これでも一応女の子。しかも、現在進行形で恋をしている女の子。なので人並みにオシャレに興味がある。 好きな人に会いに行くのにだって、少しでも可愛く見られたいから出来るだけ頑張る。別に褒められなくたって良い。 「可愛いね」とか言ってほしいわけでもない。(たまにくらいは言ってほしいけど)だから半分くらいは自分の自己満足で あり、プライドでもある。せめてこの人の隣に並んでいても、周りから可笑しいと思われないくらいには。

蔵の家に着きインターホンを押すと、蔵は珍しいものを見たかのような目で私を見た。




にしては珍しく遅かったなぁ」




それもそうだろう。私は蔵との待ち合わせには今まで一度も遅れたことはない。 でも、その後すぐに笑って「外寒かったやろ?ごめんな。今用意するからもうちょっと待っとって」 なんて相変わらず優しいことを言う。お言葉に甘えて「お邪魔します」と家に上がりこみ、真っ直ぐに蔵の 部屋へ行く。蔵の家にお邪魔するのは初めてではないし、ご家族にも会ったことがある。 ただ、残念ながら蔵の楽しいご家族は全員留守のようだ。私は蔵の部屋に入り、相変わらずキレイに整頓された 部屋のベッドに腰掛けた。相変わらず無駄のないキレイさ。私の部屋より絶対キレイ!

今日は久しぶりに、本当に久しぶりに待ちに待った蔵とのデート。いつも蔵は私の家まで迎えに来てくれるけど、 今日のデートで行こうとしている映画館は、蔵の家のほうが近いから蔵の家での待ち合わせにした。 まぁ正直な話、私は蔵と行けるなら待ち合わせがどこだろうが何時だろうか構わないんだけど・・・なんて 謙也に言った話したことがあった。謙也は「うわっ!俺の前でのろけんな、ボケ!」と言われたことがある。



「もうちょっとかかりそうやからコート脱いでて良いで。ほら、ハンガー」
「えっ・・・」




ボーっと謙也とのアホで下らない会話を思い出していたら、蔵が気を遣って私のコートが皺に ならないようにハンガーにかけてくれようとしてる。うう・・・何て完璧な男なんでしょう。 そんな蔵の優しさに感動する・・・いつもなら。今日だけはその優しさを封印してくれて構わないから! 私のコートのことなんて気にしないで!ほら、それより早く仕度しちゃいなよ!




?」
「こ、このコート気に入ってるんだー」
「気に入ってるなら余計ハンガーにかけたほうがええやん」
「あ゛、大丈夫。気にしないで!」




ヤバイ!声裏返っちゃった!バカバカバカ!蔵不思議に思っちゃうじゃん。・・・ほら、何か見てるし。

私にはどうしても今日はコートを脱ぎたくない理由があった。
蔵とのせっかくの久しぶりのデート。何日も前から楽しみにしていて、何日も前から気分もルンルンで、 何日も前から何を着て行こうかなんてことを考えていた。久しぶりのデートだし、完璧な蔵に似合うよう 完璧で行きたかった。なのに・・・今日の私のコートの下の服装は最悪なのだ!きっと誰もが「うわ・・・」 と言うような服。自分でもよく分かるくらいなのだ。




・・・何か隠してへん?」
「かかか、隠してないよ!」
「めっちゃ動揺してるやん!それに今日は珍しく家来るの遅れとったし」
「私だって遅れることくらいあるよ」
「・・・怪しい」
「蔵?」
「そのコートの下に何か隠しとんのやろ?」
「べべべべべべ別に!」
「脱がすで」
「ひぇー!わ、分かった!言うから・・・」




蔵はいつの間にか私の隣に座っていて、私のコートのボタンに手をかけていた。 その動作と先ほどの「脱がすで」の言葉にちょっとドキっとしてしまったのは秘密にしておこう。 私は意を決してコートを脱ぐことにした。何だかコートを脱ぐだけなのにすごいオーバーなことに なってしまっているけど、今日の私にとってはだいぶ勇気がいることなのだ。何なら服全部脱いじゃって 裸になったほうがマシと思えるくらい。・・・いや、やっぱそれは無理だけど。 そして私は立ち上がり、コートのボタンを全部は外し、ガバっと脱いだ。




「・・・・・」
「・・・・・」
「ちょっと・・・何か言って」
「いや、何か言って言われても別に何もないやん」
「え!この服見て何とも思わないの!?」
「普通のトップスに普通のスカートやん」
「そうじゃなくて!」
「何やねん」
「い・ろ!色!」
「色?」
「何かに見えるでしょ?」
「別に・・・。ちゅうか言っとる意味がよう分からんけど」
「嘘!毒きのこみたいに見えるでしょ!?」
「はぁ!?」




そう。私の今日の服装は紫のシフォントップス、下はスカートに見える赤のキュロット。おまけにキュロットには クリーム色のドットがある。紫と赤って言っても色味は色々あるから、全ての赤と紫の組み合わせが毒きのこ みたいに見えるわけではないのだろうけど、今日私が来ているのは正に毒きのこカラーなのだ。 私だって狙って毒きのこの色にしたわけではない。前から着ようと思っていた服が全て洗濯中or乾いていない ということで、泣く泣くこの組み合わせにしたのだった。親にも「あら、そんな毒きのこみたいな服着て 蔵くんとデート行くの?」なんて言われてちきしょう!という思いを胸にしまって家を出てきたのだ。 もっともっと可愛い服で、少しでも可愛く見えるような服を着て行きたかったのに。そう思うと今こうして蔵の横にいる 自分が情けなくて、私は床にペタリと座った。あー、しかも喧嘩みたいになってるし。(私が逆ギレしてるだけなんだけど。 それも自分に対して)




「何や、そんなこと気にしてたんか」
「だって・・・」
「やっぱは可愛ぇなぁ」




蔵はそう言って、また私の隣に座ってきて頭を軽く撫でてくれるとぎゅっと抱きしめてくれた。 ちょっと戸惑ってしまったけど、何となく私もぎゅっと抱きついた。そしたら蔵は嬉しそうにして私の頭を 良し良しと撫でてくれるので、私は慰められている子供のように甘えた。こんな毒きのこな私を見捨てず 抱きしめてくれるなんて・・・何て優しいんだろう!




がいっつも俺のために頑張ってくれてんの知っとるで」
「・・・え!?」
「せやから・・・」




蔵はあっという間の速さで私に軽いキスをしてくれた。あまりの速さに驚きで蔵を見ていると 「あかん・・・可愛い」と甘い言葉までつけてくれて甘いキスをたくさんしてくれた。 ちゅ、ちゅと可愛いキスから酔いしれてしまうようなキスまでたくさん。 ようやく唇を離してくれると、すごい甘い目で見られてるのが分かって恥ずかしくなって 蔵の胸に顔をうずめた。そうすると蔵はいつもぎゅってしれくれる。




は可愛いから何着ても似合うやん」
「・・・そんな風に思ってくれるのは蔵だけだもん」
「それに俺、毒は嫌いじゃないで」
「・・・そんなことを言うのも蔵だけだね」
「そんなに嫌やったら、このまま全部脱がしてやってもええんやけど?」
「・・・え!?」
「今日はこのまま家で・・・」
「嫌!それは嫌!」
「そんなに全力で拒否らなくてもええやん!」
「そうじゃなくて!今日は蔵とデート出来るのすごい楽しみにしてたから、ちゃんとデートしたいの」
「・・・毒きのこはええんか?」
「コート着ちゃえば分からないから良いの」
「さっきまではコート着ててもテンション低かったやん」
「良いの。蔵に慰めてもらったから」
「単純やな(まぁそこが可愛ぇんやけど)」
「行こ!」






愛しの毒きのこ

(すでにその愛らしさが可愛い毒みたいなもんや)



その後、無事に映画を見終わったあとにカフェに入った。さすがにカフェでコートを脱がないわけにはいかない。 映画館は暗かったからコートを脱いでも目立たなかったけど、カフェはどうだろう・・・。悩んでいると蔵が「 膝にかけてたらええやん」とナイスな一言を言ってくれたので無事に一件落着。楽しいデート・・・だったが後ろから 聞きなれた声がした。


「あれ、白石やん。何しとんの?」
「謙也こそ、こんなとこで何しとるん?」
「俺は・・・って何やか!」
「何やって何よ!」
「白石が毒きのこみたいな服来た女といると思ったらお前やったんかいな」
「・・・!」
「おい、謙也!」
「それにしても、すごいセンスやなぁ〜。いくら白石が毒好きやからって毒きのことは・・・考えたやん!」
「・・・」
「ホンマにお前らのラブラブっぷりには敵わんわぁ」
「うるっさい!」


パシーン!!//