にとってあまりに幸せ過ぎる夢。しかし、残念ながら夢とは現実に起こり得なさそうな事が極めて多い。 そう、俺が昨日見た夢も現実にはなかなか叶いそうにはない。




、聞いて聞いて!」
「何ー?」
「俺、昨日超ヤバイ夢見たんスよ!」
「えー、面白くなさそうだから聞きたくない」
「ひど!書きながらで良いから聞いて下さいっスよ!」




は先程から日直の仕事である日誌をキレイな字で書いている。本来なら日直というのは2人ペアの場合が多いが、生憎のペアが本日風邪で休みとなってしまったため、一人でこなしているようだ。

は俺の恋人でもあるがバスケ部のマネージャーでもある。どうせ同じクラスで同じ部活へ行くのだから、横に座って の横顔を見つめながら日誌を書き終えるのを待っていた。放課後なので教室にはもう誰もいない。今このの横顔は俺だけのもの。待って いる間、何も話さないのも退屈な気がして、俺は昨日見た夢の話をにしてみようと思った。




「んで昨日っスね・・・」
「聞くなんて言ってないのに」




のそんな言葉は鮮やかにスルーし、俺は話を続ける。




昨日めっちゃ幸せな夢を見たんスよ!ああ、もちろんが出て来るんスけど。俺とはいつもみたいに俺の部屋でまった り過ごしてるんス。は相変わらず月バスに夢中で、ほっとかれてる俺はベッドの上でそんなの後ろ姿を眺めてたんスけど。




「今月の月バスに俺載ってないっスよ」
「別に涼太を見たいわけじゃないから」




ってな感じで、まぁ相変わらずなんスわ。俺は少し寂しくなってベッドから下りると、そのまま後ろからをギュッと抱きしめた んス。もちろんは無反応なんスけど。の肩に顎乗せながら俺も月バスを一緒に読んでたんスけど、急にが本を テーブルの上に置いたんス。そして俺の足に手を乗せるんスよおおお!何だ何だって思ってるとが体を半分だけこっちに向けて頬染めてるんス。




「涼太・・・」
「な、何スか?(やべ、何か可愛い)」




あのがっスよ!?めちゃくちゃ頬を赤く染めて少し伏し目がちで俺の足の上に手を乗せて俺の名前を呼ぶんスよ!もう 既に色々ヤバいんスよ。もうめっちゃ可愛くてそのまま頬にキスしちゃおうかと思ったんスけど、が何言うのか気になって待ってたんス。そーしーたーらー!!




「・・・ちゅーして」




って言ったんスよ!!めっちゃヤバくないっスか!?しかも下を向いていた顔を上げて、上目遣いで涙目というおまけつきなんスよ!俺はもう何も言え なかったス・・・が可愛くて。それで頬に触れるようにちゅってしたら・・・




「・・・やだ。口にちゅーして」




もうドッカーンと俺の何かが爆発っスよ!だってが・・・あのがあろうことか「ちゅーして」っスよ!?そんなん でどうにかならないヤツがいたら見てみたいくらいっス!ああ、もちろん俺以外にそんなこと言わないんで欲しいんスけど ね。んで、口にちゅーしたら「・・・もっと」とか言うんスよ!?ああ、もう俺どうしたら良いんスか!?





「・・・っていう夢っス」
「何それ。しかも私に話すことか!」
「だって〜」
「だってじゃない!しかも中途半端だし」
「いや、それ以上進んだら・・・(ヤバイことになると思ったから)」
「・・・」




が侮蔑するような目で俺を見てくる。ご覧の通り、は俺とは違ってすごくしっかりした女の子である。そのため、 どちらかというとは滅多に甘えて来ない。・・・たまに、本当にたまに甘えてくる時があって、そんな時はたまらなく嬉しく なる。たまにだからこそ余計愛しく思えるのだろうか。




「・・・分かってない」
「え?」



彼女の声はこの無音の教室に飲み込まれてしまいそうなほど小さかった。俺でなければきっと聞き取ることは出来なかっただろう。 は日誌を書き終わったらしく、椅子から立ち上がりドアの方まで 歩いて行ってしまう。俺もそんなを後ろから追うように歩き、の先程の言葉の意味を聞こうとした。しかし、は教室のドアを開けると一時停止した。




?」
「・・・どうやら涼太は私を分かっていないようね」
「え・・・わっ!」




俺はの後ろにいたのでの表情は一切分からなかった。の「私を分かっていない」という言葉台詞は一瞬マイナスの言葉にも聞こえたが、すぐにそうではないことを理解した。
彼女は「私を分かっていない」、そう言ったあと、くるりと俺の方へ向いた。その瞳はとても魅力的で可愛いだけの瞳では ない。何か秘められた強さを感じる。そして、彼女は一歩前へ進み俺との距離を近づける。俺よりもかなり低いところにあ る彼女の顔を見ていると、急に制服のネクタイを片手で掴まれ思いっきり引っ張られた。 驚くとそこにはの閉じられた目と長い睫毛。そして唇には温かい感触があった。そのあとすぐににキスをされたと理解出来た。でも、3秒後には離されてしまう。




「私はね、キスしたかったら自分からしてやるの」




そう言って笑ったの顔はとても艶やかだった。
俺が呆然としていると、はくるりと踵を返し、歩いて行ってしまう。けれど、ふと見えた彼女の横顔と耳が今まで見た中で一番赤く染まっていたので、 そんな彼女に対してつい笑ってしまった。愛しさを感じずにはいられないと。俺もをすぐに追い、後ろから抱き着くと恥ずかしいのか「離して!」と相変わらず顔を赤く染めながら喚いていたが、そんな行動もまた可愛らしい。
さぁ、今度は俺からへキスをする番だ。





響き渡る愛しき鐘

(夢は現実には到底敵わない)