「ねね、敦くんにお願いがあるんだけど・・・」
「えー、やだ」
「え!?断るの早くない!?まだ何も言ってないのに・・・(前にもこんなことあったような・・・)」
「だって面倒くさそうなんだもん」
「そんなことないよ。それに敦くんにとっても良いことだと思うな!」




04:逆コナン紫原くんに

       毒味をしてもらう





 俺にとってちんは一番仲の良い女の子だ。バスケ部のマネージャーだから、やることはちゃんとやってて、それなりにしっ かりはしてるけど、ドジな部分もかなりあって人間くさいところが割と嫌いじゃない。それにいつも俺にアメとかチ ョコをくれるし、時には練習中一緒に食べたりもする。それを二人そろって赤ちんやミドチンに怒られるなんてこ ともしばしば。けど、それもまぁいっかと思えたりもする。ちんは俺と違ってバスケが好きだから、たまに熱 いことを言ってきてウザいと思うこともあるけど、好きか嫌いかで言ったら多分すごく好き。そんなちんが俺の袖を掴んで来たので何だろ?と思って視線を下の方へ向けると、やたらと眩しいくらいの笑顔を向けて 来るちんが目に入った。可愛いけど、何か違うと思った理由は何となく分かっているけど、その事に対してそんなに関心も なかったから特に気にならなかった。


「・・・何ー?」
「あのね、私最近お菓子作りとか料理にハマっておりまして」
「え・・・」
「え?」
ちんが?」
「うん」
「超不器用なちんが?」
「ひど!・・・ま、まぁ聞かなかったことにして。それで敦くんに試食をしてもらいたいの」
「えー・・・俺が?」
「うん。だって甘いの好きだしよく食べるし何と言っても忌憚のない意見をくれそうだし!」


 峰ちんからさっちんは料理がダメって聞いたことあるけど、ちんのダメさも実は結構有名だったりする。 ただ、さっちんと違うのはちんは自分が料理はダメだと自覚していること。それを分かってて料理にハマるなんて、無駄な努力にも 程がある。おまけに俺に毒味(*注:試食)させるなんて・・・。ただ、マズイご飯やお菓子をを食べるのはもちろん嫌だし、他人が やたらと頑張ってるのを見るのも嫌なくせに、ちんにお願いされるのは悪くない気がして適当に「良いよー」と言う自分もなかなかのチャレンジャーだ。


「ところでさ、何で急にそんなこと思ったわけ?」
「え・・・っと、それは」
「何、急に恥ずかしがってんの?」
「だ、だって・・・」
「あー・・・赤ちん?」
「え!?」


 ちんの百面相はいつ見ても飽きない。今日だって輝かしい笑顔から恥じらいの顔、そして驚きの顔。俺自 身、表情があまり変わらないとよく言われるせいか、逆にそのくるくると変わる表情は見ていて飽きないものであり、 俺に少しだけ羨望を抱かせた。
 ふと、ちんの背後から黄色い髪が視界に入る。間違いなく黄瀬ちんだ。こちらへ気づいた黄瀬ちんは、ちん が俺にお菓子をあげてるのだと思ったらしく「あ!俺もガム欲しいっス!」などと言って近寄って来た。


「え、涼太くん?ごめん、ガム持ってないや」
「あ、違うんスか」
「うん。・・・敦くんに料理のど・・・試食してもらおうと思って」
「「(今、絶対毒味って言おうとした!)」」
「お、お願いしてたんだけど・・・」
「え!?超不器用なっち料理!?」
「だって・・・やっぱり男の心は胃で掴めって言うし」
「・・・(間違ってないけど何かぶっ飛んでるんスよね)」」


 黄瀬ちんが思ってることは何となく俺にも分かった。そう、ちんはいつも元気で真っすぐなのだ。それはも う本当に”ちょとつもうしん”って言葉がピッタリなくらい、真っすぐ。もしかしたら、そんな裏のない何にでも 一生懸命なれるところが、俺の心をたまに乱そうとするのかもしれない。


「で、赤ちんの胃をわしづかみしたいってことー?」
「うえええええ!?ま、まぁ間違ってはないけど(言い方がこわい)」
「確かに料理とかって出来ないより出来た方が良いかもっスね」
「・・・ていうか・・・敦くん。何で赤司くんって・・・」
「えー、何となく。つか見てたら分かるしー」
「えええええ!は、恥ずかしっ」
「(そりゃあバレバレっスからね。まぁ紫っちが気づいてたのはちょっと意外っスけど)」


 ちんが赤ちんを好きってことに何となく気がついたのは実は結構前だったりする。というか俺は赤ちんと 一緒にいることが結構多いから余計に気づいたのかもしれない。だからと言って特に何とも思わなかったけど、 赤ちんの前だと照れてテンパったりするちんを見るのは飽きなくて楽しかった。


「まぁ俺はおいしいお菓子とかーご飯食べれれば何でも良いかもー」
「う、うん。明日のお昼から敦くんとこにお邪魔させて頂きます!」
「うん、頑張ってー」
「ちょ、ちょ!俺も良いっスか!?」
「え・・・良いけど涼太くんの分までは作れないよ?」
「良いっスよ!何かもうここまで来たら見守りたいんス!」
「うう・・・ありがと!私、頑張る!」


 黄瀬ちんとちんがお互い涙ぐみながら頑張ろうとか言っている様子を見て、何だか暑苦しくてへどが出そうだ った。そんな二人を冷めた目で見てると、ふとちんにグっとガッツポーズをされた。意味が分からないので自 分の首を傾けて「どういうこと?」という返答を送ったつもりだったが、ちんはうんうんと頷きながら去って 行った。スキップして去るちん。でも途中で転びそうになってそれをごまかすように結局普通に歩いて 去るちんの後ろ姿を見ながら、何となく明日が楽しみに思えてきた。


***********


<一日目>
「・・・何これ?」
「・・・何で真っ黒なんスか?」
「ちょ、ちょびーっと焦げちゃったかも!あ、でもね味は大丈夫だと思う!」
「・・・超マズイし」


<二日目>
「今日はねー、クッキーだよ!」
「見た目はまともそうっスね」
「失礼な!私ってもしかしたらお菓子作りに向いてるのかも」
「・・・っちって本当ある意味ポジティブっスよね」
「てゆーか・・・固くて食えないし」
「俺にも少し・・・固っ!セメントっスか!」


<三日目>
「今日はお弁当です!」
「ご飯詰めすぎ…」
「あ、敦くんいっぱい食べるかなーって思って!」
「おかずはー?」
「あ、梅干しとうまい棒あるよ!」
「手抜きすぎっスよ!」
「まぁこれはこれで良いかもー」
「(アホ二人だ・・・)」


<一週間後>
「今日はケーキを作ってみたよ!」
「たった一週間で結構上達したっスね」
「うん、美味しくはないけど味は普通ー」
「ありがと!でも美味しいって言ってもらえるまで頑張るって決めたの」


 実験台にされてから約一週間。少しは上達したとは言え、ちんは相変わらず懲りずにそんなに美味しくないお弁当やお菓子を作り続けては毎日持ってくる。 ちんの持ってくるものは極端すぎることが多い。味が全くしなかったり、しょっぱかったり辛かったり。 多分だけど「料理」という分野に関して才能が全くないと思う。本人も絶対自分で気づいてるはずだ。それでも 頑張るという感覚が俺には理解出来ない。


「何でそんなに頑張んの?」
「・・・敦くん、私のことそんな無駄な努力して馬鹿じゃないのって思ってるでしょ?」
「うん」
「やっぱりねー。でもね、何か頑張りたくなるんだよね」
「全然分かんない・・・」
「分かんなくても良いと思う。だってそう思っててもこうして私に付き合ってくれてるのが嬉しいから!」


 こういうとこだ。こういうところが本当に・・・たまに羨ましくなる。


<二週間後>
「今日で敦くんの合格貰えそうな気がする!」
「自信作ってことー?」
「うん!」
「ふーん」
「今日は涼太くんいないんだね」
「何か呼び出しされたとか言ってた」
「流石・・・。あ!そういや私も次の授業の準備しなきゃいけなかったんだ!」
「へー、頑張ってね」
「ありがと!お弁当箱は部活の時でお願い!じゃね」


 正直最初は本当に期待通りなくらい変なものを作ってきて、俺毎日こんなんだったらいつか胃を壊すんじゃないかと思ったくらい。けど、ちんや黄瀬ちん曰く「恋のぱわー」とかいうやつで、 ちんは最初の頃に比べれば格段にマシになっていた。それでもマシくらいだけど、あの料理が超下手なちんがここまでになるのが何よりすごい。俺はあんまり頑張ったりするの好きじゃないし、無駄なのに頑張ってる他人 もすげーイラっとするけど、ちょっぴりすごいなーって素直に思えた。本人には絶対言わないけど。

 でも相変わらずご飯のつめ具合はモリモリなところは変わらない。それに新たにおかずのレパートリーとして追加さ れた卵焼きも、とにかくしょっぱくて仕方ない気がする。でも、ちんは自身満々だし、俺が甘いの好きだからしょっぱいって思うだけなのかもしれない。どっちかは分からないけど、今までちんから出されたお弁当やお菓子を、何だかんだ言いながら 必ず全部食べてあげてる俺は偉いと思う。別に恋愛感情とかがあってではなく、単純に「ちんだから」というのは大きい要因だったりするかもしれない。


「紫原、ちょっと良いか」
「あ、赤ちん珍しいねー」
「今日の部活のことで少し」


 珍しく赤ちんが俺のところに来た。ここにいつものようにちんがいたら、きっとわたわた動揺したり照れたり して面白かっただろうになーって何となく思った。
 俺はそういう好きとかいうのよく分かんないっていうか、 好きなら好きだし嫌いなら嫌いって言っちゃうと思うから、ちんの感覚は全然分かんないけど、赤ちんを見ると余計に分かんなくなった。 赤ちんだって琉菜ちんのこと好きなのに。多分。赤ちんは今日の練習の話をしてるけど、俺はぼんやりと そんなどうでも良いことを考えながら適当に相槌をうっていた。


「じゃあそういうことだから」
「うん」
「・・・・・」
「何ー?」
「紫原は相変わらずよく食べるな」
「てか、流石の俺でもこれはご飯詰めすぎだと思ってるけどねー」
「確かにすごいな」
「赤ちんもうお昼食べたのー?」
「いや、今日はまだだが」
「じゃあこの卵焼き食べてってよ」
「え?」
「俺ちょっと腹いっぱいになってきたからさー」


 もしかしたら俺の舌が甘さによって既に侵されているのかもしれない、と思い今日は黄瀬ちんもいないし、赤ちん にちんが自信作だという卵焼きを試してほしくなった。赤ちんは最初何か考え込むかのように黙ったけど、し ばらくして「じゃあ・・・」と卵焼きを一切れ食べた。


「・・・なるほど」


 赤ちんは結構グルメなんじゃないかと俺は思ってる。家とかでもいつも美味しいものを食べてそうなイメージを 勝手に持っていた。でも、「・・・なるほど」とよく分からない一言を言ってからは何も言わない。けどちゃんとよく 噛んで食べてる。ベラベラ喋るタイプじゃないけど、赤ちんも俺と同じでマズイならマズイって言いそうなのに・・・。 それとも俺の親が作ったとか思って気遣ってるとか?うーん、考えんの面倒だからやめよー。


「じゃあ、部活で」
「うん」
「あ、」
「何ー?」
「美味しかったよ」
「?」
「卵焼き」
「・・・!?」


 またもやさらりと一言を残して赤ちんは去って行った。しかも美味しいと言って。そんな頻繁に驚いたりする性格 じゃないと自分で自分をそう何となく思ってるけど、この赤ちんの一言には結構驚いた。え、じゃあ俺の味覚が可笑しいってこと?そんなわ けねーし、と思ってまだ残ってる卵焼きをじっと見つめていると、入れ替わるように今度は黄瀬ちんが来た。毎回の ことだけど黄瀬ちんが来る度に周りがうるさくなるからちょっとヤダ。


「あれ、今日っちはいないんスね」
「うん。授業の準備だってー」
「へー・・・あ、卵焼きもぱっと見かなり上達してるっスね」
「ねぇ黄瀬ちん、この卵焼き食べてみて」
「え・・・じゃあ、いただきます」
「・・・どう?」
「うわっ!しょっぱ!これ塩入れすぎっスよ!」
「・・・やっぱりねー」


 俺が普通だったんだ。黄瀬ちんなんて最初に一回噛んだだけで「飲み物下さいっス」とか言ってるし。それを美味しいって 言うなんて、まさか赤ちんも味覚音痴?いや、でも赤ちんに限ってそれは絶対ないと思う。でも、そうじゃな きゃあの卵焼き一切れを飲み物なしで食べきれるなんて、そんなこと出来るわけない。・・・あ。


「・・・意外だし」
「え、何か言ったっスか?」


でも、何となくちんにはもっともっと頑張って欲しいと思ったから教えてなんてあげない。




Back * TOP * NEXT