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「敦くんって何か可愛いよね」 お部屋でまったりモードの2人。とりあえず特に何かするわけでもなく、無作為についているテレビ画面を眺め ながら、いつものようにのんびりと過ごしていた。紫原はスナック菓子を食べており、はその横でちょこん と座っている。自分よりもはるかに大きい紫原。けれども、はそんな紫原に可愛いという感情を少なからず抱いていた。 「えー、そう?」 「うん。母性本能をくすぐるというか…何か可愛い!」 「うーん、でも可愛いとか言われても嬉しくねーし」 「え!?」 女性にとっては「可愛い」という言葉は褒め言葉かもしれないが、性別が違えばその言葉は気に障るものにな る可能性もある。可愛いをウリにしている男性は世の中に何人もいるだろうが、特にそんなことを意識していな い紫原は、あまり良い気がしなかった。そして、可愛いという言葉を褒め言葉に感じることも出来なかった紫原 は、誰から見ても分かるくらい機嫌が悪くなった。 しかし、そんな紫原には少し疑問を抱く。以前、同級生の女の子や先輩のお姉さん方に「敦くん可愛いー」 などと言われていたことを何回か聞いたことがあるからだ。そして、その言葉に対し紫原はどうでも良かったの か、大して興味がなかったのか「そーかなー?」と答えていたのだ。その時は別に機嫌など悪くなっていなかっ た。なのに、何故今は苛立っているのだろうか。とりあえず、紫原の機嫌が悪いことに気づいたは、胡座を かいている紫原の足の間に移動し、彼の顔を見て謝罪することにした。 「あ、気に障った?ごめんね」 「・・・別にー」 口ではそう言っているものの、紫原の顔は思いっきり拗ねている。どうしようかと考えたは、その辺に散ら ばっていたお菓子を適当に取り、紫原へ食べさせることで、機嫌を直させようと試みた。これはがよく使う手でもあり、これをすれば大抵紫原の機嫌は良くなることを、は経験から知っていた。 「はい、これでも食べて機嫌直して」 「んー・・・」 銀の包み紙を取り、紫原の口元へ差し出したのは甘ったるいチョコレート。それを仕方がないから食べてあげる というスタンスで、でも美味しそうに食べてる紫原に、やはり可愛いという感情が生まれてしまう。気まぐれな 部分が多いが、こうして単純に機嫌を直してくれるところも可愛い、そう思ってしまった。 「、今俺のこと可愛いとか思ってんでしょ?」 「えっ・・・!」 「バレバレだし」 は日頃から感情が顔に出てしまう人間だった。今も、愛おしいような顔つきで紫原を見ている。紫原はすぐ にそのことに気づき、またしても少し不機嫌になってしまった。沈黙が流れるが、そんなに長い時間ではない。しかし、にはすごく長い時間に感じる。紫原が今日一番の苛立ちを見せているからだ。 「ひゃ!」 沈黙のあとに聞こえた音は、紫原がの指を舐める音だった。チョコを差し出していたその指には、少しだけ 溶けていたチョコレートがついている。チョコを食べ終えた紫原は、の手首を掴んで、その指についている チョコレートを綺麗に舐めとった。そして、もうチョコレートがついていないというのに、終わりを想像させない執拗なその行為に、は羞恥心と戸惑いで顔を赤く染める。紫原の目線は指ではなく、の顔に向いているため余計にそうだ。 「好きな子に可愛いなんて思われても嬉しくねーし」 「・・・っ」 「他の連中にはどう思われても良いけど」 「あ、つしくん」 「には嫌なの」 指を舐めることに満足した紫原は、今度はを抱き寄せ耳に、そして首筋に唇を落としていく。その度に漏れ るの甘い声。それが発されるの唇にも紫原は自身の唇を重ねていく。 「それに、のが可愛いし」 その耳元での囁きに、はもう二度と紫原に「可愛い」とは言わない、言えないと愛されながら思うのだ。 |
奪われた感情が
喉で啼く
(のが可愛いってこと、分からせてあげるから)