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恋をしている人は美しい。どっかで聞いたことがあるそんな言葉。今までは特に意識したことはない。けれど、友人たちが恋について語る様子は見ていて可愛らしいし微笑ましい。眩しく見えるように感じた。片想いをしている友人が、自分には興味がないんじゃないかなと悩んでいる姿や、恋人同士ではあるものの最近はあまり会えていないだとか。そういったネガティブに見えるような話題でさえ、イマイチ恋が分かっていない私からしたら少し羨ましいとさえ思ってしまう。 「好きな人ってどうやって作れば良いんだろう。っていうか、何を思ったら「好き」になるんだろう」 グラスの中に入っている氷をカラカラ回しながら、どこへも行き場のない言葉を浮遊させる。何度この問いを自問自答してきただろうか。それでも答えなんて一回も出たことがない。「恋をしたい」と意味もなく漠然と繰り返し言葉にするだけでも、少しは輝いたり楽しめるんじゃないかと思ったりもしたけれど、やっぱりダメだ。本当に恋をしないと、意味がない。 「ってか、それ聞いてる時点でヤバイんじゃね?」 「やっぱり?」 「つーか無理矢理作るもんでも好きになるもんでもないっしょ」 「でも、好きな人がいた方がなんか楽しそうじゃん」 「そりゃあーまぁそーだろーけど」 顔を見なくても目の前の友人が呆れたような顔をしていることは何となく想像が出来る。私の飲み物がなくなりそうなのとほぼ同時にメニューを差し出してくれる気遣いを持つ彼なら、きっとたくさんの女性たちと恋をしてきたはずだ。そんな彼なら私が抱えているこの悩みを解決してくれるかと思っていたのに、それはどうやら浅はかな考えだったらしい。私がメニューを閉じると店員さんを呼んでくれる彼はやっぱり同性だけでなく異性からも頼られる存在なのだろう。 「じゃあさ、高尾くんの場合は何を思ったらこの人好きって思うの?」 「んー…」 例えば笑顔が可愛いだとか、雰囲気が良いとか、スタイルが良いだとか。真面目だとか、優しいだとか明るいだとか。見た目だって中身だって、人それぞれ好みというものが存在して、どこかにその境界線が存在しているはず。その境界線を超えたら好きなのか。でも、例えどんなに顔が好みだって性格が好きじゃなければ恋愛になんてなれない。逆に顔が好みでなくても、性格が優しくて素敵だったら好きになってしまうかもしれない。今までどうやって恋愛してきたっけ?と思ってしまった私に教えて下さい高尾先生。 「無難かもだけど一緒にいて落ち着く、とか?まぁ他にも色々あるけど」 「でもそれって何度か同じ時間を過ごさないと分からないよね」 「人それぞれじゃん?つーか、きっかけだって人それぞれだろうし」 「難しい…恋愛ってこんなに難しかったっけ?」 「じゃあ、のスイッチは?」 今までの恋愛なんて、きっと恋愛と呼べるほど立派な物語じゃなかった。もちろん、それなりには楽しかったし幸せだった。でも、子供だった。もっと相手のことを考えてあげれば良かったと悔いる過去は誰にでもあるのかもしれないけれど、少くとも私は輝いてなかった。きっと、私の前で嬉しそうだったり悲しそうな表情をして、好きな人のことを語る友人たちの方が昔の私より何百倍も輝いている。相手のことを理解出来て、私のことを理解してくれる。私だって輝いてみたい。 「色々あるけど最終的には一緒にいて落ち着ける人かなぁー…」 「オレと一緒じゃん!」 吹き出しながら笑う彼を見て、彼と私の価値観は近いのかもしれないと思った。でも、私は落ち着くだけじゃ嫌。適度にドキドキと胸をときめかせてくれないと、きっと満たされない。そんなことを言ったらワガママと言われてしまいそうな気がしたので、飲み物を流し込んで誤魔化したけど、私だって人並みの恋愛に夢を見るくらいなら許されるはず。 「…はもっと自分を理解した方が良いんじゃね?」 彼との付き合いは程々長く、彼はきっと私より私のことを理解してくれている。だから彼にはつい甘えてこういった恋愛面だけでなく、ありとあらゆることを相談してしまう。そんな彼だからこそくれた助言なのだろう。笑ったあと、少しの沈黙が私たちの空気を纏う。彼となら沈黙が生じたって気まずくとも何ともない。けど、急に見えた真剣な顔には戸惑ってしまった。あと少し、あと少しで何かが分かりそうなのに分からない。結局、私は私のことをまだ理解しきれていない。 「つーかオレ、分かってるから」 でも、いつもいつも彼が私の求めている、私が欲しがっている言葉をくれるから、 「がオレのこと好きってことくらい」 私は自分でも気づかない間に彼に恋をしていたのかもしれない。だって、私が私のことを理解出来ていなくても、私のことを理解してくれる人が傍にいるなら、こんなに安心出来ることってないと思った。否定出来ない真実にむしろ納得。胸が高鳴るようなときめきが、私を呼んでいる。 「だって分かってんだろ?」 恋愛は理屈じゃない。どっかで聞いたことがあるそんな言葉。きっかけなんて、理由なんて分からない。けど、私が抱く彼への感情は紛れもなく他の男の人に抱く感情とは別物。 彼との長い付き合いの中で、私は無意識のうちに自分の周りに柵を囲っていた。彼が私の恋愛事情を知っているように、私も彼の恋愛事情を全てではないけれど知っている。そんな彼の様子を見て、私は思っていた。彼とはこのまま友人関係でいた方が良いのかもしれないと。自分を守っていた。けど、戦う相手を間違っていたようだ。もしかしたら、今の私の表情は周りから見たら恋をする女の顔になっているのかもしれない。きっと間抜けな顔をしているだろうけど、少しは輝けているのかもしれない。 「オレがのこと好きだってことくらい」 あ、胸が、ドキドキした。 |

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