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「はぁ」 いつも元気だけが取り柄のような彼女が、洗濯物を干しながら珍しく静かにひとつ溜息をついていた。 彼女、は普段から元気で真っ直ぐで一生懸命な女の子。桃っちと同じ俺たち帝光バスケ部のマネージャーであ り、普段から頑張っている様子が他人の俺らからでもよく分かるくらい一生懸命だ。青峰っちと幼なじみの桃っちは 別として、彼女はミーハーではないし何より帝光バスケ部を影ながら支えるという姿勢に、俺たち選手も少なからず 尊敬の部分を持っている。失敗も多いが、愛嬌もあってとにかく元気なポジティブっ子。そんな彼女が珍しく落ち込 んだ様子を見せるものだから、俺は気になって声をかけてみた。 「っち」 「あ・・・涼太くん。お疲れ様ー」 「どうかしたんスか?何かいつもより元気なく見えるっスけど」 「えーそう?」 「だって洗濯物も裏返しに干してるし」 「ぎゃ!本当だ・・・」 どうやら少しボーっとしているようである。元々のんびりしたところがある彼女ではあるが、今日は特に重症のよう に感じた。更に彼女との距離を狭めるように近づいてみて分かったが、頬も朱く染まっている。白い肌のせいか、そ の朱さは少しばかり際立っている。もしかして風邪でも引いているのだろうか、と思い彼女の額に手を当てるが、特 別熱くはなく平熱のようだった。俺に触れられてようやく我に返ったのか、彼女は驚きの声と共に俺から素早く距離 を取った。地味に傷つく。 「ちょっと!涼太くんファンに殺されちゃう・・・!」 「別に大丈夫っスよ」 「大丈夫じゃなーい!もう・・・!」 「でも本当どうしたんスか?悩み事?」 「・・・・・」 「あんま溜め込むとよくないっスよ」 「うん・・・」 「俺で良かったら話聞くっスけど」 「・・・本当?」 「ホントホント」 「あのね・・・」 風が白い洗濯物を靡かせ、彼女の顔を一瞬隠した。その風が止んだ瞬間、彼女の顔が再び見えた、俺は彼女の悩み事 の正体がそれはもう簡単に分かった。先程は頬だけに彩られていた朱が今は耳まで伝染しており、まるで恋愛小説にでも出て来そうな 恋する女の顔だった。無意識に可愛いなぁと微笑ましく思ったのは、恐らく彼女がまだ無垢で純粋で汚れを知らな いような女の子だからだろう。 「好きな人がいるの」 00:イケメンモデルに恋のお悩み相談 部活終了後、今日は中間考査が近いということで自主練の活動は制限された。試験がもっと近くなると、部活動自体 が禁止期間となるので憂鬱で仕方ない。 練習が終わり次第全員解散となった後、俺は彼女の話の続きを聞くため、他 の皆には分からないようにフェードアウトし、彼女と共にマジバへ行くことにした。皆にバレないようにしたのはい くつか理由がある。けれども彼女はそんな俺にお構いなしに相変わらずのんびりとしていた。俺にとっては、いや ・・・俺らにとっては一大事でもある彼女の先程の発言。とにかく話を聞かなければ何も始まらない。そう思い、 彼女が飲み物を一口啜ったところで早速本題を切り出した。 「で、好きな人って?」 「ぶはっ・・・!いきなり!?」 「だってあんなに悩んでたじゃないっスか」 「うん・・・手も届かないような人だし」 「誰?」 「・・・くん」 「え?」 恥ずかしいのだろうか。先程飲み物を吐き出しそうになった威勢はいつの間にか消滅し、彼女はすっかり恋する乙女 モードになっていた。下を向いてしまい、小さな声で喋る彼女は確かに可愛いらしい女の子だ。少しだけ加虐心をく すぐられ、自分の顔がニヤニヤするのを感じながら彼女に問い掛けていた。ハッキリ言って、彼女の口から出る男の 名前が誰かなんてことは分かりきってはいるのだが、それでも彼女が言葉を出すのを待った。 「赤司・・・くん」 「へえー」 「え、反応薄っ!」 「あ、ごめん。いや、でも今更っスよね?」 「今更って?」 「ああ、いや・・・」 俺が「今更」と言ったのにはちゃんとした理由がある。何故なら彼女が赤司っちを好きだなんてことくらい、とっ くの昔からバレバレだったからだ。バレバレ、と言っても赤司っちと距離の近い俺たちキセキの世代やレギュラーの人間くら いだろうけど。そしてもうひとつ分かりきっていることがある。 もしかしたら部員の中には彼女に行為を寄せている人間もいるだろう。だが、誰ひとり彼女に想いを告げるような ことはしない。いや、出来ないのだ。彼女の後ろには、見えない鉄壁のDFが君臨するかのように立ちはだかっている ・・・ように感じる。それを壊すのは俺たちキセキの世代と呼ばれる面々でさえ困難だろう。そう、彼女の後ろに 神のように憑いているのは紛れもなく俺たち帝光バスケ部のキャプテン、赤司征十郎なのだ。つまり、彼女の「好き な人」ということである。彼はだいぶ前から彼女に好意を寄せており、それもまた誰の目から見ても明らかだった。恐らく気づ いていないのは彼女本人くらいじゃないだろうか。今更赤司っちのことが好きだなんて言うのだから、自分 に注がれている赤司っちの熱い視線になんて全く気づいていないのだろう。そんなところも彼女らしいと言えばらし い。本人に告白をしたわけではなく、俺に相談しているだけなのに、そんなに顔を真っ赤にさせている様子を見ると 何だか羨望に近い感情が沸き上がる。 「でも赤司くんってほら・・・完璧な人じゃない?」 「まぁ・・・そっスね」 「だから私なんかがって思うんだけど、もう何か胸がいっぱいになっちゃって」 「それでようやく自覚したってワケっスね・・・」 「え?」 「何でもないっス」 一見すると何もかも解決しているかのように思える。赤司っちも彼女が好き、彼女も赤司っちが好き。両想いで円 満解決。もしかしたら彼女を恋人にすることによって、赤司っちがこれで少しは丸くなって、練習とかも楽になるか もしれない。実は今日の解散時にコソコソとしていた一番の理由は、赤司っちに彼女と寄り道するということをバレ ないようにするためである。もちろんバレたら俺が殺されるからだ。それ程までに赤司っちは彼女に良い意味で執着 していると思う。 「そういうの良いっスね。で、どこが好きなんスか?」 「えー・・・うーんと厳しいけど優しいとこかな?」 「優しい・・・」 そりゃあっちだけにっスよ!というツッコミは心の中で静かに掻き消した。赤司っちが優しいだなんて部員 の誰ひとり言わない。絶対言わない。そもそも赤司っちが彼女のことを「」と、他の女の子とは区別するかの ように名前で呼んでいる時点で気付かないのだろうか。本人たちの前ではとても言えないが、そういう計算された 優しさを見せられている時点で何も気づかないのだろうか。これは・・・緑間っちと並ぶくらいの鈍感だろうなと 何となく思った。緑間っちはこういう恋愛方面に疎いただの猿だけど、女の子の、彼女の鈍感は少し微笑ましく見 える。 「でね、何度も諦めようかと思ったんだけどやっぱり頑張ろうかなって思って」 「っち、その意気っスよ」 「え?」 「いや、そういうポジティブなとこ良いとこだと思うっスよ」 「ありがと!私、赤司くんに釣り合うような女の子になれるよう頑張る・・・!」 ここで「実は赤司っちもっちのこと好きなんスよ」と教えてあげることは簡単だった。でも、何故かそれは 躊躇われて。彼女が頑張ると言っているのだから、そんな余計なことを言ったら水を差してしまうような気がした 。純粋に彼女を応援したい、頑張ってほしいと思ったのだ。何より自分には無い、自分には恐らく抱けないであろ うこの純粋な恋に、たまらなく憧れたのだ。俺は思わずっちの手を掴み、まるで親にも似た想いで、この子の「恋」が彼女自身の努力で「恋愛」になるように協力してあげたいと素直に思った。 「っち・・・!」 「わっ!な、何?」 「俺、応援するから!」 「え??」 「っちが赤司っちを振り向かせられるよう協力するっス」 「え、本当?それは心強いなぁ」 こうして俺の、俺達のミッションは静かに始まるのだ。 |