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目の前に広がるのは、まるで目印かのように転々と置かれている服だった。億劫な部活が終わり、家に帰ってきて玄関を開けるとすぐに目に 入った花柄のスカートは、間違いなく彼女のものだ。そのまま玄関に立ち尽くし、転々と置かれている、というより脱ぎ 捨てられている服を目で追っていると、今度は白色の温かそうなセーターが目に入った。その次はセーターの下に着て いたであろうキャミソール。その次は靴下、どうやら黒のニーハイらしきものが一本ずつ脱ぎ捨てられていた。 「ー?」 違和感を感じ彼女の名前を玄関から呼び掛けてみるものの、返事はない。仕方ないので転々と置かれた洋服を追うこと にした。ニーハイの次は・・・と辿ると、ついに彼女お気に入りのブラジャーが登場してきた。そういえば、この前 「一目惚れして買っちゃった下着があるの!」なんて女の子特有の喜びを見せていたことがあったような気がする。 そのブラジャーは白色でフリルがたくさんついてて、彼女がもしこれを着けていたら間違いなく襲ってしまうだろう。 そして次はラスト、パンツだ。パンツにもフリルがあしらわれており、この下着をつけていた彼女を見れなかったことを非常に残念に思った。 どうやら、この目印のように置かれた洋服たちはどうやら風呂へと繋がっているようだ。 風呂の方へ近づくと中から音がしていたので、彼女がいると分かり安心出来た。ドアを開けようとすると、 ちょうどタイミング良く髪を拭きながら彼女が出てきた。 「うわ、敦くん。お帰りなさい、というかお邪魔してます」 「どうしたの、これ?」 「え・・・あ!ご、ごめんなさい!散らかして・・・」 「それは別に良いんだけど、こんな風にするの珍しいなーと思って」 「帰りがけに雪が降って来ちゃって濡れちゃったから慌てて」 「慌てすぎだしー。風邪引いてない?」 「うん、ありがとう。敦くんも寒かったよね」 そう言って小さな手で自分の手に触れてくる彼女の手はとても温かかった。ギュッと握りかえすと彼女は可愛らしく 微笑み、今温かい飲み物入れるね、と言う。だが、その前には自分の下着が放置されており、見られたことに動揺 したのか急に「うわぁ!」と言い、脱ぎ捨てた洋服たちをかき集めていた。その後、キッチンに立つ彼女の後ろ姿を部 屋のソファーにもたれ掛かりながら見ていたらあることに気づいた。 「ー」 「何ー?」 「おいでー」 彼女の髪はまだ濡れたままだった。せっかく風邪を引かないようにと風呂に入って体を温めたというのに、これで風邪 を引いてしまったら意味がない。やかんの火を止めた彼女を、自分の足の間に来させ前を向かせるように座らせた。 この状態はいつもの彼女の定位置である。2人でテレビを見たりするときも、後ろから彼女に抱き着くようなこの形で いるのが一番落ち着くのだ。 「どうしたの?」 「髪濡れてるから拭いてあげるー」 「え!?」 「何?」 「いや・・・いつもは私が敦くんの髪拭いてあげてるからちょっとビックリした」 彼女に髪を拭いてもらうことは頻繁にあるが、拭いてあげることは今まで一度もなかった。彼女の肩に掛かっていたタ オルを取り、力を入れずに出来るだけ優しく拭いてあげると彼女は「んー」と気持ち良さそうに声をあげた。拭く度に 彼女の髪からシャンプーの香りがし、その甘さに酔いそうになる。 「んー、敦くんって髪拭くの上手なんだね」 「そう?」 「うん、気持ちー。・・・寝そう」 確かにに髪の毛を拭いてもらうのは毎回気持ちが良い。やはり他人に拭いてもらえると気持ち良いものなのだろう か。いや、それは彼女だから気持ち良いのであって、彼女も自分だから気持ち良く思っているのだろう・・・と思いたい。 彼女の長い髪が4分の3程程乾いてきたところで手の平を髪の下に潜り込ませ耳の裏と首に触れると「あ」と小さく可 愛い声を漏らした。 「、子どもみたいにあったかいね」 「あー、バカにしたでしょ?」 「してないけどー、寝られたら困る」 彼女を小さな体をこちらへ向かせると頬を赤く染めた彼女が上目遣いで見つめてきた。お風呂から上がってまだ時間が そんなに経っていないせいか、彼女の頬はまあるく朱くなっており、それがいつもより可愛く見せていた。ああ、どう してこんなにも愛らしいのだろうか。そのまま彼女の頬を片手で包み込み愛情の証を唇に落とすと、彼女は静かに目 を閉じた。 「あ、敦くん・・・」 何度も何度も繰り返すその行為の合間から漏れる彼女の自分を呼ぶ声が愛しくてやめられない。ちゅ、ちゅ、と音が出る、彼 女が好きだと言う柔らかいキスだけでは物足りず、彼女の赤くて小さい舌を捕らえる。彼女の手が自分の洋服を握って いるのが視界の片隅に見えた。その小さな手を握りかえしたいとも思ったが、頬を包んでいない片方の手はいつの間に か彼女の首、鎖骨、そして肩を撫でていた。ビクっと震えるのが毎回楽しくて仕方ない。 「ん、もう・・・」 「だってあんなもの見せられちゃねー」 「あんなもの?」 彼女が首をこてんとさせるので、指でそれを指すとただでさえ赤みを帯びていた彼女の顔がもっと赤くなり「ああ!」 と声を出した。指を指した方向には先程の彼女が脱ぎ捨てていた洋服たち。そして白のブラジャーとショーツが見えて いた。先ほど慌てて拾い集めていたようだが、運悪く下着だけが落ちている。 「見、見ないで!」 「何でー?元はと言えば俺に見せるために買ったんじゃないのー?」 「ち、違うもん!」 「まぁどうせ脱がしちゃうんだし良いけどねー」 「ちょ・・・ん」 そんな可愛い顔で、そんな可愛い声で、そんな可愛いものを見せられて手を出さないでいられるほど、自分もまた大人 ではないのだ。 |
盲目の中に
微かな目印