「精市ー・・・げ!」




昼休み、精市のクラスに行くのが日課である。私はあまりよく分からないけれど、精市はテニス部 の部長でしかも全国一とかなのでスーパーウルトラ忙しかったりする。なのであまり遊ぶことも出来な ければ、一緒に帰ることさえ困難。寂しさを覚えつつも、精市の邪魔はしたくないし、忙しくても 精市はちゃんと私のことを考えてくれているから我慢も出来る!
でも・・・我慢したいようなしたくないような事もあったりする。それがコレだ。




「ちょっと!何で今日もまた真田がいるのよ!」
「お前こそ毎日来ているではないか」
「私は精市の彼女!」
「俺は精市と同じテニス部だ」
「だからって、そんな毎日来なくたって良いじゃん!」
「その言葉、そっくりお前に返そう」
「何よ!精市の金魚のフンか!」
「な・・・何だと!大体女子のくせに何だ、その言葉遣いは。けしからん!」
「女子のくせに・・・って男女差別するな!」




そう、私が精市に会いに行くと必ずと言って良いほど真田がいる。私より絶対先に精市の隣をゲットしている。 くそう、今日も負けた!毎回のように大きな声で言い合いをしているからか、周りは「またやってるよ〜」 というような視線を私たちに向ける。やりたくてやってるワケじゃないよ!真田さえいなければ、私は もっと精市と多少はくっついたり出来るのに!お昼だって、ひょっとしたら一緒に食べれるかもしれないのに! 前に精市とお昼を食べようと誘いに行ったら既に真田が先にいて一緒に食べていた。そこでまた私と真田 が喧嘩になったわけだけど、男2人は「3人で食べよう」という結論を出した。いや、良いんだけど。 別に良いんだけど、何か違くない?と思って結局作り笑いをしてその場を去った私は敗北者。いつか絶対真田に勝ってやる!




「まぁ2人とも落ち着いて」
「精市は黙ってて!」
「大体お前はどうしてそんなに喚くんだ。もう少し慎ましく出来ないのか」
「何を〜!誰のせいだと思ってるのよ!」
「幸村が甘やかすからじゃないのか?」
「そう?」
「ちょっと!精市が悪いみたいに言わないでよ!」
「お前はもう少し大人しくしたほうが良い」
「真田のその上から目線が気にくわない!」




いつもこんな感じで言い合いをし、こんな感じであっという間に昼休みが終わってしまう。 あーれまー。真田と無駄に喋ってるこの時間を、精市と過ごしたいと思って来てるのに。
そもそも真田は、精市に私という彼女が出来た時、裏でこっそり反対というか心配をしていたらしい。 まぁ柳にこっそり聞いた話だけど、あのクソ真面目な性格の真田だから「交際などはまだ早い〜」だとか「テニスに 身が入らなくなる〜」だとか。小姑か!でも、精市のテニスの腕は全く落ちていないらしく、私は私なりに 安心したのに真田ったら!「それほどお前に夢中になっていないということだな」とか言ってきた!くやし〜い!




「真田のせいで昼休み終わっちゃったじゃん!」
「それは俺のせいではない」
「うるさい!・・・精市!今日は一緒に帰れそう?」
「今日はレギュラーのミーティングがあるから無理だろう」
「真田には聞いてないってば!」
「まぁも落ち着いて。でも、今日ミーティングがあるのは本当だからちょっと難しいかもしれないな」
「・・・そっかー」

「ん?」
「・・・いや、送ってあげられないけど気をつけて帰るんだよ」
「うん、ありがとう!」
「まぁお前なら何も心配ないだろうがな」
「うるさい!」




あ〜あ。トボトボしながら精市のクラスを出るのはこれで何日連続だろう。
まぁ真田の思い通りになるのは癪だけど、精市のためならと思えば我慢よ、私!




*****************************




そして昨日は結局一人で帰った。実は精市が待っていてくれたなんて甘い展開は全くの皆無で。 ・・・まぁもちろん今までだって1回もそんなことなかったから良いんだけど。
でも部員のみんなも多少気を利かせて「たまには彼女と帰ったらどう?」的なこと言ってくれたって良いじゃん! 部活がどんなに忙しいか、帰宅部の私には分からないけど、たまにはそれくらいの事あっても良いじゃん! まぁそんな気を遣うことが出来そうなのは・・・柳くらいかな。柳生とかも気を遣ってくれそうなイメージある。 あとは仁王とかもさり気なく気が利くんだよなー。




「何じゃ、そんなジロリとこっち見て」
「別に」
「惚れたか?」
「私は毎日精市を見てるのに仁王に惚れるわけないじゃん」
「ひどいのう」




仁王なら!色々とするどい仁王なら私の気持ち分かってるよね!?なーんて目で見ても全然通じてないみたい。 それか、仁王のことだから実は分かっててワザと知らないフリして楽しんでるのかも。 あ、そんな気がしてきた。やだー!何でこんな男がモテるの!?ちきしょう、何だか悔しい! そして授業中だというのに微かに聞こえるガムを噛む音。




「お前は幸村くん以外の男には本当に目もくれねーんだな」
「少なくとも、いつも何かしらお菓子食べてるような男には目もくれない」
「そりゃねーだろい!俺も仁王も結構モテるんだからな」
「はいはい、精市の次にね」




左を見てもテニス部仁王。右を見てもテニス部丸井。私の両隣には2人もテニス部が、 いるのに全然意味なし。この2人にせめて彼女がいれば私の気持ちも分かってくれるんだろうけど、 ビックリすることに彼女がいない。というか面倒くさくて作ってなさそう。




「ねぇ、今日もミーティングとかあるの?」
「そうじゃな、しばらくはあるじゃろ」
「ちぇ、今日も一緒に帰るのおあずけかー」
「まぁ試合が近いからな」
「ちょっと、2人からも真田に言ってやってよ」
「言うって何をじゃ?」
「うーん、色々」
「色々って何だよ!つーか真田に何か言えるわけねーじゃん」
「え!?何で?真田ってそんなに立場が上なの?」
「立場つーか、俺は真田そんなに得意じゃねーから」
「あぁ、性格合わなそうだもんね。仁王は?」
「んー・・・」
「というかずっと思ってたんだけど、2人ともそこそこモテるのに何で彼女とか作らないの?」




実はミーハー心でちょっと気になったり。だって2人とも精市ほどじゃないだろうけど、モテるだろうに。 それに、さっきも言ったけどレギュラーの誰かに彼女が出来れば、少しは色々と緩和される気がする・・・! もう誰でも良いからサクっと作っちゃえばー!そして頼むから、私を真田の呪縛から救っておくれ!




「あー、まぁ部活があるからなぁ」
「幸村は・・・よくやってるぜよ」
「え?何、急に?」
「まぁと一緒にいる時間はあんまないじゃろうけど」
「ん?だから何?」
「彼女が出来てもテニスのレベルを落とさないようにすることで、ちゃんとお前さんを守っとるんぜよ」
「え・・・」
「まぁ幸村が忙しくても文句を言わないも大したもんじゃがの」
「そーそー!だから俺達周りの連中、お前にも幸村くんにも気遣わないでいられるんだぜ」




いや、気遣ってよ!っていうことを言うと話が途切れちゃうからやめておこう。
そしてイマイチ意味分からないから、続きを聞こう。丸井はともかく、仁王って時々意味分からないこと言うからなー。 今の話だって褒めてるんだから何なんだか。




「俺らが彼女を作らないのはそこもあるんぜよ」
「え、全然意味わかんない」
「例えば俺らの彼女が、忙しいことに不満を持つ子だったとする」
「うん。ていうか普通は不満持つでしょ」
「お前の不満は幸村が忙しいことじゃなくて、どちらかというと真田が邪魔ってことだろ」
「うん」
「部活は大事だけど、俺らが忙しいからって自分の彼女が不満を持ったら俺らだって困るわけ」
「そうなると部活にも支障が出るじゃろうし、他の連中にも気を遣わせるかもしれない」
「俺らはそういの避けたいし面倒くせーから。だから彼女とか作んねーんだよ」
「まぁ、俺らもお前さんみたいな子が彼女じゃったら楽とは思うけえの」
「・・・ふ〜ん」
「真田だって最初はそういうの心配つーか不安に思ったんだろ」
「あいつは部活命じゃからの」
「お前の前では色々言ってるのかもしんねーけど、何だかんだ言ってお前のこと認めてんじゃね?」
「・・・ふ〜ん」
「ちゅうか・・・何か顔色悪いぜよ」
「んー・・・」
「おい!お前大丈夫かよ?俺達の話聞こえてた?」
「半分くらいは・・・」




と言いつつ、実は2人が彼女を作らない理由を話しているあたりからボーっとしてきてあまり頭に入ってなかったり。 いつの間にか机に突っ伏すような体勢になっていた。実はベラベラ喋ってるけど授業中の今。 後ろの目立たない席でラッキー。でも急に左右から2人の手が額に伸びてきて、何だ急にと思ったら保健室に行くように促された。 でも私が「毎日の日課の、“昼休み精市のクラスへ行く作戦”が実行出来なくなる!」というと丸井の 「それ何の作戦だよ」っていう下らないツッコミが小さく聞こえたあと、「幸村にうつしたくないじゃろ?」 と仁王に言われてしぶしぶ行くことにした。真田にはうつしてやっても良いけどね!なんて悪態もつけず ガックシしながら保健室に行く。
保健室まで仁王がつきそってくれたけど、絶対サボりたかっただけだと思う。「うちの部長の大事な彼女じゃ。 途中で倒れられても困るからの」とか言ってたけど、仁王のことだからよく分からない。 でも、保健室の先生がいなくて困ったときにベッドの布団をめくってくれたり、体温計や薬を用意してくれたりと、 気を遣ってくれた。何だよ、ちゃんと気遣えるんじゃん。さすがモテる男は違う・・・!と少し感心してしまった。 仁王は一通りやり終えると「少し寝て、それでも治らなそうじゃったら今日は帰りんしゃい」 と言って教室へ戻った。いや、戻ったかは知らないけど。とりあえず仁王の言うとおりスヤスヤ眠ることにした。




****************************




「ん・・・」
「あ、起きた?」
「・・・起きた」
「具合はどう」
「だいぶ・・・って!え!?」
「何?」
「何って何で精市!?え、今何時!?」




驚いた私はガバッと起き上がろうとすると「急に起きないほうが良いよ」と精市に優しく止められた。 私は、結局また布団をかぶって横になった。
でも、精市がここにいることにビックリだし、こんな時間になってるのもビックリ。窓を見るとすっかり 夕暮れになっているのが分かった。一体何時間寝てたんだろう・・・。そして先生とかも起こしてくれなかったんだろうか。




が保健室に行ったって聞いて心配したよ」
「ん、ごめんね」
「熱はもう下がった?」
「多分・・・だいぶスッキリしたから」
「ずいぶん寝てたみたいだけど、昨日遅かったの?」




昨日は・・・打倒真田!作戦を考えていたから、確かに寝るのは遅かった。 完成した作戦を柳に見てもらおうとノートにまとめてたら、すっごく遅くなった。
でも、そんな下らないことしてたなんて精市に言えない。かと言って、勉強してました的な キャラでもない。とりあえずここは普通に流してみよう。




「うん、まぁ」
「あまり無理しちゃダメだよ」
「(うう、こんな下らない理由なのに優しい)うん、ごめんなさい」
「ふふ・・・今日は慎ましいね」
「・・・!精市も・・・私はもっと慎ましくしたほうが良いと思ってる?」
「まさか。俺はどんなでも好きだからね」




うわー!何だろ、この久々に幸せな感じ。頭を優しく撫でながら微笑んでくれる精市が眩しい! 最近こういうのご無沙汰だったから嬉しいし、きゅんとしちゃう。今まで色々と悩んできた対真田作戦の 数々が馬鹿馬鹿しく思えるほど幸せ!




「帰れそう?」
「あ、うん」
「じゃあ帰ろうか」




ん・・・?何かおかしくないか?何だろう、このスムーズな感じ。不思議すぎる、違和感ありすぎる。 何が違うんだろう。私が起き上がると、すでに精市は私の荷物を教室から取ってきてくれたのか持ってくれ てるし。んで、そのまま保健室を出ちゃうし。ボーっとしてると精市が「どうしたの?まだ具合悪い?」 なんて聞いてくれちゃったから慌てて「そんなことないよ!」と返す。少しもやもやするけど、保健室の 先生に一応「具合良くなったので帰ります」と置手紙を書いて、保健室から出た。

帰り道、精市がテニスバッグを肩にかけてる反対側の手で私の荷物を持ちながら私の横を歩いてくれる。何だろう、 この違和感と考えても答えは出ない。とりあえず自分の荷物を精市に持たせてることに気づいて慌てて 謝る。何か・・・慌ててばっかりで落ち着かないな。




「鞄持たせてごめんね」
「良いよ、これくらい。重くないし」
「でも・・・手持ち無沙汰なのも落ち着かないから持つよ?」
「そう?じゃあハイ」
「!?」




精市は私に鞄を返してくれると、そのまま手を繋いでくれた!うわーうわー!こんなにカップルらしい ことしたの久々で嬉しい!あまりの嬉しさに繋いでる手に力をこめそうになった。危ない、危ない。 でも、そっか。普通のカップルは毎日こういうのしてるんだろうなー。精市とこんな事出来るなんて 滅多にないから、この一時を大事にしなきゃ!・・・って!そっか、分かった!




「精市!」
「え、何?」
「何で今ここにいるの!?部活は!?ミーティングは!?」
「それ今更じゃない?」
「だだだだだだって・・・!」
「ふふ、が心配でサボっちゃった」
「ええー!?」




おいおいおいおいおい!すっかり忘れてた。何だろう、この違和感と思ってたのはコレだ!
当たり前のように精市が帰り道に横にいる図だ!あんなに一緒に帰りたがってたのに、何故気づかなかった!私! というサボっちゃったって!嬉しいような、嬉しくないような。いや、やっぱりあまり 嬉しくない気がする。あんなに部活なんて・・・と思ってたのに、いざそんなことされても嬉しくない。




「精・・・」
「なーんてね。嘘だよ」
「え?」
「そんなことしたら、何だかんだ言ってが怒るだろ?」
「う・・・」
も根は真田並に真面目だからなぁ」
「げ、また真田(というか真田と一緒ってくくりが嫌!)」
「大丈夫だよ」
「?」
「今日のミーティングはなくなったから」
「え!?そうなの!?」
「風邪が流行ってるみたいでね。柳とジャッカルと赤也が学校休んでるみたい」
「そんなに!?」
「そう。だからが保健室に行ったって聞いた時はすごく心配した」




だから今日は柳の姿見かけなかったのか・・・。そういえばジャッカルも今日はうちのクラス来て なかったっけ。いつもは丸井のパシリみたいなことしてるのに、今日は音沙汰なしだったもんなー。 今思えば、柳もジャッカルも面倒見良すぎてダウンしたんじゃないの?あ、でも赤也くんっていう子は あまり知らないや。とりあえず真田によく怒られてるのを見かける。




「まぁ、でもミーティングがあったとしても今日は少しだけ抜け出したかもしれないな」
「え!?何で!?」
「だから・・・が心配だからだよ?」
「え・・・。あ、でも真田とかに止められちゃうでしょ。抜け出すなんてけしからん!とか言って」
「そうだとしても、こういう時は無理矢理にでものとこに行くよ」
「・・・え」
の事が心配でミーティングどころじゃなくなりそうだしね」
「う・・・うっ・・・」
?」
「うわーん、嬉しいよー!」
「はいはい。泣くんだか喜ぶんだかどっちか一つにしたら」




精市は困りながらも笑いながら私の頭を撫でて慰めるようにしてくれた。もうそれだけで充分! 例え、普通のカップルより会える時間が少なかろうと真田に邪魔されようと、こうして精市が 私のことをちゃんと思ってくれてるんだってことが分かるだけで幸せ。自惚れでも何でも良いし惚気って 言われても良い!私幸せだものー。




「それに今日は真田が早く行けって言ってたんだ」
「え!?真田が!?」
「うん、俺も少しビックリした」




真田は精市に「も文句を言いつつも、我慢してるのだろうからな。今日は俺が戸締りをしておくから 早く行ってやれ」と言ったらしい。アンビリーバボー!何それ!?ツンデレ!?誰にだよ!っていう下らない 考えは置いておいて。本当に真田がそんな事を言ったの!?どういう心境の変化!?




「ふふ・・・何だかんだ言って真田ものこと認めてるんだと思うよ」
「え・・・そうかなぁ?」
「そうだよ。俺もみたいな彼女を持って鼻が高いよ」
「え!?本当!?」
「うん(単純なところが可愛いんだよなぁ)」
「やったー!真田に勝ったー!」
「勝ったって・・・」
「じゃあ、これからは一緒に帰れることも増えるかな!?」
「それは・・・厳しいかもしれないけど」
「ええー!?」
「でも大丈夫」
「?」
「俺が一番好きなのはだから」






***********************************






「真田ぁー!」
「何だ、。もう風邪は治ったのか?まぁ何とかは風邪を引かないというしな」
「何ですって!?」
「むしろ風邪のほうがお前から逃げたのだろう」
「相変わらず失礼なことを言うわね!」
「で、わざわざ俺のクラスに来てまで何の用だ。精市なら来てないぞ」
「今日は真田に用があって来たのよ!」
「何だ?」
「私・・・あんたをライバルと認めてやっても良いわよ!」









ライバルは真田!
(・・・何故俺がお前に認められなくちゃならん) (呆れたような顔するな!せっかく認めてあげてるんだから!)









(あの2人、何だかんだで仲良いよな)
(まぁ楽しそうには見えるのう)
(・・・あれ以上仲良くなったら真田に鉄拳でもくらわせようかな)
((いつからいたんだ、幸村!))