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「ちょっと!何やってんの、」 部活も既に始まり、いつものようにコートの外に立って部員のデータや練習メニューをノートにまとめていると、少し遅れて きたであろう敦くんが珍しく慌てたようにやって来る。あまり出さない大きな声と、普段なら考えられないほどの早歩きで私 の元へとやってくる。周りの部員たちも、あの敦くんが珍しく大きな声をだしたからか練習を一時停止してこちらを見ている ようだった。 「何って・・・いつものように」 「そうじゃなくて、それ」 上から降るような声と「それ」というものを指し示す指は何故か私に威圧感を与える。 敦くんは私に対して滅多に怒ったりしない。例えば、私が他の部員やレギュラーの人たちと話すのに夢中になってしまうと拗ねてしまったりす ることもあるし、男の子にたまたま告白された時は静かに怒っていて相手を「ヒネリ潰す」と言ってキレていたりすることも あるが、私に対して感情を荒げて怒りをぶつけることはあまりない。それ故、そんなに大きな声を出されるとびっくりして しまうのだが、「それ」と言われたものに気付くと首を傾げることしか出来なかった。 「それって・・・」 「スカート。何でそんなに短いの?」 その瞬間、何名かの部員は練習へ戻った。おそらく呆れてしまったのだろう。事実、私もまさかスカートの丈に対してそんな に過剰に反応されるとは思っていなかった。練習中、私もジャージでいることはあるが、着替える時間がない時や着替えを 忘れてしまった時などは制服のまま参加することもよくある。しかし、こんな事を言われたのは今日が初めてだ。 「短いって・・・いつもこんな感じだよ?」 「えー、もう少し長かったじゃん」 確かにスカートの丈は昨日から短くした。しかし、それは数cmの世界だ。いくら恋人と言えど、そこまで気付かれるのは嬉 しいやら・・・複雑やら。よくよく考えると敦くんとはクラスが違うから、スカートを短くしてから会うのは今日が初めてか もしれない。 「まぁ最近暖かくなってきたからね」 「だから足もそんなに出してんの?」 「そんなにって・・・ああ、タイツじゃなくなったしね」 つい最近までは寒さのせいで靴下は黒タイツを着用していたし、気分だけでも暖かくいたいとスカートの丈もほんの少しだけ 長くしていた。しかし、生足が出るようになって更にスカートの丈をいつもより8cm程上げただけで、まさかそこまで過剰 反応されるとは思っていなかった。敦くんは私の両肩に手を置き、今にも私の頭をシェイクするかのように揺さぶりそうな勢いだ。 「・・・やだ」 「え?」 「そんな露出しちゃヤダ」 「えええええ?」 この程度で露出と言われたら夏はどうすれば良いのだろうか。いくら秋田と言えど、暑くなる日は絶対にやってくる。それな のに夏でも私に黒タイツを着用し、スカートの丈も長くしろというのだろうか。夏になったら当然上はワイシャツになるだろ うが、まさかそれも許さないというのだろうか。 「・・・まさか教室でもその格好ー?」 「当たり前じゃん」 「・・・」 「何、どうしたの?」 「、分かってない」 「え?」 どうして私が叱られた子供のようにならなければいけないのか。助けを求めようと辺りを見回すが、関わりたくないのか誰 も助けてはくれない。こういう時は敦くんの扱いに慣れている氷室先輩なのだが、彼は顔を隠すように笑っているだけだ。 仕方ないので敦くんと全面対決することにした。 「何それ。何が分かってないって言うの?」 「特にここにいる奴らはみんな飢えてるんだから」 「・・・え、どういうこと?」 「おい、敦!失礼なこと言うんじゃねぇ!」 「そうじゃ、そうじゃ!」 それまで黙っていた福井先輩と主将が異義あり!というように会話に入り込んできた。敦くんはそんな先輩2人へ目線だけ向 けたが、それは本当に一瞬の出来事で、一瞥したあとすぐに目線を私へと戻し、先輩2人を鮮やかにスルーした。そして私は 相変わらず敦くんの言っていることはよく分からない。 「だからー、がそんな格好でウロウロしてたら心配なんだって」 「いやいや意味分からないよ」 「あ、俺と2人の時はもちろん良いんだけどねー」 「いや、もっとわかんない」 私が眉を寄せていると流石フォローの達人、氷室先輩。ゆっくり近づいてきて私に説明してくれた。どうやら他の男の人に 私の足を見られるのが不愉快らしい。だったらハッキリとそう言ってくれれば良いのに、と思うのだがハッキリと言われたと ころで解決の術はない。じゃあどうしろと言うのか。 「だってー、少し動いたりしたらパンツ見えちゃうかもしんないじゃん」 「見えないでしょ」 「とにかく嫌」 「私だって暑いの嫌なの!」 「2人とも、落ち着いたら?」 よくもまぁこんな下らないことで何時までも言い争っているな、と誰もが思うだろう。氷室先輩もよく見捨てないでいてくれ るものだ。けれども、私もこの場を譲る気はもちろんない。そもそも、そんな事でいちいち文句を言われてしまってはこの先 どうしろと言うのだろうか。そんな事を悩みながら考えていたが、この意味のない言い争いは氷室先輩の一言であっという間 に終結を迎えることになる。 「ああ、そうだ。2人とも、良いこと思いついたよ」 氷室先輩の言うことは大体的を得ていて正しいことが多い。今回もきっとそうに違いない。けれども今の私はこの問題の解決 案が見つからなかった。敦くんは絶対折れそうにないから、考えられるとすればタイツは流石に難しいから、せめて私のスカ ートの丈だけでも長くするということだろうか。しかしそれは断じてお断り。これ以上長くしたら暑くなってしまうし、 私だって今時の普通の女の子。今のスカート丈がぴったりだと思うのだから。 「物は考えようだよ、敦」 「何ー?」 「の服が脱がしやすくなると思えば良いじゃないか」 「・・・・・え?」 「あー、なるほど」 「え・・・ええええー!しかも納得しちゃうの!?」 氷室先輩が考えてくれた案なのだから、きっとその形の良い口から発される言葉が正解なのだと思っていた。しかし、普通 なら考えもしない発想である。まぁ大まかに考えると敦くんを説得してくれようとしているのだろうけど、その内容が可笑し い気がする。それなのにしれっと何事もないかのように会話をしている敦くんと氷室先輩は私には理解しがたい。 「確かにー。脱がすのも楽しいんだけどタイツだと時間かかるし」 「丈が短ければ足だって触りやすいだろうしな」 「え、ちょっと。氷室先輩、頭大丈夫ですか?」 「それに敦も生足が出てたほうが良いだろ?」 「うん、の足柔らかいしすべすべだしー」 「やめてえええ!」 そういうお話はせめて私がいないところでしてほしい。男子特有の会話を聞いてしまって、色々な意味で恥ずかしくなってし まう。背の高い2人の下から一生懸命叫んでも届かない。2人の笑顔の会話が見えるだけ。その口を塞いでやろうと、向かい 合ってる2人の口元へ手を伸ばすがもちろん避けられるし届きはしない。 「まぁ他の男に見られてしまうっていうのはあるかもしれないけど」 「うん、でもそれなら仕方ないよねー」 「ちょっと!さっきまではあんなに嫌だって言ってたのに!」 さっきまで頑なに翻さなかったその意見がこうもあっさり変わってしまうものなのだろうか。それもそんな洗脳で。氷室先輩 には失礼だけど、もう2人とも相手にしてられるかと踵を返し、部活の続きに戻ろうとすると敦くんの長い腕によって私は引 き止められた。「何よ!」と勢いよく振り向くと一気に引き寄せられ頬に生温かいものが触れた。その生温かいものはそのあ とすぐに私の耳元へ移動し、そして私のスカートの中に隠れている太腿に敦くんの生温かい手が触れられていることも同時 に感じた。 それを感じた直後、一瞬だけ体を強張らせると「でも程ほどにねー」といつもの口調で言ってきた。そして、そのあとに続く言葉は私の耳の中から体の中へ駆け巡るように囁かれた。 「俺、我慢出来なくなっちゃうから」 太腿を撫で回しながら囁いてくる時点でもう既に時遅しと感じずにはいられなかった。 |
隙間から覗く誘惑
(が他の男に見られるのは仕方ないから我慢する。でもに触れるのは我慢しないからねー)