「だからお願い!教えて!」
「教えてと言われましても・・・」
「あれ、こんなとこで二人して何してるんスか?」
「黄瀬くん。ちょうど良かった。黄瀬くんからも何とか言って下さい」
「え、何を?」
「影を薄くする方法教えてってお願いしてたの!」




05:とりあえず薄い黒子くんから

     影を薄くする方法を学ぶ





 部活が始まる少し前。着替えを終えて体育館に向かっていたところをさんに呼び止められた。木の影から隠 れるように希望に満ちた笑顔で僕を呼び止めていたが、ハッキリ言ってバレバレだった。おまけにそんな彼女が僕 に向かって「お願いテツヤくん!影を薄くする方法教えて!」などと頭を下げて懇願してきたから驚きである。


「え、ちょ今度は影薄くするのに挑戦スか!?」
「・・・というか影を薄くしてどうしたいんですか?」
「赤司くんのことを探るの!」
「「・・・・・」」
「あ、ちょ!変な意味じゃないよ」
「変・・・つーか・・・いや変スよ」
「そうじゃなくてー、好きな人のことって純粋に知りたいじゃん」
「それで赤司くんに気づかれないように探りたいから影を薄くしたいと?」
「ピンポーン!」


 これが冗談ではなくいつも本気だから彼女はすごい。
 いつも全力でマネージャー業に取り組んでいて、僕達が楽しく快適にバスケの練習が出来るように日々努 めてくれている。もちろん全力過ぎて空回りしている時も多々あるように感じるが、それでもそんな様子が微笑ま しく思えるほどだ。それに、彼女は僕がまだ三軍だった時からちゃんと僕の存在に気づいて(たまに驚かれはする が)一軍や他の人達と同じように接してくれていた。そんな彼女には少なからず感謝の気持ちもある。


「まぁ僕の場合はただでさえ影が薄いですけど・・・」
「でもミスディレって難しいんじゃないっスか〜?しかも日常でとか」
「難しければ難しいほど燃える!お願いします、私を弟子にして下さい!」


 断る理由は特にないので受け入れることにした。それに方法はともかく、さんが赤司くんに近づきたいがた めにそんな無謀に見えるようなことでも頑張ると言うのだから、純粋に応援したくなったのだ。
 彼女は不思議な人である。その不思議な力で多くの人を魅了してしまうのだから。僕とは正反対の「光」の人だ からこそ、余計に惹かれる気もする。


「じゃあ明日のお昼にテツヤくんの教室に行くね」


 やる気に満ちている彼女を心配そうに見ている黄瀬くんに「ほら、体育館に行きましょう」と声を掛け、明日 どうやって彼女に教えようかと、頭がいっぱいになった。


************************


「あれ!涼太くんもいる!?」
「いやー、どうやって影薄くすんのかなぁと思って」
「実践あるのみです。この昼休み、赤司くんを尾行しましょう」
「ええ!?いきなり!?」
「黒子っち、スパルタっスね!」
「でも黄瀬くんはついて来ないで下さい」
「ええ!ひどっ!」
「気持ちは分かりますが、黄瀬くんがいたら一発でアウトです」
「確かに・・・涼太くんってただでさえ目立つもんね」
「まぁ否定はしないっスけど・・・」
「どうしても気になるようでしたら僕達よりだいぶ離れてついて来て下さい」


 何かワクワクするね!と言う彼女に微笑ましく感じつつも、正直赤司くんをこっそり尾行するなんて出来るのだ ろうかと思っている自分がいる。何しろ相手があの赤司くんだ。これが青峰くんや紫原くん、緑間くんだったら簡単な気も するが、あの赤司くんとなると難易度は格段に上がる。彼にだけは僕のミスディレクションも通用しない気がする し、何より彼女の存在に敏感な赤司くんだからこそ難しそうだ。・・・前にも一回バレていたことがあるだけに。 (*3話参照)


「じゃあ行きましょうか」
「はい、師匠!」


 赤司くんの教室まで行き、教室のドアに隠れながら中の様子を窺う。赤司くんの姿を見れただけで嬉しいのか、 彼女は少し頬を染めていた。赤司くんは学食派なのかお弁当派なのかそれとも購買派なのか。彼女はそんな些細な ことでさえも彼のことを知りたいようだ。確かにプライベートとを垣間見る隙がない赤司くんなだけに、僕も少しば かり気になった。


「あ、立った!学食に行くのかな?」
「僕達も行きましょう」


 ゆっくりと、気づかれないように後をつける。彼女は僕よりもだいぶ小さいので、僕の後ろに隠れるような感じ で歩みを進める。ミスディレクションでどうこうすると言うよりは、とにかく普通に、そして自然に、静かに。それくらいしか影を薄くする方法なんて思い当たらない。けれど、そんなこと でも彼女は真面目にノートに書き、ひとつひとつにお礼を言ってくれる。


「学食・・・混んでるんだよね」
「でも隠れるには絶好です」
「あ、真太郎くんだ」
「そのまま赤司くんの前の席に座りましたね。もう少し近づいてみましょう」


「今日のラッキーアイテムはエビのストラップなのだよ」
「そうか」



「うわー、そんなこと語られても困るのに・・・赤司くん可哀相」
さん、結構ひどいこと言ってますよ」
「ご、ごめん。そういえばみんなって結構一緒にお昼食べたりするんだっけ?」
「まぁそれぞれお弁当だったり購買だったりですから毎日ではないですけど、たまに」
「良いなー」
さんも赤司くんを誘って一緒にお昼食べてみたらどうですか?」
「それも良いけど、みんなで食べたりするの良いなーって思って」


 女子とはまた違う感じで良いなぁ、と彼女は言う。きっと彼女なら誰もが歓迎するだろうけど、それを本気で 実行しないあたりが彼女の気が利くところの一部分かもしれない。
 しばらくすると紫原くんも続いてやってきた。ひとりだけ違う量には今ではもう誰もが慣れている。緑間くんも 身長が高いが紫原くんはもっと大きい。おそらく無いとは思うが、背の高い彼の視野で僕達を見つけられたらと思い 、更に少しだけ離れることにした。


「あ、赤司くんだけ先に立った」
「どうやら学食をあとにするようですね。行きましょう」


 緑間くんと紫原くんという不思議な組み合わせは置いておき、赤司くんのあとを再びつける。どうやら教室へ向かってるみたいだが、その途中で他のクラスと思われる女子生徒に声を掛けられていた。しばらく言葉を交わしたあと、赤司くんは女の子の後ろを歩くようにして、教室ではなく外へ向かう。


「#○%▲¥※□・・・!?」
さん、静かに。(そして気を確かに)」


 何を言っているかは全然分からなかったが、動揺した事だけは明らかに伝わってきた。告白、と予想したのは僕だけで はなかったらしい。さんはオロオロしながら僕の袖を少し引っ張ってくる。でも、相変わらず何を言ってるのか 分からない。本当に赤司くんのことが好きなんだなぁと思える瞬間だ。


「あとつけますか?」
「うっ・・・ううん、ここで待つ」
「良いんですか?」
「偶然目撃しちゃったならともかく・・・わざわざ見に行ったりしたらあの女の子だって嫌だろうし」
「・・・そうですね」
「そ、それに赤司くんがOKしたらそれこそ・・・その場で気絶しちゃうかも」


 冗談なんだか本当なんだかの判断はつかないが、こういう動揺するであろう場面でもちゃんと理性を保てているのは意外 だった。彼女のことだから大きな声を出してテンパって慌てるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。これはあ くまで僕の予想ではあるが、彼女はおそらく心の片隅で覚悟していると思う。
 黄瀬くん程ではないが、キセキの彼らはかなりモテる部類だ。赤司くんも当然該当する。そんなことは僕達だけ でなくバスケ部なら、いやほぼ全ての生徒にも周知の事実である。だから、彼女は赤司くんにいつ恋人が出来てもお かしくないと思っているのだろう。


「戻って来ましたね」
「ど、どうなったんだろう」
「僕・・・思うんですけど告白じゃなかったんじゃないですか?」
「え!?で、でも女の子に呼び止められて行ったし」
「でも早過ぎると思います。委員会とかで一緒に職員室行ったとかだけな気もします」
「・・・!そ、そうだね!きっとそうだ!」


 そして、この単純なところもまた多くの人が言うように彼女の魅力のひとつである。安心したのかふーっと息を吐 くのも束の間。再び教室を出て赤司くんはまたどこかへと向かう。正直彼がこんなにも昼休みに出歩くなんて思わなかった。 だが、向かった先は図書室であり、どうやら難しそうな本を手に取りながら読んでいる。図書室は本棚がたくさんあるお陰でこ っそりと見るには好都合だ。彼女は真剣に本を読んでいる赤司くんの姿にさえ、うっとりとしたような顔で見ている。
 そのまま時間は過ぎ、予鈴が鳴り響く。どうやら長かった昼休みはあっという間に過ぎようとしていたらしい。


「テツヤくん、今日は本当にありがとう!」
「僕も少しドキドキして楽しかったです」
「またトライしようね」」


 持っていたノートに今日集めた赤司くんのデータをたくさん書き、彼女はとても満足した様子だった。「今度は赤司く んにお弁当作ってきちゃおうかな。なんて!」と僕から見ても恋を楽しむ可愛らしい女の子だった。(彼女のお弁 当の評判はあまりよろしくないらしいが)
 しかし、一見無事に終えたと思えた今日だが、どうやらそうではなかったらしい。


************************


「赤司くん、今日調子良さそうですね」
「ああ。・・・あ、そういえば」
「何ですか?」
「昼休みのアレはちゃんと断っているから」
「え?」


 部活中、いつもよりキレが良い赤司くんにいつものように話し掛けたら予想外の言葉が返ってきたので驚いた。 昼休みのアレ、とは間違いなく告白のことだろう。告白にしてはやたらと早く戻って来たのは、本当に瞬殺という くらいの速さで断りの言葉を告げたということか。彼女を安心させるためにああは言ったものの、それでもや はり告白だろうと思っていた僕はそこには驚かなかった。断ったというのも、もちろん納得出来る。(彼は彼女が 好きだろうから)でも、まさかつけていたことを気づかれていたなんて。もしかしたら、という思いはあったが、 やはり実際にバレていたと思うと驚きである。


「流石赤司くん・・・」


 きっと彼に隠し事は出来ないだろう。もし彼女が赤司くんと結ばれても、苦労するかもしれない。そう一瞬思っ たが、よく考えれば彼女は隠し事など出来るタイプではないし、素直の塊で出来ているような人間でもあるため、むしろ彼女の ほうがペースを握るかもしれない。色々な意味でお似合いだろうなと思った。


「あ、黒子っち。お昼頑張ったっスね」
「結局赤司くんは全部分かってたみたいですけど」
「そうなんスか!?すっげー」
「まぁでも彼女的には色々と収穫があったみたいですし、良かったんだと思います」
「いやー、本当っちってすごいっスよね」
「・・・僕は黄瀬くんもすごいと思いますよ」
「え?何でっスか、急に」


 彼女は気づいていないだろうが、黄瀬くんが言葉通りだいぶ離れた距離で僕達を見ていたのには気づいていた。 自分の立ち位置を理解しながら、彼もまた彼女を見守っていたのだろう。それは恐らく僕達とは違う感情からか もしれないが、僕は彼が一番すごいと思う。


「僕は自分が傷ついてまで好きな人を応援出来るほど器用じゃありませんから」


完全な一番の第三者は僕かもしれない。




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