自分を完璧とまでは思わない。けれども、割と満足するほどには至っている。生まれ持っての才能だと言われてし まえばそれまでだが、才能だけでは今の俺にはなれていなかったと思う。例えば、青峰っちやキセキの世代の皆に 会っていなければ、バスケに出会っていなかっただろうし、バスケを続けていなかっただろう。海常に入って先輩 たちとバスケをしていなかったら、ここまで一生懸命やっていなかっただろう。例えば、バスケを始める前までの ように適当に軽薄に生きていたら、女に困ることはなくてもには出会えなかった。そんなことを俺の部屋へ来 たと一緒に、中学時代のアルバムを見ながら何となく思っていた。




「容姿オッケー、運動オッケー・・・」
「え、性格は?」




昔を懐かしんで不意に出た言葉だった。それにすかさず、厳しい言葉を入れてきたは昔と何ら変わらない。
は他の女と違って、昔から絶対に俺に媚びたりはしなかった。ほとんどの女が俺と話すときは声を高くして 可愛くみせようとしたり、くねくねしたりと女特有の持ち味をこれでもかと言うくらい出してくるというのに、は芯が真っすぐ伸びて いるかのように姿勢も声もよく通っており、俺にも他のみんなと同じ態度を取っていた。他のみんなに見せる笑顔 と同じ、他のみんなに聞かせる声と同じ。みんなに平等に優しく接していた。けど、俺はいつからかそんなに 不満を持つようになっていた。の中では自分も他の連中と変わらないのか、ということに。




「ひど!」
「だって本当のことじゃん」
「俺、これでも犬みたいで可愛いってよく言われるんスよ!?」
「そういうこと自分で言っちゃうのも何かなぁ・・・」
「だって本当のことっスもん」




先ほどが発した言葉と同じように返せば、口を少しへの字に曲げる彼女の顔が目に入る。だからこそ可愛 いと思える表情だ。と付き合う前の俺は、絶対この子の特別な笑顔を俺へ向けさせるようにしてやろうと思っ た。彼女の色々な表情を見たいと思った。いつも穏やかに笑っている顔を、怒らせてみたいとも思ったし歪ませて やりたいとも思った。そんな想いが積み重なり、いつの日からかを目で追うようになっていたのだ。念願叶い 、晴れて恋人となった今でも見ていて飽きない。というより、むしろ一緒にいてくれることに安堵感を覚える。俺 の醜い部分も受け止めてくれる彼女が、日々モデルなんて仮面をかぶっている俺にとっては何より大切な存在なのだ。




「え、ちょっと。いじけないでよ」
「・・・・・」
「涼太くん!ねぇ!」




もうずっと一緒にいるというのに、相変わらず出会った頃のままの彼女。俺がモデルという、表情を作れる仕事を しているということを、充分理解しているくせに、こんな簡単に騙される。床と目線を合わせている俺の顔を辛そ うとでも読み取ったのだろうか。掴んだだけで折れてしまいそうな華奢な腕を伸ばして俺の頭を撫でてくる。もう 子供じゃない。そんなことされたって嬉しくないけど、に撫でてもらったら嬉しいだなんて、自分は何と単純 なのだろうか。別に1ミリも落ち込んでなんかいないが、に触れられると癒されるようで、しばらく黙っていた自分はやはり性格が悪いと言われても仕方がないかもしれない。




「ご、ごめん。傷ついた?」
「うん」
「あ、でも私はそういうところ含めて涼太くんのこと好きなんだよ?」




フォローのつもりだろうか。でも、思ってもいないのに謝罪して、自分が述べた言葉を無理矢理訂正してこようと するより遥かに良いと思えた。自分の言葉に責任を持ち、素直なはやはり喉が鳴るくらい魅力的だ。もちろん 先程のフォローじみた言葉も本音と言えば本音なのだろう。もう可愛すぎる。そんな風に可愛い顔で、可愛い声で 、可愛い事を言わないでくれ。自分の真っ黒な醜い感情に飲まれてしまいそうになる。の言葉が嬉しく、笑いを堪えている俺を泣いているとでも思っているのだろうか。はひとりで勝手に動揺したらしく、滅多に自分か らは近寄って来ないくせに、俺を抱き締めるようにくっついてきた。このの柔らかさが、また堪らないくらい 癖になっている。さて、そろそろ正体を教えてやるとするか。




「本当?」
「うん、本当本当」
「俺のこと好き?」
「うん」
「・・・じゃあ俺がすること受け止めてくれる?」
「うん。・・・え!?ちょ、んっ」




目線をゆっくり上げ、の目に俺の顔が映った瞬間、思いっきりを抱き寄せ唇を奪う。最初は驚いてい たも、その熱いくらいの温度に感化されたのだろうか。抵抗はせず、大人しく俺を受け止めることを決意 したようだ。照れるくせにこういうときは従順になるところが、また堪らなく可愛い。の小さな頬に手を滑 らせ、耳に髪をかけてやっただけでビクと反応するところがいつ見ても俺の心を掻き乱す。の息が荒くなる のを分かっていながら、そのみずみずしい音に顔を赤く染めていると分かってながら、止めるなんて馬鹿なこと はもちろん出来ない。が俺の服を握るか、俺の胸を叩くかが序章の始まりの合図である。終了ではない、始まりなのだ。




「っ、はぁ」
「うん、少しは癒された」
「・・・馬鹿!わざと落ち込んだフリしてたでしょ!?」
「さぁね」
「もう!やっぱ最低!性格悪いっ!」




今まで何人の女に最低だとか馬鹿だとか、貶すような言葉を浴びせられて来ただろうか。けれどもそれを否定す るつもりもなかったし、どう思われても別に構わなかった。しかし、同じ言葉でもが言うと少し違う。に そのような言葉を言われても否定をする気は相変わらず持ち合わせていないし、そう思われても構わないとも思っ てる。ここまでは同じだ。しかし、他の女が言う俺の最低と、が言う俺の最低では全く意味が違うはずだ。 他の女に見せてきた最低の部分をに見せたことは神に誓っても無い。代わりにに対する加虐心のようなものが生ま れてしまったみたいではあるが。彼女はそんな俺の性格に悲鳴を上げているのだろう。けれども頬をそんなに 赤く染め、目を潤ませながら言われても凄みも説得力も何も感じない。むしろムキになってるところが可愛いなぁ 、なんて馬鹿なことを思ってしまうので、やはり否定する気は更々ないが。




「流石、俺のことよく分かってんじゃん」




俺が最低だと分かっていながら、俺の傍にいてくれるのはくらいかもしれない。けれども、その最低は 全てへの愛の一部なのだから構わないだろうと自分を甘やかす。最低と言われようが何だろうが、今は に愛を注ぐだけでこれでもかと言うくらい自分は満足している。
先ほど髪をかけた耳に俺の唇を近づけると、またしても彼女は硬直した。これから俺に何をされるのか何となく 分かっているのだろう。




「でも、そんな俺が好きなんでしょ?」




ならば期待に応えてあげようじゃないか。序章が終わったあとは誰もが知っているように本番への幕開けだ。 耳に始まりの鐘を鳴らすように唇の破裂音を捧げれば、あとは俺とがシーツという舞台の上で本能のまま踊るだけ。





艶笑する塩は
砂糖水の
海に沈む

(性格が悪い俺にはがちょうど良い)