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「うわーん!敦くーん!」 部活が始まる少し前、部室にはキセキの世代と呼ばれる緑間、黄瀬、紫原、黒子がいた。各自着替えをしていたりと部活前の 準備をしているようだ。その部室の扉をノックもせず勢いよく開け、泣きながら部屋に入ってきたのは一人の女の子である。 部員が着替えているかもしれない、などとは考えもしなかったのだろうか。扉を黙って開け、一目散に紫原に抱き着いてきた 女の子は帝光バスケ部のマネージャーであり、紫原の小さな彼女である。小さな、と言っても紫原といるから小さく見えるだ けで、彼女の身長はそんなに小さいわけではな。むしろ女性の平均身長くらいはある。紫原以外にも、彼女の周りにいるバスケ 部員は背が高い。更に、もう一人のマネージャーである桃井もより背が高いため、はこの部内では背が小さいとよく 言われていた。勢いよく抱き着いてきた彼女を、紫原は優しく受け止めとりあえず彼女のさらさらな髪を撫でていた。 「どうしたのー?」 「青峰くんがイジメるの!」 「はぁ?イジメてねーし!」 「ちょっとー、峰ちん。イジメないでよねー」 「だからイジメてねーつってんだろ!」 「だって私にヒドイこと言ったじゃない!」 彼女の後ろから続けるように部室へ入ってきたのは同じくキセキの世代である青峰だった。は青峰を思いっきり指差しな がらキっと睨んだ。そして先ほどの言葉に続けるように「さっき『あんま小せーとそのうち紫原にフラれんじゃね?ああ、身 長だけじゃなくてお前の場合は胸もな、ハハ!』って言ったじゃない!」と啖呵をきるように言った。ちなみに部室にいた他の 面々は・・・と言うと、緑間は「下らない」とため息をつき、黄瀬はどうなるのか興味津々で見ており、黒子は靴紐を黙々と 結んでいた。 「うわ〜峰ちん、そんなこと言ったのー?」 「言ったけどよ、別にイジメたわけじゃねーだろ?」 「イジメよ、イジメ!うわーん」 青峰にとっては軽い冗談のつもりでも、にとっては最も気にしている核心をつかれてしまったらしい。ただでさえ同じマネ ージャーにスタイル抜群な桃井がいるのだから、比較されてしまうのは当然、と感じていた。もちろんにはの良さが あり、それを部員の皆も理解しているため桃井とを比較などしたことはないし、先程の青峰の発言も別にを桃井や誰か と比較したわけではない。ただ、本人であるは一人で勝手に気にしているのだ。 「かわいそー」 「んだよ、別に間違ったこと言ってねーだろ」 「そ、そうかもしれないけど!もっとオブラートに包んでよね!」 「んな面倒なことするか」 「うわーん、どっちも気にしてる事なのにー!」 の青峰への訴えは止まらない。ここにいるを除く全員、彼女がそんなことをそこまで気にしていたとは誰も思ってい なかっただけに少し意外であり驚いていた。今までも練習中なども、ワザと青峰にぶつかられて「わり、小せーから見えなかっ た」などと言われたり、黄瀬に「っちは小さくて可愛いっスね」などと言われ、からかわれていた事がよくあった。 彼らからすれば、それは単純にスキンシップの一つであり、他の女の子と並んでいると普通なのだからが特別小さいなど とは思っていない。 「つーかお前、そんなに気にしてたのかよ」 「当たり前じゃない!」 今まで秘めていた思いが一気に爆発したかのようだ。はまた紫原に抱き着くと「あららー」と相変わらず間延びしたような 声が頭上から聞こえた。は怒っているのか気まずいのか悲しいのか分からないが、とにかく顔を見られたくないのか紫原に自分の 顔をぎゅっと押し付けていた。 背や胸が小さいということもそうだが、何より気にしているのは紫原にフラれてしまうのでは ないかということである。まさかそんな事で紫原にフラれると思ってはいないつもりでも、他人から言われると傷つくものである。 しかも自分が気にしている点を指摘されてしまっては尚更だ。 「よしよし。、元気出してー」 「ぐすっ」 「てゆうか峰ちんさー、の胸とかまで見てるわけー?」 「はぁ?」 「それって俺的にもマジ気分最悪だしー」 「変態なのだよ」 「セクハラっス」 「無神経ですね」 「何でお前らまで急に入ってくんだよ!」 をあやすように慰めている紫原が、だんだんとキレ始めていることが周囲にも窺えた。あまり面倒くさいことは避けたいと 思った周りの面々は、紫原とに加勢するかのように口を挟み始めた。立場が悪くなってきたと感じた青峰だが、こちらも特 に怯む様子はない。・・・ただ既に面倒くさいと思っているだけで。 「まぁ、んな気にすんなって」 「人事だと思って・・・!」 「良いじゃねーか、お前ら仲良いんだから気にしなくたって」 「するよ!だって私たち、まだ・・・あっ!」 途中まで言いかけてはハッとしたように自分の手で自分の口を塞いだ。その瞬間、辺りに気まずい沈黙が流れる。 おそらく、この場にいる緑間以外は全員、彼女が何を言おうとしたのか分かっているのだろう。そんな沈黙を破ったのは意外 にも黄瀬だった。彼なりにこの空気を何とかしようと思ったのか、それとも素直に口に出してしまったのか。 「え・・・紫っちとっちってまだ・・・」 「うわー!!!何でもない!!何でもないの!!」 「んだよ、まだヤってねーのか」 「・・・っ、青峰くんのバカ!!!」 は顔を真っ赤にさせて再び紫原に顔を埋めるように抱き着いた。この状況の中、果たして紫原に抱き着くのが正解なのだろ うか、とも思ったが、他に術がないので紫原にくっつくしかなかった。その紫原はというと「んー」と少し考えながらの 背中を撫でている。 「もう恥ずかしくて無理。死んじゃう」 「ていうか、襲っても良かったのー?」 「「「「「え?」」」」」 「ずっと我慢してたんだよねー」 「ななななな・・・」 「あー、でも安心したー」 天然でもある紫原は自身の発言に対して何とも思っていないようだが、は顔から火が出るほど恥ずかしい思いである。 それも、こんなにも他の人がいる前で言われてしまってはどう返して良いのか分からない。結局また先程と同じように紫原に 抱き着いて顔を隠すしかないのだ。 「、顔上げてー」 「・・・やだ」 「はい、顔上げるー」 「わ、・・・え!?」 今までの頭や背中をふわふわと撫でていた紫原の手は、顔を上げさせるためにの顎へと添えられ無理矢理顔を上げさせ た。その瞬間、紫原の顔が予想よりもかなり近く、涙目だった目が一気に大きく開かれた。「あ、涙目になっててて可愛いー」 と紫原が言った瞬間、の唇には温かいものが触れた。その傍ら、黄瀬は「ヒュー」と一人で盛り上がっており、緑間は顔 を崩して「な、何してるのだよ!」と驚き、青峰は「うぜ」と小さく言い舌打ちをした。黒子だけは相変わらずノーリアクショ ンである。 「わわわわ・・・!」 「大丈夫ー。がどんなでも俺、絶対のこと嫌いになれないからー」 「あ、敦くん・・・」 「だから元気出してー」 微妙に違うんだけどな、と思いつつも紫原に励まされる(慰められる)機会も滅多にないので、このまま大人しくすることにした。こっそり上を 見上げるとやたらとご機嫌な顔で、しかも鼻歌まで歌っている紫原がの視界に入った。 これから迫ってくるであろう状況に妙な緊張を感じつつも、どうやら受け入れるしかないと覚悟したようだ。 |
稀有な逆転に
盛大な喝采を
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「・・・何か珍しいっスね」 「確かに違和感あんな」 「何がなのだよ?」 「いつもとは逆ですね」 「大抵、っちが紫っちの面倒見てるって感じスもんね」 「小さい母と大きい子供って感じだからな」 「まるで親子が入れ替わったようなのだよ」 「親子じゃないですよ。あの2人はちゃんとした恋人同士ですから」 |