太陽から守られているとは言え、その日差しと引き換えだとでも言うように、体育館の中は熱気で溢れている。 そんな熱さの中、運動部は激しい練習を繰り広げ、誠凜高校バスケ部も大会に向けて、その温度に負けないくら いの熱さで部活動に励んでいた。滴り落ちる汗が、拭っても拭っても止まらない。マネージャーであるでさえ、激しい動きをしていなくとも汗が流れてくるほどだ。




「おい!黒子がまた倒れたぞ!」
「あ、はーい」




熱さ、そして練習の厳しさに倒れる部員だってもちろんいる。そして、このバスケ部の中で比較的身体が小さ い黒子は、他の部員よりは明らかに不利だった。事実、このように倒れることは初めてではない。他の部員も マネージャーであるにとっても、最早手慣れたものである。
同じ1年である火神が黒子を肩で支え、と一緒に外にあるベンチへと向かう。そこは数少ない日陰となっ ており、休むのにはうってつけの場所だ。体育館の中と比べ、風にも当たれる心地の良い場所なのだ。




「おら、ここで休んでろ」
「火神くん、すっかり黒子くんを運ぶ係だね」
「それを言うならお前だってこいつを介抱する係だろ」
「はは、そうだね」




この固いベンチも、風が当たる外に存在しているというだけで体育館の中のベンチに比べれば、とても過ごし やすく居心地の良い場所に感じる。火神は怠そうな黒子をベンチへ投げ捨てるように置くと、すぐに練習へ戻 って行った。そんな火神の後ろ姿に逞しさを感じるだが、今は目の前の黒子である。彼にタオルとドリンクを差し出せば、すみません、と小さな声で 謝られた。こんなボロボロになってでも、打ち込めるものがあるのだから羨ましい。は羨望と労りの目で黒子を見ていた。




「あの・・・」
「ん?あ、横になる?」
「はい。膝枕してもらっても良いですか?」
「ああ、うん。・・・って!?」




相変わらず表情が読めない黒子に、驚きの顔を見せても無意味なのだろうと、はすぐに察する。ひとつ息 を吐くと、彼女もベンチへ座り、スカートから覗く白い太股がふわふわのクッションのように感じた。の その行動に満足したのか、黒子は「ありがとうございます」と柔らかく笑うと遠慮なく彼女の太股の上に頭を乗 せる。黒子がこのように甘えてくることは滅多に無いので、の心臓もいつもより少しばかり早く鼓動していた。
うちわでゆっくりと黒子の顔を扇ぐと、彼は気持ち良さそうに目を閉じた。その顔にも何故か自分が心地好くなるような感覚が生まれ、頬に感じる風に身を乗せるような微笑みが自然とこぼれていた。




「何だか・・・心地良いです」
「そりゃあ私が膝枕してあげてるんだから」
「そうでしたね」
「でも、あんまり倒れると心配になっちゃうよ」




彼女が柔らかく笑えば黒子もつられるように笑う。今日は穏やかに笑っているだが、いつもは倒れてばか りいる黒子を叱りながら介抱していた。しかし「倒れる前に言ってよね!」と毎回のように心配しながら叱っ てくるが、黒子は何より愛しかった。ここまで自分のことを思ってくれるのは彼女だけだろう。そう思う 度に無茶をすることさえ惜しまなくなってしまうのだから恐ろしい。けれども彼女の不安そうな顔は見たくな い。だから、その不安だけでもせめて拭ってあげなければ。黒子は上半身を起こすと、ゆっくりとベンチから 立ち上がり、の真正面に立った。そして自身の手をの頬にそっと触れさせる。暑さのせいだろうか、やけに体温が熱く感じる。




「黒子く・・・」




その声を塞ぐように柔らかく唇を重ねる。熱さを帯びながらも心地良いその温度に、は眩暈がする感覚を 覚えずにはいられない。これでは自分が倒れてしまう、そんなの不安を追い込むかのように黒子はもう一 回、熱い口づけをへ送りこむ。黒子のユニフォームをきゅ、と小さく掴むの手が、何だかとても可愛ら しい。そんな感情を抱きながらも、名残惜しく離れる唇が、余計熱さを帯びるような気がした。




「元気出ました」
「・・・馬鹿」




その頬の赤さはこの暑さのせいだろうか、それとも別の熱さのせいだろうか。下を向いていても分かる彼女の 熱っぽさに、黒子はそっと頭を撫でてやる。そうすると、彼女はどんなことがあっても笑ってくれるのだ。何 と単純で可愛らしい彼女なのだろうか。
先程の元気が出たという台詞は嘘じゃない。本当にと二人でいれば元気になれるのだから。また頑張ろうという気になるのだから。




「もしかして・・・ワザと倒れてる?」
「失礼なこと言わないで下さい」
「うう・・・ごめん」
「でも・・・そうですね。に膝枕してもらってキスまでさせてもらえるなら、倒れるのも悪くありません」




そう言うと黒子はもう一回、今度はの頬へ唇を落とす。に文句ひとつさえも言わせないように、いと も簡単に声を奪う。何回唇を奪っても毎回慌てる反応を見せる彼女に不敵な微笑みを与えれば、より面白い反 応を見せてくれる。出来ることならずっとこうしていたい。けれども自分が頑張ってバスケで勝つことによっ て彼女が喜んでくれるのだから、そろそろ練習へ戻らなければいけない。黒子はの手をそっと取った。




「そろそろ戻りましょうか」
「黒子くん・・・ズルイ!」
「何がズルイんですか。全く・・・仕方ないですね」




彼が呆れているように見せかけて実は楽しんでいる、ということがにはよく分かっていた。分かってはい るけれど、いつも余裕で簡単に操られてしまうことが少しばかり悔しい。その繋がれた手を離してやりたいの に離せないのも悔しい。握られた手が、間違いなく熱いのだ。次の瞬間、その手を思いっきり黒子に引っ張ら れる。自分の顔が黒子の近くにあると思うと、先程キスをしたばかりのせいか、余計恥ずかしくなる。耳元で 「」と小さく囁かれれば、それだけで敗北を認めてしまいそうな誘惑が、彼自身に存在しているかのように さえ感じる。




「じゃあ今度は僕が腕枕でもして一緒に寝てあげますから」




そういう意味で言ったわけではないのに、という彼女の叫びも黒子の愛によって脆く崩されるのだ。





人魚姫は
今日も眠れない

(だからそれまで良い子で待ってて下さい)