「た、大変でござる!」
「し、晋助さま!大変っスよ!」
「・・・昼間からうるせェなァ」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでござる!」
「あァ?」
「お、落ち着いて下さいっス!」
「お前ェらが落ち着け」
が血を流しながら帰ってきたでござる!」


▼▽▼


人は何かに怯えると慌てるものである。今まさに、その状態に陥っているのが万斉とまた子であった。
そもそも、が血を流すということは此処にいる以上、絶対ありえない事なのである。いや、有り得ないと いうよりは許されないというべきだろうか。例えから出る血が鼻血だとしても、此処では大事件に さえ発展してしまうかもしれない。全てはを溺愛している高杉によって。


が外に出ることは滅多にない。別に監禁や軟禁されているというわけではなく、高杉や他の者 たちと出掛けたりする事がある。単純に、高杉がただを傍に置いておきたい という事と、外を歩かしたら心配でたまらないという事。それに自身も高杉の傍にいる事が出来ればそれで良い、 ぐらいにしか思っていなかったので、特に問題はなかった。
しかし、も他と同じイマドキの女の子でもある。たまには、外でのんびり 過ごしたり、また子と女の子同士の買い物に行ったりしたいものだ。もちろん最初は高杉にも反対された。 万斉や他の者たちも、高杉の怒りを買わないようにするために一応反対はした。だが、のあまりにもの 懇願っぷりにまずは同じ女の子である、また子が心を動かされ、他の者たちもだんだんとが 不憫に見えてきたのだ。とはそういう女の子である。心を動かされるような不思議な魅力を持った子である。 流石の高杉もの懇願っぷりと上目遣いにやられたのか「しょうがねェなァ」としぶしぶ了承して くれたのだ。そのおかげで、は申告さえすれば1人でも外に出るようになった。


「・・・血、だと?」
「そうなんスよ!足とかから血出てて・・・!」
「顔にも怪我して、泣きながら帰って来たでござる」


ただ、が一人で散歩したり遊びに行ったりする事はあまりなかった。晋助さんがいないとつまらない、 そう思ったのだろう。あまり一人で行動した事のないにとって、一人で外出というのは単なる 憧れであって、1回試してみればもう満足だったようだ。しかし、たまにはリフレッシュも必要だと 思った万斉やまた子は時々はに買い物を頼むようにした。これならば、ちゃんと目的もありも 外に出て街の様子を感じることも出来る。最初は不安であったため、に内緒で尾行(監視・ガード) がついていたりもしたが、意外と平気な様だったので、今では一人で買い物に行っている。 初めてのおつかい、というわけではないが、は高杉以外の者たちにも愛されている存在であったため、多少は 大袈裟な扱いを受けている。


、1回泣くと泣き止まないから早く行って下さいっス!」
「今、奥の部屋で治療を受けてるでござるから」
「・・・・・」


高杉にしては珍しく早足で廊下を歩く。一応それに万斉とまた子も着いていくのだが、この後の高杉の 反応が怖い、というところだろうか。廊下を歩いている高杉の部下たちもそのオーラに気圧されてか、 無言で道を開ける。がいる奥の部屋の前まで辿りつき、高杉が襖に手をかけるとの「うわーん!」という泣き声が 聞こえた。一瞬止めた手を動かし、襖を思いっきり開けると驚いてポカーンとしているの姿が 見えた。襖の開く勢いと、高杉が来たということに吃驚して、涙は一瞬止まったようだ。


「え・・・晋助さん?」
「・・・オイ、どういう事だァ?」
「いやっ、だからが足を怪我して帰って来たんスよ!」
「血って・・・これの事かァ?」
「そうでござるよ!」
「どう見てもカスリ傷だろォが」
「でも血出てるんスよ!」


高杉は、がどっかの人間か天人か誰かに斬られたのかと思い、ここまでやってきたのだ。それも そうだろう。万斉とまた子のあの口ぶりなら、誰だって生死が懸かってるような大怪我だと思うだろう。 実際、が料理を作っている時に火傷や包丁で指を少し切ってしまうという事が多く、その度に 高杉はを心配した。周りの者たちもを心配し、同時に高杉がキレないよう心配した。しかし、 は極度のおっちょこちょい、というかドジであった。このような些細な怪我は、日常茶飯事 でもあったため、高杉の心配というか過保護ぶりも前よりだいぶ緩くなった。


「ううっ・・・ごめんなさーい」
「おい、。何があった?」
「・・・・・」
「ちゃんと言わねェとお仕置きするからなァ」
「い、言います!実は・・・」


に話によると、ただ単に転んだだけらしい。買い物を済ませると、荷物が思ったよりも多く スーパーの袋を両手で持ち、とろとろと歩いていたらそのまま石に躓いて転んだとか。実にらしい 理由であった。しかも、転んだ拍子にせっかく買った卵を落として割ってしまい慌てて動揺していたところ に野良犬がやってきた。その野良犬がに襲いかかったために、顔にも傷が出来てしまったとか何とか。 万斉とまた子はの怪我の理由を、もう聞いて知っていたため特に驚きも呆れもしなかった。その2人の様子に 気づいた高杉は一瞬、万斉とまた子に視線を移し睨みをきかしたが、すぐに視線はのほうへと戻った。


、その犬の特徴言え」
「えっと・・・野良だったのであまり覚えていないんですけど」
「あ!し、晋助さん!ダメっスよ!」
「さては、この世の野良犬を全て排除するつもりでござるな!」
「・・・るせェ」


は、高杉がこの話を聞いたら呆れるだろうと思っていたので最初、晋助が刀に手をかけた理由を 理解していなかった。それにいち早く察したまた子と万斉が慌てて止めるのだが、高杉の機嫌はおさまりそうにない。 また子と万斉が必死で高杉を止めている時に、が「あの・・・」と声をかけた。その声に反応し、ようやく高杉 にも落ち着きが戻ったようである。高杉はの元へと近づき座ると、の手当てをしていた部下に 「貸せ」とだけ言っての手当てをし始めた。手当てしていた部下がどうしようかオロオロしていたが、 万斉に「戻って良いでござる」と言われたので一礼して去って行った。そしての手当てを している高杉を見て、ホっとした万斉とまた子は静かに部屋から出て行きその場を去った。


「ったく、お前ェは本当にドジだなァ」
「ご、ごめんなさいっー」
「・・・・・」
「あの、卵割っちゃったこと、怒ってますか?」
「・・・あァ?」


どうやらは、高杉は卵を割ってしまった事に対して怒っていると思ったらしい。何で急に卵が出てきたのか わからなかった高杉は一瞬、ワケがわからないという意味でに疑問を投げかけたが、すぐに察した。 そのまま無言での足に包帯を巻きつけていく。包帯というより絆創膏で済むくらいの、本当にカスリ傷である。 しかし、やはり過保護なのか大事に思い過ぎているのか包帯を巻いていく。はその様子を静かに見ていた。


「あ、あのもう1回ちゃんと買ってきますから!」
、今日はもう外に出んな」
「で、でも・・・きゃ!ちょ、何してるんですか!?」


足の手当てが終わったあと、残っているのは顔の手当てだった。もちろんこちらも大した怪我ではない。 頬に引っかき傷というか、うっすら赤い線がついているくらいである。高杉はのその傷に口づけた・・・というか 舐めたのである。予想外の出来事に、はただひたすた驚き、されるがままだった。


「ひゃ、ちょ、晋助さん、くすぐったい!」
「俺を心配させた罰だァ。黙ってされてろ」
「もー・・・ん、ぅっ」


こうなった高杉には、何を言っても通じないということが分かっているので、の諦めも早かった。 仕方ない、晋助さんの気の済むまで待ってよう・・・と思っていた矢先のことである。次の瞬間には、の唇は 高杉によって塞がれていた。どうやら頬の手当ては無事に終了したらしい。に何も言う間を与えないよう、 そのまま深い口づけへと変わる。もちろん、こうなると高杉の肩を押してもどうにもならない事を は知っているので、ここでもされるがままである。


「し、晋助さん!もうっ、急すぎですよ!」
「お前ェが悪いんだろーが」
「むぅ・・・」
、お前ェこれから買い物だろうが何だろうが出掛ける時は俺に一声かけろ」
「え・・・まさか一緒に来てくれるんですか?」
「あァ」
「ええ!?そんな晋助さんに着いてきてもらうなんて・・・!」

「・・・わかりました」
「素直じゃねェか」
「だって卵割っちゃってますし・・・」
「良い子には褒美をやんねェとなァ」
「え・・・ええ!?」




傷口に魔法をかけて





(し、晋助さん!じゃあ今買い物に行きましょう!)
(今日は大人しく、その怪我治してろ)
(こんなんカスリ傷ですから!)
(安心しろ。俺がその傷、ゆっくり治してやらァ)
(余計悪化しますよォォォォオ!)