「ねーねー、大輝くん!」
「んだよ、うっせーな」


 部活が始まる少し前。部室で少しばかりはやく来た俺はひとり着替えを済ませ、座りながら靴紐を結んでいた。 そこへノックもせずに勢いよくドアが開いたと思ったら、一直線。猪のようにこちらに向かってくる女。その名 もの姿が目に入った。ドアを開けるとすぐに「あ、大輝くんいた!」と声を上げ、俺の隣に腰を下ろしてくる。 やたらとギラギラしている(ように感じる)目に、少しばかり身構えたくなった。


「あのね、お願いがあるの!」
「やだ」
「ええ!?何で!?」
「どうせロクでもねーことだろ」
「そんなことないよ!」
「黄瀬とかテツとか他のヤツに頼めよ」
「このお願いは大輝くんじゃないとダメなの!」
「んだよ・・・ったく、聞くだけ聞いてやっから」
「さっすがー!あのね・・・」


 こんな扱いをしているが、俺はこいつが嫌いではない。純粋にバスケが好きということも普段のマネージャー業 務から感じる事が出来るし、何より明るく真っ直ぐな性格である。そんなヤツは男だろうが女だろうが、見ていて 気持ちが良いし飽きない。そんなに小さいのに一体どこにそんなパワーがあるのだろうと思えるくらいだ。


「エロ本貸して!!」




02:おっぱい星人青峰くんと

  巨乳桃井さつきちゃんから

        胸について学ぶ







「・・・はぁ!?」
「ね、大輝くんにしか頼めないことでしょ?」
「・・・・・」
「お願いお願いお願いー!」
「・・・貸すわけねーだろ。つか何でお前がエロ本なんだよ?」
「うーんと・・・男の子はみんなエロが好きかと思って」
「はぁ?」


(頭良くなろう作成失敗しちゃった・・・)
(ま、まぁ違うところを磨いていけば良いと思うっスよ)
(違うところ・・・見た目とかスタイルとか?)
(うーん・・まぁ人によっては大事かもしんないっスけど)
(私、こんなちんちくりんだしなー)
(ちんちくりんって・・・)
(足は短いし胸は小さいし・・・そうだ!胸を大きくしよう!)
(・・・えええええ!?どういう流れでそうなるんスか!?)
(だって胸が大きければ良いって人、多いでしょ?)
(いや、そんなこと・・・)
(決めた!よし、こういう時はおっぱい星人の大輝くんに相談してみよう!)
(え、ちょ・・・っち!?)



 そんなこと顔を赤くして言うことじゃねーだろ。何、急に色気づいてんだ?大体エロとは遠く掛け離れてるくせ に何言ってやがる。つーか、こいつの頭の中のエロって何だ?


「イメトレするからエロ本貸して?」
「イメトレって何だよ」
「貸してくれなきゃさつきちゃんに言いつけちゃうから!」
「勝手にすりゃあ良いだろ」
「うわー、大輝くんがいじめる!」


 が泣き真似をしたところでタイミング悪く・・・いや、良くというべきだろうか。さつきと黄瀬がやってき た。さつきは普段と変わらねーが、黄瀬は何故か息を切らしており、妙に慌てている。練習前から騒がしい奴らだ なーと思ってると、今度は黄瀬が安堵の息を深く吐いた。


「良かった・・・まだ青峰っちの毒牙にかかってなくて・・・」
「え、何それ!?青峰くん、ちゃんに何かしたの!?」
「してねーよ」
「さつきちゃん・・・!大輝くんがいじめるの!助けてー」
「青峰くん・・・やっぱり何かしたんじゃないの?」
「え!?青峰っち・・・っちにナニしたんスか!?」
「してねーっつてんだろ!」
「あのね、大輝くんがエロ本貸してくれないの」
「「「・・・」」」


 そりゃあさつきと黄瀬の反応が普通だろ。何で同世代の女にエロ本貸せって言われて貸さなきゃなんねーんだ。 つか、そんなもんに貸して赤司に変に勘繰られても面倒くせーし。そもそも何で今更エロ本になんか興味持 ったんだ?イメトレも意味が分からねーが、興味を持ったきっかけが分からない。女なのに。


「・・・ちゃん、ついに頭おかしくなっちゃった?」
「ひど!さつきちゃん、地味にひどいよ」
「そもそも青峰っちのとこに行くのが間違ってるっスよ」
「え、何で?」
「桃っちって言う、お手本がいるじゃないっスか」
「・・・ああ!そうだね、盲点だった!」
「何、人を勝手に巻き込んで勝手に間違い扱いしてんだよ」
「でもね、大輝くんにも聞きたいことがあるから!」


 目をキラキラさせてる時のはタチが悪い、というのはこれまでの経験からよく分かっている。猪突猛進女な こいつは、ひとつのことに集中すると他が一切手につかなくなる。時にそれは良いことでもあるが、今回の場合は 嫌な予感しかしない。


「じゃあ、まずはさつきちゃんに相談しても良い?」
「ん?もちろん良いよ!」
「おっぱいってどうしたら大きくなるの!?」
「・・・・・・は!?」
「(っち・・・ダイレクトっスね)」


 あんまり物事に動じないと思っていた俺でさえ、今のの発言には若干驚かされた。んなこと、普通男がいる 前で言うか?しかも、黄瀬は知ってたみてーだし。おまけに「おっぱい」って何だよ。せめて「胸」って言えよ。 ・・・どっちでも一緒だけど。
 まぁこれでさっきからがしつこいくらいエロ本エロ本言ってるのがようやく分かったぜ。でもエロ本見てイメ トレしたからって大きくなるもんじゃねーだろうが。やっぱり猪突猛進女だな、こいつ。


ちゃん・・・どどどどどどどうしたの、急に!?」
「んー、おっぱい大きくなりたいなって思って」
「こんなとこで言う?青峰くんもきーちゃんもいるのに!」
「え、何かいけなかった?」
「・・・・・」
「それに大輝くんにも聞きたいことあったし」
「ちょ、ちょっと待って。どうして急にそんなこと言い出すの?」
「・・・男の子はみんな胸大きい方が好きかなーと思って」


 だから何で「おっぱい」とか言う時は躊躇いもなく言うくせに、そこで顔を赤くして恥ずかしがってんだよ。 何ごにょごにょ喋ってんだよ。で、黄瀬は何感慨深くうんうん頷いてるんだよ。相変わらずよく分からねー奴ら だな。まぁ一緒にいて飽きねーけど。


「・・・ちゃん、もしかして」
「赤司か。でもあいつそーいうタイプか?」
「え・・・ええええええ!?何で二人とも知ってるの!?」
「そりゃあちゃん見てれば分かるよ」
「お前、単純だからな」
「そ、そっか。うん、少しでも赤司くんを振り向かせたくて」
「え、でも赤司くんって・・・」
「桃っち!(っちにはまだ何も言わないであげて)」
「え?(何で?)」
「(せっかく頑張ろうとしてるんだから見守ってあげたいじゃないっスか)
「(そっか・・・それもそうだね)」


 さつきと黄瀬がボソボソ喋ってるが、俺には丸聞こえだった。そして単純ならしい理由にようやく全てが 納得いった。そして自分の想いが俺らに気づかれていないと思っていたところも、またらしい。さつきの言う通り、んなもん見てれば分かるくらい、は単純だ。そして赤司のためにおっぱいを大きくしたいというのもらしい。 赤司はそんなこと言わねーだろうが、こいつにも何か思うことがあったのだろう。まぁ赤司もこいつのことはか なり気に入ってるみてーだし今のままでも良いだろ、と思うが面白そうだからあえて何も言わないことにした。


「でもね、ちゃん。申し訳ないんだけど、その質問にはハッキリ答えることが出来ないかも」
「え」
「どうして大きくなるか分からないんだよね」
「それって勝手に大きくなったってこと!?」
「う〜ん・・・そうなるのかなぁ」
「ガーン」
っち、気を確かに・・・!」
「じ、じゃあ大輝くん!」
「あ?」
「何でおっぱいは大きい方が好きなの!?」


 こいつ・・・ぐいぐい来るな。恥じらいってものがねーのか。まぁ・・・そんだけ赤司のために一生懸命ってこ とか。俺にはそういう感情があんまねーから分からねぇけど、少しだけ羨ましいと思った。そんなに人を想えるこ とが出来るのも、そんなに想われてる赤司も。俺にとってのバスケと、こいつが赤司に抱く感情も、違うっちゃ違 うけど少しは似てるのかもしれねーな。


「おっぱいには夢がつまってんだよ。夢はデカいほど良いだろ?」
「うわ・・・青峰くん、バスケし過ぎて頭おかしくなっちゃった?」
「引くな!」
「・・・それじゃあ私には夢がつまってないってこと!?」
「あー・・・まぁその身体じゃそうかもな」
「げふっ!」
「青峰っち、それセクハラっスよ!」
「青峰くん、最低!」


 聞いてきたのはだ。俺は嘘をつくのが嫌いだから本音で言ってやったっつーのに、何で責められなきゃなん ねーんだよ。けど、だけは違った。ダメージは受けたみたいで、一瞬顔を俯むかせていたが、すぐに顔を上げ 、最初と同じキラキラ・・・いやギラギラした目になった。百面相みたいで面白えな。


「・・・分かった!私も夢をたくさん詰められるように頑張る!」
「おー、頑張れ頑張れ」
っち・・・!何て純粋なんスか!」
「・・・ていうかさ、とりあえずはパットとか入れておいても良いんじゃない?」
「「「え」」」


 さつきの的を絞った(?)提案にも黄瀬も目から鱗が落ちたとでも言うようにパチパチと瞬きを繰り返して いた。さつきが言うには、とりあえずパット・・・要は詰め物を利用して大きく見せておいて、その間に本物を 大きくするようにすれば良いんじゃなかいとか何とか。まぁ、そんなん普通のことだろうけどよ・・・


「そっか・・・それならすぐに大きくなれるね」
「馬鹿か」
「え!?」
「お前は飾らないで何事にも一生懸命取り組むのが唯一の取り柄だろーが」
「・・・・・」
「別に否定するわけじゃねーけど、お前らしくねーんじゃねえの?」
「青峰っちがまともなこと言ってる・・・!」
「何か人間ぽいこと言ってるね」
「お前らは俺を何だと思ってんだよ・・・」


 不思議そうな目でこっちを見る二人が鬱陶しい。別に正論を言ったつもりなんてない。ただ思うことを言っただ けだ。たまに羨ましく思うこいつの性格を、羨ましいままでいさせてもらいたかっただけかもしれねーが。


「あ、ありがとう、大輝くん・・・!私、目が覚めた!」
「つか、そんなんで赤司のあの眼を誤魔化せるとも思わねーしな」
「確かにそれもそうっスね!」
「私も応援するし協力するから一緒に頑張ろ!」
「み、みんな・・・!」
「まぁどうしても大きくしたかったら俺がしてやるよ」
「え、どうやって?」
「他人に揉まれると大きくなるんだよ」
「うわ、青峰くん最低!」
「え、そうなの!?」
「なーんて・・・」
「ちょ、ちょ、ちょ、青峰っち・・・!」


 笑い話に水を差すかのように焦った黄瀬の声。せっかく人が冗談を言ってやったっつーのに、何本気にしてやが る。まぁなら単純に信じて「じゃあ揉んで!」とか何の疑いもなく言ってきそうで怖ぇけど。そんなことしたら、ま すます面倒くさくなるからしねーけど、例えば自分の女の胸を自分で育てていくのも悪くねーな、と思った瞬間だった。しかし・ ・・


「ずいぶん楽しそうに話をしてるね」
「げ・・・!」
「いや、赤司っち、違うんスよ」
「何が違うんだい?」
「さ・・・さ、ちゃん。私たちは準備行こう?」
「え・・・うん」
「おい!さつき、!逃げんな、馬鹿!」
「・・・早くしないと変態青峰くんに胸揉まれちゃうからねー」
「なっ・・・さつき、てめー!」
「聞き捨てならないな。だいたいもうすぐ練習が始まるぞ」
「お、俺達も早く行くっス!」
「待て。部室で変なことをしようとしていた罰を与える」
「はぁ?何もしてねーし、しようとしてねーよ」
「部活動に支障が出る可能性がある。それなりに覚悟してもらおうか」
「会話になってねーし。つーか、あいつ揉むほどねーだろ」
「「・・・・・」」
「あ(やべっ)」
「ああああああ青峰っち・・・!何てこと言うんスか!」
「不愉快だな。校庭100周してから来い」


もう二度とこいつらの前でおっぱいについて語りたくねーと思った一日だった。




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