太陽が目に刺さりそうなくらい明るい時間に、渋谷のスクランブル交差点で周りの人間にぶつからないように頑張って歩いているを横目で見ながら歩く。視線に気づいたのか「笑わないでよ」と睨まれながら言われたけど、その表情には恥じらいが混じってるせいもあって余計に面白い。「オマエ人混み歩くの下手くそだな」と言えば「あんまりこういうところ行かないし、いつもは竜胆が一緒に歩いてくれるもん」と言うので「はいはい」と言ってワザと歩くスピードを早めてみた。
「この色どうかな?」
「んー…微妙」
「じゃあこっちは?」
「そっちも良いけどこっちのがオマエに似合ってる」
いつものようにカーテンから漏れる光なんて無視して寝てたところに、鬱陶しいくらいしつこく鳴り響く電話。寝起きで誰かも確かめず「うっせーな…誰だよ」と出ればいきなり「蘭ちゃんお願い、買い物付き合って」なんて電話がから来た。当然「…ヤダ、面倒くせー。つーか竜胆と行けよ」と言えば、暫く無言を貫かれたので喧嘩でもしたのかと思いきや「竜胆に内緒でかわいくなりたい」なんて言うから、ナンダソレと思って電話を切ろうとしたけど、あまりにも必死で懇願してくるから仕方なく付き合うことにした。竜胆の彼女だからという理由で甘やかしてる自覚は少しある。
「蘭ちゃんやっぱセンス良いね」
「まぁな」
「でもわたしはこっちのが好きだからこっちにしよ…あ、ついでにコレ持ってて」
「…オレの無駄遣いにも程があんだろ」
適当に街をブラついて、が気になるお店に入って洋服やら靴やらを選んでる。前も竜胆がいない時たまたま買い物に付き合ったことがあって、確かあの時はの誕生日が近かったから(他人の誕生日なんていちいち覚えねぇけど竜胆がの誕生日前に少しソワソワしてた)「そういやもうすぐ誕生日だろ?買ってやろーか?」って聞いたら「ありがとう。でも蘭ちゃんが買ってくれたの着てたら竜胆が気にしちゃうかもしれないから」なんて言われて、あーハイハイごちそーさまなんて思ったことあったな。今日はやたらと服を買うので紙袋をいくつか持たされる。「オレを荷物持ちに使うヤツなんてオマエくらいだわ」と言えば「ありがと蘭ちゃん」なんて無邪気な顔で素直に言われるから、逆になんも言えなくなった。
「あ、ここのカフェでちょっと休憩しよ」
「いいけどオマエこんなに色々買って金残ってんの?」
「それくらい残ってるよ、むしろお礼に奢ります」
「じゃあオレあのいちばん高ぇ限定のやつな」
「あ!あれわたしがいつも飲みたいと思ってなかなか手出せてないやつなのに〜」
「あ〜荷物重〜」
「ぐっ…買ってくるから席に座って待ってて」
呪文みたいに長ぇ飲み物をが注文してる間に席に座って待っておく。つーかホントいつ着んだよって言うくらい大量に買い込んでんな。堅実タイプのにしてはやっぱ珍しい。あと、らしくない服も色々買ってたな…そんな色っぽい服オマエが着こなせんのかよっつーのとか。まあ多分竜胆絡みでなんかあったんだろうなと予想は出来るけど、そこまで興味も無いから特に聞く気はない。
「蘭ちゃんお待たせ、これどーぞ」
「それオマエ飲め」
「え?」
「気ぃ変わった、そっち寄越せ」
「…蘭ちゃんってそういうとこおにいちゃんだよね」
決して特別かわいいだとか美人だとかじゃないけど、つい目を奪われるこの笑顔と「ありがと」というお礼を聞いて少し前の、竜胆がに惚れた瞬間のことを思い出した。めちゃくちゃ鮮明に覚えてる。まァ一目惚れだな。たまたま竜胆といっしょに入ったカフェでがバイトしてて、今みたいな笑顔をが竜胆に向けた瞬間、すげー分かりやすいくらい竜胆の表情が変わったから印象的だった。「ナニ、まさか惚れた?」「…やべーかも」「あんなん営業スマイルだろ〜」なんてオレは言ったけど、愛想とかじゃなくてあれはの自然体だったっていうのが今ならよく分かる。それから竜胆が何回もカフェに通うようになって、一目惚れなんてフィクションだろとか思ってたけど、こうも身近で起きると認めざるを得ない。に惚れてからの竜胆はあまり表に出さねえようにしてるけど、どこか楽しそうだしつまんねーことで悩んだり喜んだりしてんのが面倒くせーなと思いつつも見ていてちょっと面白い。
「何?わたしの顔何かついてる?」
「…前から思ってたんだけど何で竜胆?」
「何でって?」
「だってオレの方がスタイル良いしカッコ良くね?」
「えーそうかなあ」
「…」
オレたち兄弟に近づく女たちは大体どっちでも良いっつーのが多い…気がする。オレがダメなら竜胆んとこ行く女もいるし、竜胆がダメならオレんとこに来る女も多い。前に竜胆と付き合いたてのを試そうとして「竜胆に内緒でオレとも付き合わね?」なんて言ったら、には汚いものを見るような目で「好きじゃないので無理です」なんて言われるわ、からその話を聞いた竜胆にはガチギレされて骨折られそうになるわで大変だったことを思い出した。珍しく…つーか初めて竜胆が本気なんだなと思ったしにならまあ竜胆を任せても良いか〜なんて思ったことがある…っていう話を前ににしたら「蘭ちゃん、お姑さんみたいだね」とか言われた。
「竜胆って弟なのにあんなにしっかりした感じなの、蘭ちゃんっていうフリーダムなお兄ちゃんがいるおかげだよね」
「…オマエ基本オレの扱い雑だよな」
「でもね、やっぱちょっと甘えたな感じになるところもあってね、それがまた良いよね」
「…ウン(オレの話は無視かよ。つーか何で同意求められてんのオレ?)」
なんかデジャブだなと思ったらちょっと前にも竜胆に勝手に惚気けられたような気がする。抗争前だっつーのに珍しく竜胆が上の空な感じ出してくるから何か心配事でもあんのかよって聞けば「…にカフェのバイトやめろって言いたいけど、楽しそうに仕事してっから言えねーんだよ」なんてめちゃくちゃどうでもいい話で、ってか今そんなこと考えてんじゃねーよと思って聞いたことを後悔した。一応「何でバイトやめさせてーの?」って聞いたら「オレみたいな男が他にもいたらどうすんだよ」なんて言うから「アイツそんなモテねーだろ(少なくとも竜胆に女が寄ってくる方が多いだろ)」と言えば「はあ?」とまたガチギレされた。でもそういやは愛嬌もあるし、バイトも接客が丁寧とかで人気があるっつーのは六本木界隈でも何回か聞いたことがある。竜胆の女になってからそんな話は一切聞かなくなったから、多分手出そうとしてた連中は一気に減ったんだろーけど、オレたちのことをなんも知らない人間は目当てで通ってる男もいたりするらしい。「の笑顔見たら誰だって惚れんだろ」って言うから面倒くさくなって「…そーだな」って返事したら「え、兄ちゃんもそう思ってんの?」って半ギレで言われて、あーこれ何言ってもダメなやつだなと思って余計面倒くさくなったから、いつの間にか始まってた喧嘩でとりあえず殴りかかってきたやつを返り討ちにすることでストレス発散した。
カフェを出て青山あたりをプラプラ歩いてると「蘭ちゃん目立つからこっちから行こ」とに言われて細めの路地に入った。「この辺の道なんてよく知ってんなあ」と言えば「前に竜胆が教えてくれたから」なんて、ふたりで歩いた時のことでも思い出してんのか、は嬉しそうに話す。竜胆のことを話すときのの目は結構気に入ってる。ヒトって目に感情現れんだなあってのがよく分かる。
「そういや…ずっと言おうと思ってたんだけど」
「何?」
「まつげ頬にくっついてる」
「え、どこ?!っていうかすぐ教えてよ!」
「逆」
全然違うところを触ってるから、何も考えずにの頬に手を伸ばして取ってやった。指の腹がの頬に初めて触れて、あまりのやわらかさに少しビックリして、つい両手での頬を包むともビックリしたのか目をくりくりとさせてこちらを見上げてくる。顔ちっさ。あの竜胆がよく壊さねぇように触れてんな。
「…オマエ、顔ムニってんなあ」
「なにそれ、太ってるってこと?」
「ほっぺやーらけー」
「ひょっと、ひゅままなひで」
思わず親指と人差し指で抓るようにつまんで遊んでると、後ろから誰か近づいてくる気配を感じた。いや、振り向かなくても誰か分かるわ。
「何やってんの?」
顔はまだ見えねぇけど、ちょっとした怒気と焦燥を含んだ竜胆の声。つーか竜胆に掴まれてる肩がめちゃくちゃ痛ぇ。オレがの頬を離すと、竜胆の手もオレから離れた。絶対ちょっと本気だろ。帰ったら痣になってそー。後ろから見たらちゅーでもしてるように見えたか?
「あれ、竜胆?」
「、平気?兄貴に変なことされなかった?」
オレの存在を無視するみたいに通り過ぎてに近づいたかと思いきや、今度はオレを牽制するみたいにの腰を引き寄せて頭を撫でてる。うわ…雰囲気甘ぇ〜。本人がそれを自覚してないところもまた引くわ。竜胆ってが絡むとマジで周り見えなくなるからなあ。
「竜胆ー、オマエもオレの扱い雑」
「兄貴が変な連絡寄越すからだろ」
「蘭ちゃんが?変な連絡って?」
「別にー、オレはただとデートしてくるって言っただけだけど?」
「え、デート?!蘭ちゃんそんなこと言ったの?」
携帯見たら竜胆からのメールと着信がすげぇことになってた。多分の携帯もすげぇことになってそうだな…竜胆ってこんな心配性だったっけ?が絡むと普段と全然違ぇわ。ずっといっしょに生きてきたけど、オレの知らない竜胆が日に日に出てきて面白いっちゃ面白いけど…いや、これ言ったらまたに「蘭ちゃんお姑さん〜」とか言われそうだからやめとこ。
「つーかよくオレたち見つけられたな」
「兄貴どこいても色々目立つからすぐ分かんだよ」
「り、竜胆。蘭ちゃん見てるしここ外だからそろそろ離して」
「…大体、もいつもだけど隙ありすぎなんだよ」
「え…ひどい、なんでそんなこと言うの?!」
「…どうした?ナニ怒ってんの?」
…お、なんか空気変わりそう。さっさと帰ろうかと思ったけど、面白そーだからもうちょっと見てくか。つーかがちょっと怒ってんの珍しいな。竜胆も初めてのそんなとこ見たのかビックリしてる。でも竜胆のことだから怒ったの顔もかわいいとか思ってそーだな。結局のこと離してねぇし。そういや竜胆からと喧嘩したとか聞いたことねぇな。まあ竜胆は少なくともにはキレたりしねぇだろうし、も喚くようなタイプじゃねぇし。平和、って感じのふたりだからこの展開はちょっと予想外。
「竜胆だっていつもかわいい女の子とかキレイな女の子に話しかけられてるのに!」
「え…」
「あ…言っちゃった」
あー…なんか思ったのと違う方向行きそう〜。もっと修羅場るとか思ったけどコレ多分違ぇやつだわ、見せつけられるやつだわ。ヤキモチ妬かれてたの分かって竜胆内心めちゃくちゃ喜んでそう。つーかが竜胆に内緒でかわいくなりたいって言ってたの、そういう背景かよ。まあそんなことだろうとは思ったけど下らね〜…とか言うと「蘭ちゃん、わたしたちが羨ましいんでしょ?早くほんとに好きな子できると良いね」なんてにマジの顔して言われそうだな…うぜ〜帰りてぇ〜。
「え…あー…え?もしかして妬いてる?」
「ご、ごめん。変なこと言っちゃった」
「いや、不安にさせてるオレも悪いんだよな」
うわ、アイツほんとにオレの弟?竜胆めちゃめちゃ良いオトコじゃん。あーでも多分コレ限定だな。オレ程じゃねぇけど興味ねえオンナには割とバッサリだし。っていうかナニコレ。何見せられてんのオレ。マジ帰れば良かった。
「おーい、オレ帰んぞ。竜胆、荷物」
「ああ、お疲れ兄貴」
「蘭ちゃん今日ありがとね」
「どーいたしまして、喧嘩すんなよ(オレが面倒くせーことになるから)」
「もしかして竜胆も蘭ちゃんとデートしてるかもってヤキモチ妬いてくれたの?」「…別にそういうんじゃねーよ」「…」「こっち見んなって」「じゃあ、ぎゅー」「…さっき外だから離れてとか言ってなかった?」「でも、もう蘭ちゃんいないしここあんま人いないから」「はいはい」
いや、まだ見えてっけど。
