今日はドキドキワクワクな日。学校近くにある、割と大きな神社でお祭りが開催されるのだ。もちろん屋台もいっぱい
出ていて、それだけでも楽しみで仕方がない。おまけに今年はバスケ部のレギュラーさんたちと一緒に行けるという
何とも勿体ないお話。そしてその中にはもちろん・・・敦くんもいる!他に人がいるとはいえ、敦くんと縁日に行く
のは今年が初めてだから、とにかく楽しみで仕方がないのだ。そんな気持ちが私の頭から足の爪先を駆け巡り、柄に
もなく浴衣なんてものを着てみた。調子乗ってるって思われるかもしれないけど、今日くらいは許して下さい、神様。
私だって普通の女の子。いつも制服やジャージで汗を流してマネージャー業をこなすのも好きだけど、たまには浴衣
なんて可愛い物を着てテンション上げたいの。ただ、着慣れない浴衣のせいか、待ち合わせ時間ギ
リギリになってしまった。小走りで待ち合わせ場所まで行くと既に全員揃っていて、待たせてしまったことに罪悪感
を感じた私は勢いよく頭を下げた。
「遅れてスミマセン・・・!」
「気にしなくて良いよ。・・・やっぱり日本の女性の浴衣姿は良いね」
「そうアルな」
「っていうかー何でみんないるの?」
「こういうのは大勢の方が楽しいもんじゃ」
「そうそう」
「えーと2人なら良かったのにー」
「あ・・・敦くん!良いじゃん、楽しいし」
「・・・、何で浴衣着てきたの?」
「え・・・あ、もしかして似合ってない?」
「そうじゃないけど・・・」
「すごく似合ってるよ」
「可愛いアル」
「氷室先輩、劉先輩・・・ありがとうございます」
「女子の浴衣をこんな近
くで見れるとは・・・」
「岡村、キモいから止めろ」
ああ、敦くんにはあまり受け入れてもらえなかったけど、とり
あえず着てきて良かった。・・・本音を言えばやっぱり敦くんに何かしらの言葉を言って欲しかったけど・・・いや
いや!こうして一緒に縁日に行けるだけで充分!「敦は変なところで素直じゃないな」
「いつもは余計なことまで
ズケズケ言うくせにどうしたアルか」「何それ」
「それにしても浴衣は色っぽくて良いもんじゃ・・・」
「げ!岡村
がついに変態になった」「ちょっと、のこと変な目で見ないで」「お、敦がついに素直になった!」
「・・・もー、だから2人のが良かったのにー」
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先輩方が気を遣ってくれて敦くんと私を2人にしてくれた。(というか敦くんが駄々をこねた子供みたいだった)
みんなで一緒に楽しむのもすごく嬉しいけれども、敦くんと2人きりはもーっと嬉しい!この感動と喜びを抑えるの
で精一杯な私は、とりあえず敦くんの後ろをピョコピョコ着いていくだけ。けれども、視界の端に小さな赤や黒が優雅に水
の中を歩いている姿を見掛けてしまえば、その鮮やかさと愛らしさに心が奪われてしまって、つい敦くんの服の袖を
引っ張った。「ねね、敦くん!金魚すくいやってー」「良いよー」前にちらっと話した事があるけど敦くんは金魚す
くいが得意らしい。そんな大きな身体のくせに意外と(と言ったら失礼かもしれないけど)、そういう繊細なことも
出来ちゃうところが、また私の心を奪う。力もきっとすごく強いくせに、いつも私には優しく触れてくれる。
そんなことまで連想させてくれるその指や手の使い方に、じーっと見とれていた。「う、」「・・・得意なのに珍しい
ね」しかし、思っていたよりなかなかすくえていない。彼のこんな姿を見るのは珍しく、そんな一面も見れて良かっ
た、なんて言ったら敦くんは怒るだろう。だからとにかく彼の隣に座ってじーっとその動作を見つめていた。
「だって・・・が可愛すぎるからだし」「え?」敦くんらしくない、ボソっとした声が私の耳と脳を駆け巡った。
ハッキリとは聞き取れなかったけれども、もしかしてすごい嬉しいことを言われたのではないだろうか。私は好奇心
に満ちた目をしているのが自分でもよく分かった。彼の腕を掴んで何回も揺さぶって「ねね、何て言ったの?」と聞
く。けれども返ってきた言葉は「2回は言わない〜」そう言った敦くんの顔が、夜の誘惑に似合う
色気を孕んでおり、余計私の心を熱くさせた。
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今日は上手くいかない、なんて良いながらも、3匹金魚をゲットしてくれた敦くんは、私にそれをプレゼントしてく
れた。「ありがとう!敦くんだと思って大事にするね!」「それは・・・ちょっと複雑なんだけど」と言われたよう
な気がしたけど、すでにルンルンな私は鼻歌を奏でながら敦くんの隣を歩いていた。そんな中、ひとつの屋台を発見す
る。りんご飴と書かれている屋台だ。これは外せない!敦くんだって好きなはず・・・!「敦くん!りんご飴!」そ
れだけ言って私は走って行った。後ろで呑気に「転ぶから危ないよー」とか言っている声が聞こえたけれども、お構
いなし!私は小走りで屋台に駆け寄りりんご飴をゲットする。走ったというのに敦くんにあっという間に追いつかれ
ていて、急に敦くんの手がにょきっと顔の横を通った。敦くんの大きな手には小銭が握られていて、それがおじちゃ
んの手に渡ると「まいど!」という明るい声が聞こえた。「敦くん、良いの?」「うん」「ありがとー」
「どういた
しまして」すごく嬉しくなってしまった。奢られてしまったということに多少の申し訳なさは感じるものの、それでも敦
くんが私のためにりんご飴を買ってくれたことがすごく嬉しい。そして、りんごを鉄壁のように守っている飴を舐めて味
わいながら人混みを歩く。「敦くんは食べないの?」「んー」でも、飴という人にくっついてしまったら凶器になる
ものを持っている私を案じてか、敦くんは少し人が少ないところへ誘導してくれた。何て紳士っぷり・・・!氷室先
輩の紳士さが感染したのかしら、それとも敦くんの優しさ?どちらにしろ敦くんが生んだその優しさに大感動!
「りんご飴おいしー」「俺も食べようかなー」
「うん、絶対食べた方が良いよ!というか敦くんが食べないほうがお
かしいよ!」「そう?じゃあいただきまーす」
「え・・・ちょ、」ちゅ、という可愛らしい音が聞こえたのは一瞬だ
った。すぐに唇ごと捕獲されてしまい、私の唇についている飴を舐めては食すような口づけ・・・否。口づけどころ
ではない。甘さが吸い取られているのか、与えられてるのか分からないその感覚に、手に持っていたりんご飴を落と
してしまいそうになったが、私の手の上からぎゅ、と敦くんの手が重ねられたのでそれは防げた。「・・・っ」「う
ん、美味しいね」
「敦くん・・・まさか全部ワザ」「早く続き食べてよ。そしたら俺も食べるから」顔と唇がやたらと赤
いのはりんご飴の赤さに感染したせいだ。
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何とか必死の思いでりんご飴を食べ終わった。そしてご機嫌の敦くん。予想外に追加された甘さに頭が何度もクラクラしたけれ
ど、せっかくの敦くんとのお祭りでのんびりボーっとしている場合じゃない。さぁ、次を楽しまなければ!次は何を
食べようか、とじゃがバタとチョコバナナで迷っていたらチョコバナナは却下された。それも敦くんにしては珍しく
全力で。理由を聞いても教えてくれなくて、とにかくダメの一点張り。甘いのはチョコバナナだから、敦くんも一緒
に食べれるし、こっちの方が良いと思ったけどダメらしい。あ、別にさっきのりんご飴みたいにちゅーしてもらうこ
とを期待したわけじゃなくて、普通に並んで食べれたらなーと思ったわけだけども。そんな感じで色々な屋台を見な
がら2人で回る。「ちょ、敦くん…待って!歩くの相変わらず早っ」「え〜?」
「遅いのに一歩が大きいから速いっ
」敦くんはポケットに手を入れてのそのそ歩いている・・・ように見える。あくまで見えるだけであって、足が長い
から一歩も大きくて、一般人の私にとってはとても速いように感じられる。いつもこんな感じではあるが、今日は着
慣れない浴衣を着ていて、下駄でもあるから私の一歩はいつもより小さく遅い。ああ、もし「んなもん着てくるから
でしょ」とか言われたら立ち直れない。敦くんは基本優しいからそんなこと言わないだろうけど、そう思う男の人だ
っていつ可能性は大いにある。敦くん、ごめんね。私なりの乙女心を許して下さい。「・・・はい」
「えっ?」敦くんが急に止まり、
こちらを振り向いた。ポケットから出されたその手はこちらを向いている。とても大きな手で、いつも私が安心して
いる手だ。「手繋いであげる」「良いの?」「迷子になったらヤダし」いつも試合会場でフラフラ歩いて迷子に
なるのは敦くんでしょ?なんて言いたくなったけど、手を差し出してくれた敦くんが何だかすごく愛しくなって、
その手に自分の手を重ねた。「ふふ、ありがと」2人でぴたりと手を繋いで歩くお祭りは、先程よりもすごく楽しい。
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そろそろお祭りも終了に近づいてきた。わたあめを2人で買ったものの、敦くんは早くも完食してしまった。私は
片手にわたあめ、もう片方に敦くんの手を握りながら歩く。一応、先輩方と待ち合わせをしているので、そこへ向か
わなければならない。何だか少し名残惜しい。だってお祭りがこんなにも楽しいものだと思ったのは初めてだったか
ら。こんなにもドキドキするものだとは知らなかったから。だから恐る恐る聞いてみた。もし拒絶の言葉を吐かれ
たとしても、どうしても聞いておきたかった。それは私の自己満足。「敦くん、来年も一緒に来てくれる?」繋がれ
ている手を離さないうちに、視線を敦くんへ向けて聞いてみた。もしかしたら「人混みとかウザいからヤダ。もう来
たくない」と言われればそれまで。・・・さっきからマイナスな考え方ばかりだけれど、敦くんが好きだからこそ、
少し不安になってしまう。「やだ」でも、きっと敦くんはそんなこと言わない。よし、自分を信じ・・・え!?敦く
ん今何て言った!?「ええ!?」少し驚きの言葉を出してしまった自分が恥ずかしい。うん、また一緒に来よう、的
なことを期待していたみたいで恥ずかしい・・・!いや、少しだけ期待してたんだけれども!「と最初から最後まで2人きりじゃなきゃヤダ」またもやボソッと紡がれたその言葉だけど、今度はハッキリ聞こえた。今日はこういう感じ多いなぁ。珍し
く拗ねたような彼が可愛く思えて、餌のようにわたあめを近づける。そして、少しだけ近づいた彼の頬に精一杯背
伸びをして、甘いキスを答え代わりにプレゼントした。
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