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いつの間に半袖のワイシャツとなった制服。その白さは太陽の光りと相性が抜群であり、存在を際立たせる。もうすぐやってくる夏を黒子は静かに実感し ていた。 休養も必要ということで、稀に部活が休みになる時がある。休みとは言え、バスケがしたくて疼く体を何とか抑える のは一苦労だ。そんな小さな蟠りを抱えながら、珍しくまだ陽が明るいうちに学校を出ると、意外な人物に出くわし た。 「お疲れっス」 「黄瀬くん・・・どうしたんですか?」 帝光中の頃、チームメイトとして黒子と一緒にプレイをしていた黄瀬だった。彼の黄色い髪色は太陽によく映える。 そんなどうでも良いことを黒子は頭の隅で考えていた。なぜなら、黄瀬がわざわざ自分が通う誠凜までやってきた理 由くらい、何となく想像ついているからだ。それでも一応、どうして来たのか?と聞いてしまうのは条件反射みたい なものだろう。 「決まってるじゃないっスか!海常に来て欲しいんス!」 「・・・また、その話ですか」 「黒子っちが首を縦に振るまで諦めないっス」 「しつこい男は嫌われますよ」 「ひどっ!」 何回も断っているというのに、何回も誘ってくる。光栄なことではあると思うのだが、今は誠凜という場所でやって いくことを固く決めているのだ。だから何度来られても答えは同じ。それでもやってくる黄瀬に、黒子は毎回と同じ 答えを返そうとする。 「ストップ、ストップ、ストップー!!」 しかし、黒子のその言葉は猪突猛進してくる一人の人間によって掻き消された。片手をあげながら大きな声でやって くる彼女は、走りながら大きな声を出しているせいか、息切れがひどい。黒子と黄瀬の元までやってくると、腰を曲 げ膝に両手をつき息を整えている。何もそこまで全速力を出すことないのに、と黒子も黄瀬も思うのだが、彼女らし いと言えば彼女らしいので特に何も言わなかった。 「っち、久しぶりっスね!」 「ひ、ひさっ・・・久しぶりじゃ・・・ないよ!」 まだ息を整えている最中に喋ったからか、の言葉は途切れ途切れである。そんなの背中を黒子が優しくさす ってやると、少しづつの呼吸が安定してきた。息を吸って吐く、という当たり前の行動がようやく出来るように なると、は黒子に対してはお礼を言うのだが、黄瀬には正反対に睨みつけた。 「っち、相変わらず体力ないっスね」 「そんなことどうでも良いの!それより涼太くん!」 「何スか?」 「私の居ないとこでテツくん誘惑しないでよ!」 「誘惑って・・・じゃあっちの前なら良いんスか?」 「ダメ!」 黒子にとってこの光景を見るのは初めてではなかった。毎回、が黄瀬に食ってかかるよう な態度で接し、黄瀬は何事もないようにいつも笑って受け流す。まさか、自分を海常に誘うというのは口実で、実はを手に入れたくて来ているのではないか?黒子はひとりそう思うことが何回かあった。 「えー・・・あ!じゃあっちがウチ来ないっスか?」 「え?」 「え!?」 予感的中だろうか。この光景は初めて見た。黄瀬がを誘うことは今までにはなかった。黒子にとってそんな光景 は予想内と言えば予想内だが、予想外でもある。想像したことがあるとはいえ、黄瀬の空気を変えるような言葉に、 だけではなく黒子まで疑問の声を発した。 「帝光の時からっちのマネージャー能力は尊敬してたんスよ!」 「えー、嘘くさい」 「嘘じゃないっス!それにウチに来たら帰りに海とかで遊べるっスよ!」 「え、海!?」 「そっス。きっと楽しいっスよー」 「変なこと言わないで下さい」 黄瀬の口から出た「海」というキーワードにの冷めていた目が一気に輝きを持ったことに黄瀬も黒子も気づいた 。黄瀬の後ろにではなく、の後ろに尻尾がふりふりと可愛い動きをしているのが見えたような気がした。このま までは単純で素直で可愛らしい彼女が違うところへ行ってしまう。少しだけ危機感を感じた黒子は、制止の合図を静 かに放ったのだ。 「海行きたーい!」 「ほら、っちは乗り気じゃないっスか」 「」 いつもは彼女のことを「さん」と呼ぶ黒子だが、今は彼女の名前を呼び捨てで呼んだ。いつもと違うその言葉 、そして雰囲気に本人もはしゃいでいた気持ちを一時停止させ、黄瀬も少し驚いたのか言葉を発することはしな かった。その空気は悪くもなく良くもない、ただ、この空気を作ったのも黒子であり壊すのも黒子なのだ。 「海くらい僕が連れて行ってあげますから」 黒子のその言葉から数秒後、は地の底から自分の熱が昇ってくるのを感じ、それが頭のてっぺんまで辿り着いた 時、黒子に思いっきり抱き着いた。がこのように人前で黒子に抱き着いたりすることは、昔からよくあることで 、黒子も黄瀬も特に驚くことはない。これは予想外でも何でもなく普通なのだ。 「それに僕たちは誠凜が好きです。だからここから離れるつもりはありません」 「そーだ、そーだ!」 「・・・分かったっスよ。今日は諦めるっス」 「今日は!?涼太くん、もう来なくて良いよ」 「ひど!2人揃って本当ひどいっス!」 「だって本当のことだもん」 「まぁ、良いっスよ。相変わらずラブラブな2人も見れたしね」 「ラ、ラブラブ!?」 抱き着いているくせに、黄瀬の「ラブラブ」という言葉には恥じらいがあるのだろうか。一気に顔を赤く染める の顔は、黒子から見て愛らしい以外のなにものでもなかった。本当はこの場での頭を撫でてやりたいところだ が、黄瀬がいる前でその行為をすることに躊躇いを感じた。は頭を撫でられると、照れるからだろうか、視線を 下に移し頬を赤く染め俯いてしまうのだ。そんな姿を見るのは黒子の密かな楽しみである。黄瀬にからかわれるのは 一向に構わないが、のそんな愛らしい姿を見せるのはたまらなく嫌だった。 「さん、歩けないので離れて下さい」 「・・・はーい」 「じゃあ俺行くっスわ」 何とか可愛がってあげたいその衝動を抑え、黒子はに離れろと言う。自分で言っておきながら、素直に従われて しまったに少しの寂しさを感じてしまうが、今は黄瀬がいるので仕方がない。黄瀬が帰りがけに「また試合出来 るの楽しみにしてるっスよ」と言って帰っていったので黒子は「僕たちもです」と言い、去っていく黄瀬を見送った。 離れてしまった体温が寂しい。それは2人共通の思いである。しかし、先ほど離れて下さいと言われた以上、は 再び黒子に抱き着く図太さは持っていないようだ。けれども近づきたい。そんな想いを持っているせいか、の眉 尻は少しだけ下がっていた。そんなに気づくと黒子はひとりで口元が笑ってしまう。 「ほら、行きますよ」 黒子が手を差し出すと、の笑顔がその太陽に負けないくらいの輝きを見せる。握られた手から伝わる体温が熱く て、これから来るであろう熱く甘い夏を、静かに予感させた。 |
攫われる温度が
紡ぐ大地
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