やたらと神妙な面持ちで福井先輩が迫ってくる。この光景を他人が見たら角度によっては大胆にキスしているよう に見えてしまうかもしれない。しかし私の周りには福井先輩の他、主将と劉先輩も、そして一歩引いたところに氷 室先輩がおり、取り囲まれるように巨体たちが壁になっているので、幸いにもそのようには見えないだろう。けれ ども自分より高い、それも遥かに高い人間たち複数に、こうも近距離で近寄られたら流石に萎縮してしまう。


「な、何でしょう・・・?」
「敦の我が儘を何とかしろ」
「・・・え?」


そういえば此処には敦くんがいないような気がする。我が校バスケ部のスタメンがこうも勢揃いしているというの に、一番大きい敦くんが此処にはいない。しかし、彼の大きさは頭何個も飛び出ているので、探すのは困難ではな かった。舞台近くのゴール下で、練習の休憩中だと言うのに、スナック菓子をサクサク食べることが出来るのは流 石の私でもすごいと思う。敦くんを見つめていると、福井先輩に声を掛けられ我を戻す。こうして見ると福井先輩 の身長って小さいな、なんて言ったら間違いなく怒られるだろうから止めておこう。


「敦くんが我が儘?」
「どう考えても我が儘だろーが!」
「手を焼いてるんじゃ」
「どうしようもないアル」
「・・・氷室先輩もそう思います?」
「んー、我が儘っていうか自由なだけなんじゃないかな」
「それを時に我が儘っつーんだよ!」


確かに彼はよく大きい子供と言われていて、思ったことを何も考えず素直に何でも言う。だから、たまに空気を壊 してしまうような発言も簡単にしてしまうことがある。けれども、私が彼のそんな部分を我が儘だと思ったことが ないのは、私が彼の恋人という立場であり、甘く見ているからだろうか。いや、そういうわけではないと思う。


「私も敦くんはそんなに我が儘じゃないと思いますけど・・・」
「お前が一番振り回されてんじゃねーのか?」
「え?んー・・・でも敦くんすごく優しいですし」
「え!?敦が!?優しい!?」
「・・・驚きすぎですよ」


そう、敦くんは優しいのだ。今まで部員の人など色々な人に彼と付き合うのは大変じゃないかと言われたことが数 え切れない程ある。その度に我が儘で自分勝手で・・・という言葉を聞いてきたが、私がそれを肯定することはな かった。確かにそのように感じさせる事は何回もあるが、それ以上に優しさのほうが上回って仕方ないと思えるの だ。普通の優しさにも惹かれるし、遠回りな優しさにもすごく惹かれてしまうのだ。彼は特にバスケに関しては非 情で残酷な部分をいくつも持っていて、それをぶつける事も少なくはないから想像がつかないかもしれないが、だ からこそ優しさが輝く気がする。


「ワシ等には1ミリも優しくないんじゃけど」
「モミアゴリラには仕方ないアル」
「何で!?」
「信じられねぇー」
「・・・アツシはどういう風に優しいの?」
「えー・・・見てて分かりません?」
「わかんねーよ!」
「もしかしたら彼女だけには、彼女と二人きりの時だけは優しいんじゃないですか?」


氷室先輩の「ね?」という言葉に頷きたくなったが、流石にそれは自惚れているようで恥ずかしくて出来なかった 。そんな私をお見通しかのように笑う氷室先輩はちょっと狡い。けれども彼の言う通りで、私には練習中でもいつ でも優しいけれど、2人きりになると特に優しくなるような気がする。何をしたら優しいだとか、どこからどこま でが優しいだとか、そういうハッキリと基準を設けることは出来ないけれど、優しいなぁと何となく胸がドキドキ することは未だによくある。


「私たちの一緒に帰る様子でも見てれば分かると思いますよ」


この何気ない私の言葉に、妙にテンションが上がった先輩たち一部は、今日の練習後に私と敦くんを尾行するとい う結論に至ったらしい。特にやましい事はないし、敦くんの良さを理解してもらえるなら願ってもない。








、帰ろー」


相変わらず敦くんはいつもの敦くんで、今日もいつもと同じように帰る。ちらりと横目で先輩たちの方を見ると、 神妙な顔をして頷かれた。今思えば、あんなに大きい人たちがコソコソと隠れるなんて厳しいんじゃないだろうか と思うが、先輩たち4人はむしろ楽しんでいるように思えて何も言わなかった。敦くんはこういうことには鈍感そ うだし、万が一先輩たちが尾行しているとバレでも「そうだったんだー」くらいで終わりそうな気がする。

体育館にいたせいか、天気雨が降っていたことには気づかなかった。幸いにも雨は既に止んでおり、水溜まりが星 空を映している。敦くんは水溜まりなど構わずに歩いていくが、私はローファーでもあるし少し気にせざるを得 ない。


「きゃ」
「うわ、危なー」
「・・・ごめん、ありがとう」
って相変わらずトロいね」
「うう・・・ごめんなさい」
「仕方ないから手繋いであげる」
「・・・ありがとう!」


(おいおい、まさかはあんなのを優しいとか言ってんのか!?)
(羨ましいのう・・・)
(それよりトロいってひどくないアルか」
(うーん、まぁアツシの場合は愛情を込めてそう言ってるんじゃないかな)






「今日のご飯何にしよっか?」
「んー・・・お菓」
「ご飯だよ、ご飯」
「じゃあ・・・カレー」
「カレーなら確か冷蔵庫に材料あったから買い物行かなくても作れるし・・・うん、そうしよ!」


(え、あいつらまさか一緒に住んでんの!?)
(違いますよ。彼女がアツシの食生活を心配してたまに作ってあげてるんですよ)
(おかんみたいアル)
(彼女の手作りご飯・・・良いのう)






「俺も手伝おうかなー」
「え!?敦くん、細かい作業苦手なのに?」
「うん」
「じゃあ、いっぱい手伝ってもらっちゃおうかな」


(彼女の料理を手伝う、確かに普段のアツシからは想像がつかないくらい優しいですね)
(信じられないアル)
(何かジャイアン心理で余計優しく見えるぜ)
(新婚さんみたいでええのう)






「っていうか何かしてないと後ろから襲いたくなっちゃうんだよねー」
「・・・え!?」
「エプロンつけてキッチンにが立ってるの見るとムラムラするから」
「ええ!?いつもそんなこと思ってたの!?」
「うん。でもそうするとご飯出来るの遅くなるしー、今まで我慢してた」
「そっか・・・偉いね」


(アホか!偉くねーだろ!)
(全然優しくないアル)
(まぁ気持ちは分からないでもないですけど)
(((え?)))






「でしょー。だからどうせなら何かしてよーかなと思って」
「うん、じゃあ一緒に作ろ!」
「・・・何でそんなに嬉しそうなの?」
「えー、だって敦くんとご飯一緒に作るとか楽しそうだもん!」
「ふーん・・・」


(嬉しそうな顔しやがって・・・)
(二人とも楽しそうですね)
(ただの幸せそうなバカップルアル)
(ワシも彼女欲しい・・・)






「敦くん、やっぱり優しいね」
「そう?」
「うん」
「んー・・・っていうかには勝手にそうなっちゃうのかも」
「・・・他の人には?」
「他?まぁ」


(おいおいおい。どんな流れで「やっぱり優しいね」ってなるんだよ)
(それにアイツの言う「他」にワシ等が入ってるかも怪しいのう)






以外に優しくしたいなんて別に思わねーし」


(思えよ!俺たちにも!敬って優しさ覚えろよ!)
(うざいアル。どれだけ惚れてるアルか)
(まぁ、例えばアツシのことを好きな子は多いでしょうけど、そうやって優しくしないことで他の子たちは変に期待をしなくなりますから。悪くはないかもしれませんね。・・・その点においてはですけど)
(そんなことしてみたいもんじゃ)
(どうせはそんな敦も優しいと思ってんだろーな。・・・うぜっ)






「そ、そっか」
「あ、照れてるー」
「照れてないよ!」
「可愛いー」
「可愛くないから!」
「えー可愛いすぎて我慢出来なくなっちゃった」
「え?・・・んっ」


(うわ!)
(大胆アル)
(キスは我慢出来なくなったみたいですね)
(・・・お前は何でそんな余裕なんじゃ)






「も、もう!外でするのダメだって言ってるでしょ」
「えー、良いじゃん。人そんないないし」
「・・・は!(そ、そういえば先輩たちがいるんだった」
「大丈夫だってー。続きは流石に中でするから」
「当たり前でしょ!」


(さ、これ以上はお邪魔なみたいですし帰りますか)
(つーか全然敦の優しいとこ分かんなかったし)
(結局ラブラブを見せつけられて終わったアル)
(ワシも早く・・・)
(お前さっきからうるせーんだよ!!)





蜂蜜漬けの
証明書に涙

(何か後ろがウザかったから見せつけてやったんだよねー)




Happy Birthday!! 2012.10.09