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少し開けてる窓からゆるやかな風に乗って鼻を擽るこの香りは、オレをたまらなく魅了し、たまらなく苦しめる 。そのくせ、その香りは消えることなく、それどころかこの身体に染みこむんじゃないかっていうくらい、ずっと 傍にいる。この香りをずっと感じていたくて何も出来ないのか、それともこの香りがなくなることが怖くて何も出 来ないのか。あ、どっちも同じことだ。 「珍しく何か考えてる?」 「別にー。つか珍しくって何だし」 くすくすと笑うが揺れる度に、下から甘い香りが漂ってくる。ソファーに座っているを後ろから覆うよ うに抱きしめてぎゅ、とするのがオレの定位置。はオレをソファーだと思ってる気がする。だって、テレビに 夢中みたいで、オレのことなんて気にもせず、構ってくれることもなく、画面の中で繰り広げられるラブストーリ ーや、お笑い番組に夢中だから。時折目に涙を浮かべたり微笑んだり、声を出して笑ったりと大忙し。オレは そんなをいつも後ろから眺めているだけ。が目の前にいたら、どんなに美人で可愛い人が画面に映っ ても、目に入る隙なんてきっとない。その小さい頭を撫でて、ただ抱きしめてくっつくだけ。 「敦くん、チョコ食べたい」 「ん」 まるで小さな子どもみたいにチョコを食べたいと言い、遠回しに食べさせてと言う。「、こどもみたい〜」なんて言えば「何言ってるの!いつも敦くんの方がこどもっぽいんだからね!私がいつも面倒見てあげてるんだ から」なんてムキになって反論してきた。猫が騒いでるみたいでちょっと可愛い。でも、口元に持っていたチョ コをぺろりと食べる姿は可愛いんだけど何だか艶めかしい。 「おいし」 オレの指まで食べちゃうんじゃないかって勢いで、の小さくて赤くて熱い舌が、チョコを持ってるオレの指ま で舐めるから困った。指が性感帯っていう話は何となく聞いたことがあるけど、体験してみて初めて実感した。今で も心臓がどくどくと音を立ててる。に聞こえちゃうんじゃないって思うくらい大きい音。え、これ、この指ど うしろっていうの?ティッシュで拭けば良いの?それともいつもポテチを食べた手を舐めるみたいに舐め ちゃって良いの?なんて悩んでるうちに、が ティッシュでオレの指を拭ってくれた。「敦くんの指まで舐めちゃった、ごめんね」って可愛く言ってくれたけど 、何だか少し寂しくなった。同時に、やっぱりこどもぽくても面倒見の良いに少し安心した。 「俺もチョコ食べたーい。食べさせて」 「仕方ないなぁ」 チョコの甘さだけじゃない。に食べさせてもらうチョコは歯がとけるくらい甘い気がする。オレもの 指まで舐めちゃおうかと思ったけど、やめた。だって本気で嫌がられたらいくらオレでも傷つくし。「おいし?」 って聞かれて「うん、おいしー」って答えると、が目一杯手を伸ばしてオレの頭を撫でてきた。何、こども 扱いしてんの?って言おうと思ったけど、「良かった」って笑うの笑顔に負けた。何が良かったのか全然わかんないけど、が笑ってるならまぁ良っか。あれ?でも頭に感じる気持ちよさがなくなったと思ったら、今度は胸のあたりが あったかい。あー、が今度は抱き着いてきたのか。ていうか擦りよってきた。 「今日の、甘えんぼだね〜」 「敦くんはいつも私にこんな感じなんだよ?」 「え〜意味わかんねーし」 本当はの言いたいこと、何となく分かる。オレが外だろうが中だろうが、いつでもどこでもを急に抱き しめたくなってくっつくことを言ってるんだと思う。でも、甘えてるって意識、オレにはあまり無い。ただに くっつきたくなるだけ。あ、もしかしたらそれが甘えるってことか。でも、もいつも困ってはいるけど嫌そ うじゃないからきっと悪いことじゃない。つか、オレが今、に抱き着かれてるけど全然嫌じゃない。それどこ ろかむしろ超嬉しくてぎゅーって抱きしめ返したいくらい。そういえば、からくっついてくることってあまりない気がする。俺がくっつくほうが多いから?それもあるけど、それだけじゃない 気がする。 「ふたりきりの時くらい、甘えたって良いじゃん」 あれ、ちょっと拗ねてる?何で?つか、声ちっさ!距離あるからイマイチ聞こえなかった。顔全然見えなくなったし。そのくせ俺にぎゅうぎゅうくっついてくるし。で も、唯一見えるの耳で全部理解した。真っ赤に色づいた耳は小さくて可愛くてイチゴみたい。の白くやわらかい肌が生クリームみたいに見えてきて、おいしそうなショートケーキなんてぼんやり 思った。 は普段どちらかっていうとしっかりしてて、でもそのせいか「好き」って言葉はもちろん「寂しい」や「会いたい」っていう 感情をなかなか吐き出してくれない。本当はそう思ってるくせに、なかなか言えない恥ずかしがりやの強情っ張 り。自惚れじゃない、だって何か言いたそうな時のの顔はいつもこれでもかってくらい可愛いし、いじめたくなる。 でも、今日は珍しく頑張ったみたい。まさか甘えたいなんて言ってくれると思ってなかったから、ちょっと嬉しい。 「だめ?」 別にだめなんて言ってないのに、上目遣いとかずるくない?何でそんな耳赤くして目うるうるなのかワケわかん ない。いつもみたいに今すぐをぎゅうってしたい。けど、せっかくが珍しく素直だから、もうちょっと 見てたい。すぐにそれに応えちゃったら何かちょっと勿体ない気がする。 「んー、別に良いけど」 綿菓子みたいにふわふわで甘くて、でも食べたらすぐに消えちゃうんじゃないかって思うから、に触れる 時、実はいつもドキドキしてる。オレがすぐ抱きつくようにくっつくし、すぐ頭撫でたりするから、はオレが何とも思ってないと思 ってるかもしれないけど、本当は結構ドキドキしてる。でも、少しでも触れると思い切り抱きしめたくなっちゃう 。いっそのこと、このままが俺の一部になってくれれば良いのに、なんて。 「じゃあちゅーして良い?」 「珍しい、いつもは急にちゅーしてくるくせに」 「テレビに夢中だったから今まで我慢してただけ」 「敦くんでも我慢出来るんだね」 「馬鹿にすんなし」 こっちがどんな思いで我慢してたと思ってんの?さっきまで甘えたな顔してたくせに、今度は急にひとりの女の 顔になる。そうやって色々な顔でオレを誘惑してくるからオレは大変だっていうのに、はのんきで羨ましい。 「じゃあ、仕方ないからちゅーしても良いよ」 結局甘えたいの?甘えられたいの?どっちもなの?何でか分からないけど、ちょっと勝ち誇ったように笑うに可愛さと色っぽさを感じたなんて、末期かもしれない。余裕なんてないくせに余裕ぶ ってるところがまた愛しい。なら、仕方ない。仕方ないから、余裕なんて一切なくしてやるよ。 「頑張って我慢してたんだから、オレもに甘えていー?」 そう言って油断させて、こうなったらお望み通り逆に今日はを思いっきり甘やかしてやる。オレを甘えさせてくれるもオレに甘えてくれるもどっちも好きなんて、スイーツバイキングより遥かに贅沢かもしれない。 |
ナイフでも
スプーンでも
お好きに召し上がれ
(お菓子食べれなくても良いからとずっとこうしてたい)