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大好きな食べ物を最初に食べるか、最後に食べるか。それは人それぞれ、どちらかに分かれることが多いような気 がする。ちなみに私はどちらでもある。食材の種類によるというべきだろうか。例えば、今日のお弁当に入っ ていた林檎。私は林檎が大好きである。そしてフルーツというデザート分類されるため、最後まで取っておこうとした。 ご飯を食べ、おかずを食べ、ある程度お腹が膨れたところで別腹のデザート。これほど至福のひとときはない。しかし、私のこ の楽しみにしていた時間を容易く奪ってしまった人間がここにひとり。 「あー!!」 「うっさ!何やねん」 「何やねんじゃない!謙也・・・今林檎食べたでしょ!?私の林檎!」 「食ったで」 昼休みは私と謙也、そして私の恋人でもあり謙也の友人でもある蔵と三人で過ごすことが多い。基本、部活 で忙しい蔵なのでせめて昼休みくらいは一緒にと気遣かってくれているのだ。もちろん、私の友人たちもみんな分 かってくれているので、昼休みはからかわれながらも気持ち良く送り出してくれる。しかし、疑問がひとつ。謙 也という存在も、昼休みを一緒に過ごしているということだ。私と蔵が付き合う前から蔵と謙也は仲が良かったし お昼をにしていたそうなので、もちろん私がどうこう言うことではない。男同士の友情に口を出すつもりもサラサラない。 私自身、一年の時から謙也とはクラスメイトで仲も良かったので、特に三人でも違和感はないように思う。・・・けど、 普通は少し気を遣ってくれるんじゃないだろうか、なんて欲張りなことを考える。おそらく、 これが謙也でなかったらこんな醜い感情を抱いていないかもしれない。私はちょっぴりではあるが、おそらくヤキモチを妬いているのだと思う。 蔵のことをとても理解し、仲の良い謙也に。 「何騒いでんねん」 「あ、蔵!聞いて!」 「あ〜美味かったで、林檎ちゃん」 「何が「ちゃん」だ!」 昼休みになってしばらく、教師に呼ばれて席を外していた蔵がようやく戻ってきた。謙也はアホみたいに何 でもスピードにこだわりがちなせいか、ご飯を食べるのも早い。なので私が食べ終わるかなり前に自分の昼ご 飯は食べ終わってしまうのだ。そこで視界に入ったのが私の林檎だったのだろう。これではまるで小さい子供 の喧嘩のようではあるが、食べ物の恨みは恐ろしいものである。 「まぁ食べられてもうたんは仕方ないやん」 「そうなんだけど〜・・・」 「俺がに帰り林檎買うたるから、機嫌直しいや」 「うう、蔵の優しさに目が染みます。どっかの誰かと違って」 「そんな目で俺のこと見んなや!」 「謙也も人の取ったらあかんで」 「せやけどめっちゃ美味そうやったんやで?しゃーないやろ」 もしここが教室でなかったら、間違いなく蔵に抱き着いている。そして謙也の頭にゴチンと拳を入れたいくらい。 何が「美味しそうだったから」だ!蔵のこ の包容力を少しでも見習ってほしい。いやいや、蔵に免じてここは私が譲歩しようじゃないか。 しかし、問題は全て解決したわけではない。謙也のこのような意地悪な行為はこれだけではないのだ。例えば授業中。答えが解らない問 題を教師に指された時、隣の席だった謙也に聞くとさらりと教えてくれた。私は自信満々で教えられた通りに答えたが、 結果は間違いどころか全く違う答え。何と謙也は全然関係のない全く違う答えを私に教えてきたのだ。おかげで私は大恥をかいたことがある。(そもそも人に聞くのがいけないということは分 かってはいるし、答えが間違いだと気づかない自分にも過失はあるけども) ************************** 「本当、謙也ってヘタレなくせにイジメっこ気質!」 テスト期間中で部活がないため、久々に蔵と一緒に帰れる。蔵はさっき言っていたように、本当に帰り道の八百屋さんで林檎 をひとつ買ってくれた。あまりに嬉しくて、このまま食べずにお部屋のインテリアにしたいくらいだ。 手を繋ぐのも久々だろうか。こんなに時間がゆっくり、でも早く流れる感覚も久しぶり。出来ればずっと こうしていたいけれど、夕焼けがそれを許してくれない。 「でも何やかんや言うてと謙也って仲良いやん」 「え!?あれを仲良いって言うの!?」 「仲ええやろ。ちょっと羨ましいくらいやで」 ふと、横を向いて斜め上を見ると夕焼けに照らされた蔵の横顔が目に入った。その表情は微かに笑みが浮か べられているけれど、純粋に「憧れる」という意味の羨ましいではないということが、とても良く分かった。 手をぎゅっと少し強く握ってみると、不思議に思った蔵がこちらを向いてくれたので質問をぶつけてみる。 「え、ちなみに一応聞くけど・・・どっちが羨ましいの?」 「・・・・・」 「・・・・・」 「何言うてんねん!謙也が、に決まってるやろ!」 「つ、まり?」 「と仲良い謙也が羨ましいちゅうことやな・・・って改めて言うと恥ずかしいんやけど」 言わせたこちらまで恥ずかしくなってしまった。もし逆を言われてしまったら、それ以上に驚くと 同時に寂しいことはないので少しホっとした。いや、ホっとしたなんて感情とっくに通り過ぎて、顔に熱を持っている。別に「好 き」だとか「可愛い」だとかそういう言葉を言われたわけじゃないのに、こんなに恥ずかしくて照れてしまい そうになるなんて。 「そ、そうなんだ」 「そりゃあ俺だって心配になるっちゅうか、」 「も、もしかして・・・妬いてくれてるとか!?」 「せやろな」 そんなあっさり!これ以上は私の心臓が持ちそうにありません!またもや自分で聞いといてこんなにドキド キしてしまうなんて。いや、多分嬉しくて胸が高鳴っているのだと思う。だって、私も蔵と仲の良い謙也にヤ キモチ妬いて、蔵も私と仲の良い謙也に妬いてたなんて、こんなに微笑ましい嫉みがあるだろうか。 「まぁそんなん男としてカッコ悪いやろ?せやから態度にも出さへんし言わんようにはしとるけど」 いつものように余裕のある蔵の笑みが夕焼けのせいだろうか、少し眩しい。じゃあ、私のこの真っ赤な顔も夕焼 けのせいにして下さい。なんて、必死に自分のドキドキを抑えようと試みる。謙也ってある意味罪な男、とひ とり心の中で笑いながら呟くと、少しだけ自分の嫉妬も浄化されるような気がした。 「私は嬉しいけどね」 「でも謙也相手にって微妙やろ」 「うーん、確かに」 同時に蔵も普通の男だったんだ、なんて少し安心した。蔵はいつだって私に優しさだったり楽しさだったり ときめきをくれるけど、私ばかりが好きだったらどうしようかという不安も、特に意識をしたことは ないけど心の中で少しばかり存在していたようだ。だって今はこんなにも嬉しくて心が満たされている。 「あかん、やっぱりのことになると格好悪うなるなぁ」 「ううん、全然そんなことないよ」 今ならまだ、この夕焼けのせいに出来る。今まであまり面と向かっては言えない台詞だって言葉だって、相 手に伝えなきゃ意味がない。蔵だって格好悪いと思いながらも、私に嬉しい想いをくれたのだから、私だって 少しは彼に伝えたい。 「そ、それに私は・・・格好悪くてもどんな蔵でも大好きだから」 蔵は私のことをお見通しである。言葉を伝えることは出来ても恥ずかしくてたまらない私はその場をダッシ ュ。しようとしたけど、それは素早い蔵の腕によって引き止められた。その言葉を言ったあと、私が恥ずかし くなっていたたまれなくなって駆け出したくなる、ということまで理解していたようだ。力強い腕で捕えら れたあとは、力強い包容。もうごまかすことが出来ないくらい真っ赤な私の顔。 「そんな可愛いこと言うてくれたを、俺が逃がすわけないやろ?」 もしかしたら謙也はそんな私たちを理解していて?いやいや、あの男に限ってそれはナイ。 でも一応、心の中でひっそり謙也に謝罪とお礼をしておいた。 |
茜色と
ひみつの約束
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「俺のナイスアシストやで!」 「いや、絶対違うやろ」 「これくらい良いやろ!俺の扱い散々やったやん!」 |