薄雪に浮かぶように眠っているこの体躯の持ち主にとって、1Kのせまい部屋に置かれているちいさいシングルベッドは窮屈に違いない。ひとりでさえ広いとは思わないけど、ふたりで寝ると理由も無く距離を縮めることが出来るから、このベッドでいっしょに寝るのが好きというのはわたしだけの秘密。

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 2時間ほど前に蘭ちゃんから「今日そっち行く」と連絡が来たけど、もうすでに夜は深くなりつつあり何時になるか分からないから先にお風呂に入ることにした。トリートメントオイルをつけて髪をドライヤーで乾かしたあと、自然と口角が上がってしまったのは良い香りのせいにしておこう。ふわりと花の香りを纏いながら部屋の扉を開けると、いつの間にか来ていた蘭ちゃんがわたしのちいさなベッドの上ですやすやと寝ていて少しだけ驚いた。わたしが蘭ちゃんの広い部屋に行くのは遠慮の感情が先行して躊躇ってしまうせいか、蘭ちゃんがわたしの部屋に来てくれることの方が多く、いつからか合鍵を渡してる。だから蘭ちゃんがいること自体に驚くことは無かったけど、物騒さなんて一切感じさせないあどけないような寝顔に目を奪われてしまった。ふたりでお昼寝をする時も、ふたりで朝を迎えるときも、今まで何度だって寝顔を見る機会はあったけど、こうして改めて見るとその顔貌の完成度の高さに羨望の目を向けてしまう。ベッドの端に腰掛けて陶器のように白い頬を撫でると、何とも形容し難い感情が生まれてこころの中があったかくなった。結ばれていない長い髪は、頑張って手入れをしているわたしの髪なんかよりずっと惹かれるものがある。そんなことをぼんやり思っていると、突然首裏に手が回され力強く引き寄せられたので寝ている蘭ちゃんに思いっきり体重を預けてしまった。くちびるとくちびるが触れ合う寸前の距離で止められ、瞼が持ち上がったふたつの薄い紫の虹彩がわたしをまっすぐに見つめる。

「起きてたの?」
「オマエ来ねェと寝れねェもん」

 静かな部屋にかわいらしいリップ音が響くようなくちづけをされたので、なんだか恥ずかしくなってそのまま重なり落ちるように抱き着いた。「重い?」と聞けば「全然」と言ってもらえたので、ぎゅっとくっつくと蘭ちゃんの骨ばった手がわたしの頭をやさしく撫でる。このまま蘭ちゃんをベッド代わりにして眠ってしまいそうになるけど、いつの間にかキャミソールの隙間から侵入していたもう片方の手が、くびれのラインや背中を滑るように何度も撫でてくるから、くすぐったくて静止の合図を送ろうと蘭ちゃんの顔を見た。瞬間、情欲を孕んだ目につかまって、数秒見つめあってしまえばその感情がわたしにも伝染してしまったかのように何も言えなくなってしまう。後頭部を引き寄せる手が、今度は止まらずに深いくちづけを誘う。下唇だけをやわらかく食まれて、そうやって薄く開かれたくちびるの隙間に躊躇なく舌が挿入されると、だんだんと身体の色々なところが熱くなっていった。明日は早いから出来るだけ今日はゆっくり寝たいという思いと、このまま恍惚とした時間を過ごしたいというふたつの思考が、まだ理性が残っている脳内でめまぐるしく交錯する。

「蘭ちゃんねむいんでしょ?今日はもういっしょに寝よ」
「勃ったから無理」
 
 くるりと視界が反転して、そこまで厚みのないベッドから軋むようなスプリング音がする。わたしの視界に映るのは蘭ちゃんと天井だけになった。待って、という言葉を紡ごうとした瞬間に再びねじ込まれた舌が、中のちいさな世界を溶かすように這ってくる。意思に反して順応してしまう自分の舌が憎らしいけど、溶け合うような温度とくちゅりとした水音に抵抗の意思はあっという間にかき消されてしまった。舌先で上顎を舐められると、それだけで痺れるような感覚を覚える。朦朧としてしまうようなくちづけと、時折離されては啄まれるようなかわいらしいくちづけの対比が、明日の朝のことを思考から追い払うように消していく。

「ぁっ」

 お風呂上りだったこともあって、いつもふたつの胸を守っているレースやカップたちが一切無いことを忘れていた。キャミソールの上から包まれるように触れられた胸がいつもより敏感になっていて、蘭ちゃんはきっとそれを分かってわざと執拗に触れてくる。綿の生地の上からでも分かるくらい主張している先端を何度も親指で擦るように刺激を与えてくるので、声が出そうになって反射的に手の甲でくちびるを塞ぐように抑えて我慢してしまうのは、多分もう癖みたいなもの。

「我慢すんなっていつも言ってんだろー?」
「だ、って、」

 くちびるを抑えていた手を奪われて、そのまま指先にちゅっと音を立てるやさしいくちづけされたかと思えば、残酷にもシーツに縫いつけるように頭上に押さえつけられてしまった。キャミソールを胸の上まで捲り上げられて露わになってしまったわたしのふたつの膨らみを、何もせずまるで視姦してくるようにただ見つめてくる。心臓を貫いてくるような視線に堪えきれず、自由に動くもう片方の手で隠そうとすると、その手も簡単に奪われて頭上でひとまとめにされてしまった。辱しめを受けているような感情がじわじわと生まれて、せめてもの抵抗で身体を横向きにしようとしたけど当然蘭ちゃんが上に乗っかっているので無駄な抵抗に終わった。「そ、そんなに見ないで」と訴えてはみるものの「んー」と生返事しか返ってこず、相変わらずその表情は愉悦に浸っているように見える。直に先端を触れられると身体がピクりと跳ねてしまい、出したくもない声が自分自身を余計辱めているような気がした。楽しむように弾いたり、周りを指で触れる程度に撫でたりと、抑揚をつけるような動きに声にならない声が喉で渋滞する。耳の輪郭を辿るように舌が這ってくると、背中がぞくりと震えるような気がした。

「んっ…みみ、ゃっ、ぁ」
「かわいい声漏れっぱなしだけどなあ」

 耳の入り口付近に蘭ちゃんの舌がぐちゅりと侵入してきて、鼓膜と脳髄が痺れるような感覚が生まれる。卑猥な音しか聞こえないから自分がどのくらいの音量で声を漏らしているのかは分からないけど、与えられる舌の動きと共鳴し合うように声と吐息が溢れでていく。「はあー、マジかあいい」と耳元で囁かれるだけでも身体が熱くなってしまうくらい、今のわたしは敏感になってしまったようだ。胸の先端を1回舌先で舐められると背中がほんの少し沿ってしまい、その一瞬を合図に円を描くように舌で転がされたり吸われたりを何度も繰り返される。同時進行で蘭ちゃんの大きな手は、わたしのもう片方の胸の形をやんわりと変えたり先端を親指と人差し指の指先で苛め、やがて肌の上を滑るように臍を撫でショーツの中に一切の躊躇いもなく自然に入り込んできた。すでに両手が解放されていることに気づかないほど、思考回路は溶けている。

「いつもよりすげーんだけど」
「そ、いうっ…こと言わないで…ぇ」
「興奮してんの?」
「ち、ちがっ」

 剥ぎ取られるように脱がされたショートパンツとショーツはベッドの下に落とされた。ついでに中途半端に着ていたキャミソールも脱がされ、肌を覆うものがなくなった自分に対し一切着衣が乱れていない蘭ちゃんとの差に、自分が淫乱な女に思えてくる。反射的にとじていた膝を離され、すでに充分過ぎるほど潤っているわたしの秘部に蘭ちゃんの細長い指が這い始める。割れ目を何度もゆっくりなぞられる度に生まれてしまう熱い蜜を自覚すると、羞恥心のような感情が刺激されていく。愛液を潤滑油に1本、2本と容易く蘭ちゃんの指先を咥えこみ、膣内は完全にその指によって甘く支配された。もうわたしのすべてを知っているくせに、ゆるやかに出し入れされ続ける指に、はしたないと分かっていながらも少しのじれったさを感じてしまう。

「ら、んちゃん」
「んー、なあに?」

 まさか更に深い快楽を渇望しているなんて、恥ずかしくて言えるわけない。おまけに蘭ちゃんのこの「なあに」はすべてを理解しながら敢えて聞いてくるいつもの声音と全く一緒だ。決死の覚悟を決めて不埒なお願いをしようと言葉を紡ごうとすれば、その言葉はくちづけによって飲み込まれてしまうから本当にずるい。自分ではどうしようも出来ない感情に、ふたつの瞳が水分を孕んでいくように感じる。言葉を紡ぐことが出来ず蘭ちゃんの洋服をきゅっと掴むと、中を動く指の腹がある場所に触れて身体がちいさく跳ねてしまう。陰核と同時にやさしく触れられたかと思えば、次第に動きが早くなったりとその緩急の差で与えられる刺激に背骨が反っていき、一気に脱力した。快楽を与えられていた指が抜かれてひと息つく暇もなく、気づいたら蘭ちゃんの顔がわたしの秘部の近くに移動している。

「えっ…!待っ、それだめっ…ゃ」
コレ好きだもんなあ」
「やだやだ、ほんとっ…ぁっ、」

 内腿をさするように撫でられながら、蘭ちゃんの舌が割れ目に沿って這い始める。思いっきり舐められたかと思えば、舌先でくすぐるように触れられたり、止まらない愛液が響かせる音に眩暈がしてくる。キャンディーを舐めるみたいに舌で陰核を舐められると今まででいちばん甘ったるい声が漏れてしまい、やめてほしいと伸ばした指先はやさしく絡み取られてしまった。純情に繋がっている手の背景に、厭らしく乱れている自分がいるという事実が存在していると思うと頭の中が霞んでくる。快感と比例するように蘭ちゃんの指を強く握ると、余計に耳殻を刺激するような水音が立てられていく。脳が溶けるように麻痺していって下半身から全身に刺激が巡るように熱さが宿り「だめっ…あっ、ぁっ」と言葉を切りながら身体がガクリと痙攣するように震えた。わたしは何もしていない筈なのに荒い息で部屋が埋まる。

 息を整えている間に、蘭ちゃんが服を脱ぎ始めた。初めて蘭ちゃんの裸を見たとき、皮膚に施された装飾に衝撃だとか疑問だとか色々な感情が交錯したことを、今でも鮮明に覚えてる。多分たくさんの論理的思考が脳裏を駆け巡ったけど、本能がわたしの手を勝手に動かした。半分で区切られているようなその絵のようなものが何かは分からなかったけど、無意識に手を伸ばして撫でるように触れると、少し驚いた表情をした蘭ちゃんが「こわくねーの?」と何故か泣きそうになるくらいやさしい笑顔で聞いてきた。正直、見たこともなかったしそういった世界と関わりがあるわけでもなかったから何も思わなかったと言えば嘘になるけど、それよりどうしてか触れたくなる気持ちの方が優先された。蘭ちゃんは身体に刻まれたそれらを隠してるわけではなかったと思うけど、ありのままの姿をようやく見れたような気がして、少し嬉々とした感情が生まれてしまったのかもしれない。

「んっ、」

 細身なのにしっかりとした身体に見惚れていると、蘭ちゃんの硬いものがわたしの割れ目を撫でるように緩慢と動く。先端で陰核を刺激されると、これからそれがわたしの中に挿入されるという期待みたいなものが勝手に生まれて鼓動がより止まらなくなる。すっかり熟したわたしのそこは蘭ちゃんをつつみこむように甘受した。ゆっくりと奥深くまで貫くように挿入されるのと同時に蘭ちゃんの顔が近づいてくる。まばたきひとつせずに見つめてくるから、視線が重なり合って逸らせない。

「…っ、な、んでそんなに、見る、の…?」
「挿れたときのの顔、超すきだから」

 そんなこと言われたところでどう返せば良いか分からないから、代わりに蘭ちゃんの首に縋るように手を伸ばした。お互いのくちびるの輪郭なんて無視するように強く重ね合わせ、舌と舌で熱を共有して生まれる感情に愛しさが湧いてくる。

「ぁっ…」

 ゆっくりと浅く深く動かれていると蘭ちゃんの長い髪がわたしの肌に落ちてきて、ふと胸の先端をやさしく摩擦するように触れた。今までもたまに蘭ちゃんの髪が首だったりお腹だったり、肌の上を滑るように触れていた時があったけど、生じるくすぐったさにいつも我慢してる。でも、今回は敏感になっている部分に予想もせずに触れられてしまったため、無意識に声が漏れてしまったらしい。

「これで感じてんの?やぁらし」
「ち、ちが…くすぐったいの」

 降り注いできた蘭ちゃんの髪を耳にかけてあげると、ふっとやさしく微笑まれて、こんな行為をしているというのにこころの中には純粋めいたときめきが生まれてしまう。それが合図だったかのように蘭ちゃんの動きが速く律動的になり、本能的に瞼を強く閉じてしまう。

「っ、ぁっ、ぁ…っ!」

 響いているかと錯覚してしまうくらいひときわ高く短い声が漏れて、脳が真っ白になってどろどろに溶けてゆく。わたしが果てると一瞬動きが緩くなったけど止まることはなく、今度は膝裏をぐっと強く押されて蘭ちゃんのものがより奥深くに感じてくる。何かを探るような緩慢とした動きから狙いを定めて加速した動きに変わると、また身体が自分の意思とは一切関係なく痙攣する。その後も繰り返し何度も朦朧とした世界に漂うような感覚を味わい、何度目か分からない最果てを迎えたあと、蘭ちゃんのうつくしい顔が一瞬苦しそうに歪むのを見て、動きが緩くなっていくと同時にやさしく降るくちづけにそっと瞼を閉じた。

 ぐったりとシーツに身体を沈めているわたしとは対照的に、肘をつきながら汗ばんで額にくっついてしまったわたしの前髪をやさしく直してくれる。喧嘩をするような手とは思えないくらいそのやわらかで繊細な手つきに、あったかい感情が心臓にふわふわと咲いてゆく。

「今日もいっぱいイったなあ」
「…そういうこと言わないで」
「かぁわい」

 薄雪のようなシーツをふたりの熱で溶かすように、満ち溢れた眠りに落ちていく。せまいベッドの上で距離なんて存在しないくらい寄り添って、そうして生まれるこの感情をわたしは今日も大切にする。