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好きな人が出来た、と思う。今までだって何回か恋をしたことはあるけれど、毎回人を好きになる感覚っていうのが自分ではイマイチよく分からなくて、何を思ったら好きになるのかその境界線がよく分からなかった。でも、興味がある、その人のことを知りたいと強く思うことは、普通の人とは違う特別な存在なんじゃないかと言われた。 「レオ姉はどう思う?」 「そうねぇ、人によって違うとは思うけど…例えばもっとお話したいとか手を繋ぎたいとかキスをしたいとか」 「キ、キス!?」 「そう思うことが好きってことのひとつじゃないかしら」 興味があるのかと問われたら確かに興味はある。お話してみたいとも思う。けど、それ以上のことはあまり考えたことがない。手を繋ぎたいどころかキスなんてもっと想像つかない。でも、ついつい目で追ってしまうの。彼の大きい声が聞こえると、つい反応して見てしまう。 「それにしても…まさかが小太郎とはね」 「だからまだ分かんないってば」 「でも、興味もあるしお話したいとも思ってるんでしょ?」 「んー…多分」 友人である彼、そして小太郎くんとも友人である彼にことあるごとに相談していた。最初は気になり始めたということから。そして今日は小太郎くんを見かけただとか、小太郎くんがパンを買っていたとか。今日は「おはよう」の挨拶を交わしただとか。そんなどうでも良いような話。しかもレオ姉と小太郎くんは一緒にいることが多いから、レオ姉は知ってることばかり。でも、その度にレオ姉は微笑みながら頷いて聞いてくれるから、ついつい何でも報告したくなっちゃうし、相談したくなっちゃう。放課後、彼の部活がない時に誰もいない教室で話を聞いてもらうことが当たり前になっていた。そしてそれが、私の楽しみのひとつでもあったのだ。 「相談があるの」 「あら、今日はどんな相談?小太郎とデートの約束でもした?」 「違うよ、レオ姉。私、別の悩みが出来ちゃった」 そんなある日、私は気づいたのだ。とうとう気づいてしまったのだ。私はレオ姉に恋してるって。小太郎くんには申し訳ないけど、私が彼に興味を持ったのは多分彼の近くにはレオ姉がいたからだと思う。今思うと、小太郎くんを目で追いかけていたのだって錯覚。私には最初からレオ姉のことしか頭になかったんだ。気づけて良かった、けど、気づきたくなかった。 「何かしら?」 「言えない、よ」 気づいてしまったら終わりだなんてそんな恋、恋愛が上手ではない私には辛すぎる。よく考えると、レオ姉が言った「お話したい、手を繋ぎたい、キスをしたい」は、全部レオ姉に当てはまるのに。本当はもっと近づいて色々なお話をしたい。私よりキレイなその顔をもっと近くで見て、あわよくば触れたい。キスだってしてみたい。そんなことを思えるのはレオ姉だけ。 「自分から言い出しておいて、困った子ね」 せいぜいこうやってレオ姉を困らすことしか出来ない。その呆れるように笑う顔だって美しい。私はレオ姉に一体何を言いたいのだろう。何を言って欲しいのだろう。例えば、私が今ここで彼に想いを告げてしまったらきっと彼は困りながら微笑むはず。そしたら、きっと今までみたいにこうやって話すことだって出来なくなる。それだけは避けたい。だったら今の恋心は自分の心の中にだけしまっておいて、今の関係を続けていたほうが、よっぽど幸せだ。 「じゃあ、特別にアドバイスあげるわ」 「え?」 悩みなんて言えないと言ってるのに一体どんなアドバイスをくれると言うのだろうか。レオ姉の顔を見ていると「の考えてることくらい分かるわよ」と微笑まれた。けど、私の考えてることがレオ姉に分かってしまうのは良くない。だって、今の私の頭の中はレオ姉でいっぱいなのに。 「まず私のこと“レオ姉”って呼ぶのはやめなさい」 「え?じゃあ…玲央?」 「そう、良い子ね」 向かい合って座っていたレオ姉…玲央が急に席を立った。どこへ行ってしまうんだろうと不安を抱く暇もなく、彼は私の隣にやって来る。物腰は柔らかくて、女性のような色っぽさとオトナっぽい雰囲気を持ってるけれど彼もやっぱり立派な男だ。隣に並ぶと、こんなに大きい。その近さに私の心臓が激しく鼓動して、彼に聞こえてしまうんじゃないかって思ったくらい。 「次、私の特別な女の子になりなさい」 「え?」 「分からないなら言い方を変えるわ」 瞬きさえも許されないような驚きの中で私の、脳がぐるぐると動く。見上げた彼の顔はいつも見る彼の顔とは少し違う。こんな顔、見たことない、知らない。だってこんな男っぽい彼の顔を見ていたら、きっと私はもっと早く彼への恋心に気づいていただろうから。 「私をの特別な男にして」 もう、特別な男の人なのに。でもそれを、言葉にすることが出来なくて、必死で首を縦に何回も振った。そんな私が可笑しかったのか、彼は今度は無邪気な表情で笑っていた。こんな顔もするんだ、と彼の新しい一面を知ることが出来たみたいでひとり嬉しい。こっそりと喜んでいると、私の頭に彼の大きな手が乗せられる。大きな手。今まではキレイで大きな手くらいにしか思ってなかったのに。まさか、こんなに温かいなんて知らなかった。手を重ねたら、きっと私の小さな手なんて包み込んでしまうだろう。 「じゃあ最後。目、閉じなさい」 結局声も出せないまま、彼の言う通りにする。目を閉じたら、私の可愛くない顔が彼の前で露わになってしまう。そんな不安が出てしまったのか、睫毛が震えているのが自分でもよく分かる。でも彼が「長くてキレイな睫毛ね」と言ってくれたので、震えは止まった。でも今度は頬が熱を持ってしまったように感じる。私の火照った頬を彼の手がさらりと撫でた。 「の肌、ずっと触ってみたかったの。…なんて」 固まって動かない。喋りたいのに口さえも動いてくれない。それは私が、緊張してるからだろうか。それとも、私のくちびるに彼のくちびるが重なっているからだろうか。きっと両方、いやむしろ後者。なにか柔らかいものが触れているという感触と、今日一番の心臓の騒々しさ。まるで花を慈しむように優しく触れられたくちびるが熱い。私の熱が彼に伝染したのか、彼の熱が私に伝染したのか。そんなの、どっちでも良い。 「そういえば悩みって何だったのかしら。もう教えてくれても良いんじゃない?」 答えなんて分かってるはずなのに、微笑を向けてくるなんてズルイ人。 「幸せすぎてどうしよう」 そんなつまらないことしか言えないのに、彼は今日一番の笑顔を私にくれた。それだけでも幸せなのに、今度は頬にまでくちびるを落としてくるから困ったもんだ。彼の長い髪も頬や首にあたるからくすぐったい。でも、そのくすぐったさを感じることが出来るこの距離が嬉しいなんて、この感情をしあわせ以外に何て呼べば良いの。 「あら、私もよ」 やっぱり、しあわせ以外の言葉なんて見つからない。 |
海を彷徨う
宝石に愛慕
(もどかしくて仕方なかったんだから、これからは私だけの可愛いでいてね)