※梵天軸のお話となります
こちらのお話の続きです(読まなくても多分大丈夫だとは思います)



 透明の大きなガラス窓には、ダイヤモンドが散りばめられたみたいな夜が広がっている。ラグジュアリーホテルのスイートしか存在しない最上階は、別世界のように落ち着いていて優雅だ。エレベーターを降りると足早に部屋へと連れて行かれる。蘭ちゃんが扉を開けてくれたので中に入ると、全景はまだ見えないと言うのに一歩足を踏み入れただけで広々とした空間と上品で落ち着く香りに、高揚感のようなものが生まれた。感嘆の声を上げながら足を進めようとすると、手首を掴まれて半ば強引に引き寄せられる。背中にドアの冷たさを感じながらも、重ねられたくちびるには熱がじんわりと籠るのでプラマイゼロだ。

「責任取るって言ったろ?」
「せ、せめてベッド行こ」
「今日のがかわいすぎてもう無理」

 ハイヒールの裏に合わせていつもより少し大胆に塗りつぶしたルージュが、伝染するみたいに蘭ちゃんのくちびるに移っていた。何度も食べられるみたいなくちづけをされて、薄く開いてしまったくちびるの隙間に容赦なく熱量で溢れた舌が挿入される。腰に巻きついた手はくびれの輪郭を確かめるように動き、反対の五指はわたしのヒップラインから太ももを羽で撫でるみたいに丁寧に触れる。くすぐったくて、解放されたくちびるから小さな声が漏れてしまうと、今度は生温かい舌が耳の形をなぞるように緩やかに這う。声を我慢しながら身を捩らせていると、ドレスの背中のジッパーがゆっくりと下ろされていく。カウントダウンが始まるような感覚に、心臓が早鐘を打ち始めた。脱がされたドレスは、骨盤あたりで中途半端に止められてしまう。

「あー…やば、エロ、かわいい」
「そ、そういうこと言わないで」
「唇も下着も爪も赤なんて今日はずいぶん挑発的じゃん」

 ブラジャーのカップの曲線に沿うように、肌の上にやわらかい舌がゆっくりと這う。つい身体をピクリと反応してしまうと、片手で器用にホックが外された。浮いたブラジャーの隙間から滑りこんだ大きな手が、わたしの胸の形を何度も変える。故意的になのかは分からないけど、時折先端に触れられると吐息が漏れそうになって、くちびるを手の甲で抑えてしまう。

「ぁっ…!」

 キャンディーでも舐めるみたいに先端を舌で転がされると、今まで我慢していた声が弾けるように漏れてしまった。それが合図だったかのように甘噛みされたり吸われたりと、戯れが止まらない。快楽で滲みかけた視界が、蘭ちゃんの双眸と重なった。甘ったるい熱を帯びているそのふたつの目が注がれると、時間が止まったように感じてしまう。再びくちびるが重なり、舌と舌で温度を共有しながらすっかり主張してしまっている胸の先端をキュっと摘ままれて、脚の間に差し込まれた蘭ちゃんの長い脚はドレスやショーツを越えて陰核を刺激するようにぐりぐりと押し付けてくる。でもきっともう、蘭ちゃんの脚で支えられていないと、わたしは立っていられないかもしれない。

「わっ…」

 思考がドロドロに溶かされていく中、急に後ろを向かされたので勢い余ってドアに手をついてしまった。冷たいドアがこの火照った体にちょうど良い。けど、間髪入れずに下から上へ背骨の質感を確かめるように舐められるから、くすぐったくて思わず背中が反ってしまう。その隙を蘭ちゃんが見逃す筈もなく、触れやすくなったであろう突き出してしまった胸が再び大きな手でやんわりと後ろから包み込まれた。そのまま蘭ちゃんの熱い舌は頸動脈をなぞり、耳の裏へと到達する。その間にドレスが軽く下に引っ張られ、気づいたら完全に脱がされていた。

「あ…、ドレス皺になっちゃう」
「新しいの買ってやるから」

 子どもをあやすみたいに言われると、蘭ちゃんの骨ばった指がショーツのステッチ部分をゆっくりと撫で始める。横から侵入するように長い指が差し込まれると、ショーツの色が変わるほどぐっしょりと濡れてしまった事実を改めて突き付けられたようで恥ずかしい。そんなわたしに「後ろからされて興奮してんの?」なんて意地悪く言ってくるから、わたしの身体はオーバーヒートしそうになる。マリオネットみたいに身体が操られて、ショーツもあっという間に取られてしまった。わたしとは正反対で、蘭ちゃんは相変わらず高級そうなスーツを身に着けている。その対比から自分がとても卑俗に思えてしまってどこかに隠れたくなる衝動に駆られるけど、後ろから隙間なく抱きしめられているので、当然その願望は甘く破壊された。

「蘭ちゃん…当たってる…」
「当ててんの」

 耳元で囁くように落とされる艶っぽい声色は、思考を朦朧とさせてくる。指の腹で小陰唇をやさしく何度も撫でられると、愛液が生まれてくるのを自分でも嫌というくらい感じてしまった。溢れ出てきた愛液を絡めとられて、円を描くようにやさしく陰核が刺激されると、子宮が疼くような甘い快楽が全身を這う。すっかり熟してしまったわたしの入り口は、蘭ちゃんの指を躊躇いなく飲み込んだ。1本、2本と増やされゆっくりと往復する動きが繰り返される。その動きに合わせるように声が漏れてしまう。けれど、絶頂ギリギリ寸前のところをコントロールされてるようで、形容し難い感情が脳を埋め尽くす。

「ゃ…蘭、ちゃ…」
「んー、なぁに?」
「っ…もぅ…」

 膣内をゆっくりと動く指たちとは別の指で、陰核をやさしく触れられる。もう片方の手は胸の膨らみを堪能しつつ器用に先端を弄んでいた。規則的に動いていたその指たちの動きが少しだけ強く速く変わり、耳に舌がねじ込まれると、あっという間に視界が霞み、意志とは関係無しに身体の力が抜ける。お腹に回された蘭ちゃんの腕がなかったら、間違いなく膝から崩れ落ちているに違いない。息を整えている途中で、後ろからベルトを外す金属音が聞こえた。素早く骨盤を掴まれて緩慢と陰茎がわたしの中に挿入される。半分くらいまで飲み込むと、それまでゆっくりだった挿入がまぼろしだったのかと思うくらい勢いよく、奥まで一気に貫かれた。

「っ…!」

 熱に溢れたわたしの世界を堪能するように腰を緩く揺らしながら、ジャケットを脱ぎ落とす音が微かに聞こえた。それと同時に来訪者を告げるドアのノック音が甲高く鳴り響く。ノンストップで加速し続けていた心臓が、驚きで止まりそうになった。誰、ということよりこの扉を1枚隔てた向こう側に人がいるという事実に混乱が止まらない。けど、腰の動きが止まる様子は一切無いし、むしろ徐々にスピードが上がっているような気がする。それに比例するようにノックの音も徐々に大きくなり、募っていく不安で支配されそうになってしまう。

「あー、うっせぇな。誰だよ」

 ドアスコープに近いわたしが覗いてみると、そこには綺麗なピンクが広がっていた。何かに苛ついているのか顔は恐ろしいほど歪んでいるけど、それでもうつくしい顔立ちは魚眼レンズでも明らかに分かるほど。長いまつ毛に囲まれた虹彩が、わたしを捕らえているんじゃないかと思うほど、真っ直ぐにこちらを覗いている。

「え…三途くんだ」
「…無視しろ、無視」
「でも…目合った」
「道具とか持ってなけりゃ向こうから見えねーよ」

 最早ノックなんてかわいらしい音じゃない。扉が壊れるんじゃないかと思うくらい叩くような音が部屋に轟く。今までの甘い時間がまぼろしだったのでは無いかと錯覚してしまうくらい憂虞しているわたしの様子に気づくと、蘭ちゃんはやさしくわたしの頭を撫で「」と耳元でとけるような甘さを孕む声で名前だけを囁く。ただそれだけの事なのに、どうしようもないくらいの愛しさを感じて再び恍惚とした世界に引き戻された。目尻に啄むようなくちびるが落とされると同時に、腰の動きが一気に加速する。

「ぁっ…ま、待ってっ…声出ちゃっ…聞こえっ、ちゃっ…」
「んな薄い扉じゃねーよ」
「ゃ、だぁっ…」
「それより三途に見られた気になって興奮してんの?」
「…っ、してっ…ないっ…」
「すっげ締めつけてくんじゃん」
「…ぁっ、はげ、し、いのっ…だめっ…!」
「オレがオマエのそんなかわいい声、他のヤツに聞かせるわけねーだろ?」

 激しい律動に、心臓も脳髄もすべて麻痺してしまいそうな感覚を覚える。肌と肌が衝突する卑猥な音と重なるように、色慾に満ちたわたしの喘ぐ声が混ざり、もう外の様子を気にしてる余裕なんて一切ない。ただただ本能のまま、ひたすら与えられる甘い感覚を受け止める。片脚の太腿を撫でられながら持ち上げられると、より深く奥まで届きそうな愛の象徴にまたもや視界が霞んできた。

「ぁっ…ッ…!」

 思考回路が完全にショートし、身体の力は抜けてしまうけど心臓は痺れるみたいに熱い。身体を反転させられ抱き寄せられると、ひさびさに蘭ちゃんの双眸に出会って、なぜか分からないけどひどく安心した。額に目元、鼻筋に頬にと顔中にふんわりとくちびるを落とされ、甘さの余韻に浸ってしまう。いつの間にか三途くんは立ち去っていたようだ。
 太腿を持ち上げられて撫でられると、未だ敏感になっている身体が少し反応してしまう。そのままその手は膝、脹脛と下に降りていき踵に指を差し込まれるとハイヒールがコトンと床に落ちる音が響いた。

「脱がすの忘れてた。足痛かったろ?」
「痛くない、それに…」
「それにー?」
「あ…な、なんでもない!」
「そんな事どうでも良いくらい気持ち良かった?」
「なんでもないって言ったのに!」

 もう片方の靴も自然な動作で脱がされると、一気に自分の身長が縮んだような感覚を抱いてしまう。蘭ちゃんとの距離も遠くなってしまったような気がして、これが普通だったのに少しさみしくなってしまった。そんなわたしの面倒くさい機微を繊細に感じ取ってくれたのか、両膝の裏に手が滑り込み背中が力強い腕で支えられる。身体がいきなり宙に浮いた感覚に驚いて、縋りつくように蘭ちゃんの首に腕を回した。再び近くなった距離に嬉々とした感情が隠せていなかったのか、ちゅっと短いくちづけがプレゼントされる。思わず胸がときめいて、より強くぎゅっと抱きついてしまった。そのまま抱っこされながら、皺ひとつないシーツの上にゆっくりと降ろされる。
 くちびるを彩っていた赤は濃厚な熱で落とされ、肌を覆っていた真っ赤なランジェリーも溶かされるように大きな手で剥ぎ取られた。プレゼントして貰ったハイヒールの真紅は、脱がされたドレスの上で無造作に転がっているけどそれでも美しい。唯一残っている爪の赤だけが、綿雪が積もったみたいなこの大きなキングサイズのベッドの上で映えている。

「続きはお望み通りベッドでな」

 アメジストみたいに美しいふたつのまなざしがあまりに魅力的過ぎて、大きな窓から見える煌びやか夜景を意味の無いものにしてしまう。ふたりだけの甘美で眩しい情愛の時間が、今宵もゆっくりと紡がれていくのだろう。